それぞれの思惑 ※存外人ってのはエグい考え方してるもんです
ごめん、3ヶ月ってねぇ……コレでもがんばったんだよ? 褒めて褒めてry
タモン・フライドランはブノーサの口から告げられた通信の内容に驚愕した。地上に下ろした先遣隊と調査部隊の全滅。先に調査していた部隊が旧世界の遺跡の調査中何者かの攻撃を受けたという。増援として各地に散らばっていた部隊を呼び寄せる通信が最後の通信だった。事実を受け止める間もなくブノーサは冷徹に吐き捨てる
「ふん。まぁいい、代わりはいくらでもいる。例の遺跡の近くに箱舟を移動させろ。箱舟の搭載兵器で遺跡ごと敵を潰せばいい。こんなチンケな事にかまう暇はない」
タモンは苦々しい顔を隠しつつ、箱舟内部に残る兵に通信を取る
「先遣部隊が謎の敵の攻撃にあい全滅した。これより先遣部隊の通信が途絶えたポイントに向かう、後発隊は降下準備せよ。広域殲滅火薬筒を投下の後任務を開始する。兵器管制官は火薬筒の準備をせよ」
巨大な箱舟はゆっくりと移動を開始した。
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研究所
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「さて、と。次はどう出てくるかな」
遺跡内部の大広間で、兵士の死体をあさりながら黒野は次の作戦を考えていた。通信機を弄繰り回していると、向こうの総帥らしき人物がこちらに箱舟ごと来るらしいとの通信を傍受できた。それも着いたら着いたでこの辺り一帯を焼き尽くすらしい。血の気の多いというか、火薬バカというか。
黒野でも膨大な質量のものを破壊するのには少々骨が折れる。危険な目にはあわせたくないが、最悪あの娘達の力を借りなければいけないかもしれない。時間があれば箱舟の内部に侵入して色々と細工して爆破も出来ただろうが、敵は現在こちらに着つつ焼き払う準備を進めている。あの施設にはルラトの発電充電器があるのだ、焼き払われるわけにはいかない。
どうしたものかと思案しつつ黒野は機械兵の遺品を物色する。敵が来るまでの時間は無限ではない、一秒たりとも無駄にはできない。
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箱舟内部
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「さてさて、何を貰ってあげようかしら~?」
薄暗い箱舟の廊下、悠々と歩く一人の女性がいた。黒野たちと同じくこの世界に似つかわしくない有機物で出来た体を持つ、黒野と同じにして対極の存在。ディエン・ラウムー。
同じくこの世界に来た黒野達に挨拶した後、彼女は箱舟が下りてくるのをじっと待ち、箱舟がある程度の高さまで降下したときに『銃魔術』を用いて船内に潜入していたのだ
「この世界は有数の戦争世界。私の愛銃もそろそろチューンナップしたいところだったし、応用の利きそうな武器が手に入って良かったわね~。それに」
腕にはめた腕輪をチラリと見やるディエン。そこには以前滞在した世界で手に入れるはずだったものの残骸が、赤い宝石としてはめ込まれ薄暗い中でも輝きを放っている
「あの白髪男からの思わぬ貢物は嬉しい計算外だったわね~。あ、あげるって言われたから貰ったのであって、棄てるのももったいないから貰ってあげてるだけ。そうよ。
あの男は魔女を手にし、私は魔石……の絞りカスだけど……を手に出来た。いい感じに動かせば私の目的に利用できそうね~。コレはあくまで手を借りてるんじゃ無くて、あの男が勝手に私の思うように動いてくれてるってだけなんだからね!」
何に対してツンデレているのかわからないが、腕輪をさすりながらブツブツ呟くディエン。気を取り直して、ぱちん、と手を鳴らしてこれから狙うターゲットを思案する。正直ここの世界は滅びきっており、お宝らしいお宝はないが一つだけ気になるものがある。
泥棒をやっておきながら実はディエンは歴史が好きだ。なぜなら魔術というものは、雄大な歴史の流れの中で創られる物語を原型とするものが多いからだ。
