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闇に紛れて※喫茶店主は趣味、なお本業は

いやはや長らく待たせて申し訳ない、これから忙しくなりそうなんでとりあえずコレだけ落す




 機械の体の兵隊達は無言で淡々と上からの指示をこなしていく。一応彼らも人ではあるが、彼らの人の名残は最早頭部にある黒い筒状のガラスの中の脳のみだ。


 闘い続けた先に彼らが知ったのは人の体では限界があり効率も悪いという事。彼らは己の手で殺す事に執着したため己の体を機械と融合させ改造し生きながらえることで戦いを楽しんでいた



 だがそんな改造と戦い修復そして改造と繰り返していくうち、彼らは脳のみの存在となり戦いによる快楽のみを求め続ける幽鬼と化した。人としての体裁を保てているのは箱舟に乗る事を義務付けられた権力者のみとなった。権力者は権力者で私利私欲に心が歪んでいるのでコレも人として呼んでいいのかわからないところではあるが。




 と、一人の機械兵の頭部ガラス管に衝撃が走った事を知らせるエラー音が響く。周りにいた機械兵たちがそのエラー音を聞きつけその方向へと頭を向けると、頭部ガラス管を弾丸で打ち抜かれ倒れ伏す同僚の姿があった。



 瞬時に手に持った武器を構えなおし辺りを索敵する。と、岩陰から人影が姿を現した。この世界の住民らしくない、有機物で構成された体を持っている。手には自分たちから見て原始的な武器である銃を持ち、底の知れない不気味な薄ら笑いを浮かべている。


 と、その人が踵を返して逃げ出した。同僚を殺されて黙っていられるわけがない、即座に追跡に入ろうとする。が、またしても響くエラー音。どうやら神経伝達に異常が発生したらしく、体が思うように動かせなくなってしまった。計器を確認してみると体を動かすための神経伝達に使われている電気が異常をきたしている



 この世界の戦争はいたってシンプル。策などろうせず正面から撃ち合って相手を滅ぼすまで闘うといったものだ。電気は機械カラダを動かすためにあるものという固定概念に囚われ、こういったジャミング等の電気の応用法などは知らなかったようである。



 まるで機械(実際ほとんどが機械なのだが)の様にぎこちない動きではあるものの動く事はできる。機械兵達はえっちらおっちら逃げる人影を追う。そして彼らは旧世界の産物が残る建物へと誘い込まれた




 建物内部は荒廃しており、ガワは建物の体裁を保てているものの中身はボロボロの廃屋だった。当然といえば当然だが。と、よくよく探ると人が出入りしている形跡がある。機械兵達は内心笑みを浮かべた、ここに獲物がいる、と。顔が無いので笑いも表情もヘッタクレも無いが。散開しつつ奥へと進む




ガチン     バシュッ




 ある程度奥にまで進んだとき機械兵の一人の聴覚センサーに妙な音が反応した。ハッと周りを見渡すと数名の機械兵が、金属製のネットに絡め取られ壁に叩きつけられている。金属製のネットの網目には鋭い刺がついており、叩きつけられた機械兵たちの体のあちこちに刺さっている。叩きつけられた機械兵達の各部にスパークが走り、やがて機能停止した。



 機械兵たちの目はサーモグラフィーになっておりどんなに小さな敵でも見つけることが出来るのだが、如何せんこういった温度を持たない原始的なワナなどに弱い。先ほどのブービートラップは足元に張られた透明な釣り糸を踏むなどすることで発動するワナ、暗がりで移動していれば肉眼でも知覚しにくい。そして先ほどのジャミングが更に彼らの視界を制限していた



 一人の機械兵が錯乱し、やたらめったらに手に持った銃を乱射する。周りの機械兵は慌てて離れるが、壁や天井に弾痕が増えただけで何もない。


 一人の機械兵が一旦退避することを提案するが、次の瞬間その機械兵は頭を撃ち抜かれ倒れた。割れた頭部のガラス管から脳を浮かべていた液体が床に染み出す。


 建物のあちこちで仲間の反応が消えていく。機械兵たちの心に何かほの暗いものが蠢き始めた。戦場で戦っているときには感じなかったもの。彼らはその感情の正体が恐怖である事を知らない





 そのほの暗い感情に気付かないようにしながらスクラップを踏み越え進むと、大きな大広間らしき場所へと出た。壊れた家具や雑多なものが辺りに転がっている



 隊長格は辺りに散開していた兵達を呼び集める事にした。敵は少数だ、ならば物量に任せて叩き潰したほうが早い。



 隊長格は気付いていなかった、己が出した指示が恐怖によるものだと。そしてその指示がかくも愚かしい結果を招こうとも




 数分後、辺りに散らばっていた全部隊が施設内部へ集まってきた。隊長格が指示を出そうとした瞬間、彼らの聴覚センサーに大きな音が反応した。入り口が全て崩れ落ち、脱出不可能となった音だった。





「うん、ここまで重畳だね」




 建物を見下ろせる崖の上、黒野は火で炙ったタバコチョコを食みながらのんびり呟いた。




「いやはや、単純な奴らばかりで助かったよ。頭の切れるやつがいたらどうなるかわからなかったけれどね。この世界での戦の記録をある程度見たけど、正直つまらないにもほどがあったな……まぁ一種の男らしさは感じたけれど」




 黒野は手に持ったスイッチを押し込んだ。建物内部で複数の銃声が響く。




「彼らが集められた大きな部屋、そこに置かれた家具やらなんやらの陰に銃を仕込んで置いた。このスイッチを押せばそれが仕掛けで動いて弾が大きな音と共に発射される。


 大広間に集まる途中で蓄積された恐怖が一気に噴出し、手に持った武器を振りかざすようになる。音がした方向を見ればそこには仲間がいる。彼らはこう思うだろうね、 『音のした方向にいたコイツが誤射しやがった』 と。


 恐怖と怒りが交じり合い小競り合いが始まる、そこに重ねて銃撃音。爆ぜた恐怖は爆弾よりも恐ろしい兵器となる」





 黒野がポキリとタバコチョコを齧ると同時に建物内で銃撃戦が始まった。





 ピリリリリ。地上に降りた箱舟の司令室に無機質な音が響く。指令の席に座っているブノーサは机に置かれた受話器らしきものを耳に当てる。と、そこから発せられた暗号を聞きブノーサは目を見開いた。地上に先に下ろした部隊の全滅の知らせだった







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