様々な世界を渡り歩き、彼女はその世界の歴史に触れつつ様々な魔術を独自に生み出し、果てはそれを近代兵器に組み込む事すらやってのけた。彼女は泥棒ではあるが、まごう事なき魔術の天才なのである
「この世界の歴史……この船の中に保存されているかしら?」
と、ディエンの目の前に別通路から機械兵が2名現れた。この2名は兵器管理人だ。広域殲滅火薬筒の整備も行っている。目の前の侵入者を見つけ、警報を鳴らそうとした瞬間銃声が2発。ディエンが閃光のような速さでリボルバーマスケットを2丁召還し、込められた魔弾を放ったのだ
「亜空間転移魔方陣弾」
放たれた魔弾は機械兵のド真ん中に命中し、彼らの中心部に黒い渦巻きを作る
「端的に言うと、超小型ブラックホール発生弾。流石に範囲指定したり、暴発防止加工をするのに大分骨が折れたけど、旨く機能してるみたいでよかった♪」
兵隊達は何が起こっているのかもわからずに、自分の体の中心に発生した渦に飲み込まれて消えた。後に残ったのは静寂のみ
「さて、この船のデータベースは……ここかしら~?」
何事も無かったかのように悠々と歩くディエン。そしてそれらしき部屋の看板を見て満足げに微笑む。扉には『情報管理質』とある。再び銃を取り出し、躊躇無くノブに向かって発砲、カギを撃ち壊して中へと入っていった。己の欲望にもっとも忠実に生きる女。彼女の欲望はこの後どういう風に影響するのだろうか。そして端末に齧りつくこと数時間。
「ン~…… ふわぁ……はぁ。無駄足だったかなぁ」
欠伸をしつつディエンは固まった体をほぐすため伸びをする。数時間も夢中で資料を見ていたのだ、体の節々がコキコキと鳴る
ディエンが求めているのは歴史だ。だが箱舟内部の情報管理室には戦争の勝敗や、兵器の売買記録しか残っていなあった。兵器の設計図なども無く、あくまで彼らは使用者であり、製作はまた別のところだったのだろう。武器が無くなったら素手で戦争でもする気だったのだろうか。
数時間粘っても成果は皆無、それどころか貴重な魔弾を2発も使ってしまった。あの2発を作り魔術を込めるのにどれだけの労力が必要だったか。手に入れたのはお宝どころか徒労だけ、ディエンの機嫌はどんどん悪くなっていく。なので
「この船沈めちゃおうかしら」
八つ当たりをすることにした。
「勘違いしないでほしいのがこれは新しく作った魔弾の試し撃ちってだけで、べつに八つ当たりなんかじゃないんだからね!」
一人でやってて虚しくないのであろうか。巨乳メガネおっとりドジッコ泥棒お姉さん属性にさらにツンデレ追加。もうこれ以上キャラをゴチャゴチャさせてほしくないものである
「ちょっとくらいボケてもいいじゃない……」
マスケットのリボルバーをカラカラ回しながら、誰に言うわけでもなくディエンは一人ごちた
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管制室
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「どうしたタモン」
「……兵器管理人二人の反応が消えました。何者かがこの船の中に侵入しているようです」
「……ッち、どうにもいけすかん空気になってきたな。私が苦境にいるなど反吐が出る」
「(貴様といるだけで私は常に反吐が出そうだよ、腐ったエンジンオイルよりも汚い野郎め)」
ぼそりと本音を聞こえないようにこぼし、脇に携えた軍刀の柄を握り締るタモン。ゴタゴタに紛れてこの刃をコイツに叩き込んでやろうか。年を重ねてそれなりに達観したタモンですら不愉快になるほど、このブノーサは救いが無い
「まぁいい、時間はたっぷりある。予備の兵器管理人を呼び起こせ、ゆっくりと空の遊覧飛行としゃれ込もうではないか」
今すぐこの軍刀叩き込んでやろうか。こみ上げてくる吐き気に耐えつつ新たな兵器管理人を呼び起こすスイッチをならすタモン。いけ好かない雰囲気なのはタモンも感じていたが、だからといってタモン自身が行動を起こすわけにはいかなかった。この男にトドメをさすまで自分は死ぬわけにはいかないのだ
必ずこいつを地獄の底へ叩き落してやる。