封印された記憶 ※どんな過去があろうとも、貴方は決して一人ではありません
いやー大変でした。4時半おきで9時ごろ帰ってきたり、秋祭りがあったり、モンハン4Gでたり、いそがしくてしゃーねーのなんの。ってことでちょっと長めに投降よ
「彼女、何が目的だったんでしょうか?」
「さぁ、でもいずれわかるだろうね。さて、この世界の人類が帰還してきたら君たちには逃げてもらわなきゃならない」
「どういうことですか?! ま、まさか黒野さん一人でこの世界の人類を……」
「そういうこと。準備は入念にするし、ここは色々と武器も揃ってるから大丈夫だと思うしね」
いつもの柔和な笑みを浮かべながらとんでもないことを言ってみせる黒野。1cmくらいになったタバコチョコを口に押し込みながら黒野は考察する
「まずこの世界の人間が宇宙に逃げたのならおそらくそれは少数だ。どんな世界であれ自浄作用というのは途方もない時間が必要になる。その少数の人類ですら生きていれば消費するし、持っていける資源にも限りがある、普通に生きるなんて持っての外だ。その間資源も何もない宇宙で生き残る合理的な手段。コールドスリープだ」
「なんですかそれ?」
聞きなれない言葉に少女は首をかしげる
「ここにいた研究者らしき人が残した記録にあったんだ。いうなれば人間を冷凍して仮死状態にする、ってこと。タイマーをセットしておいてそのときが来たら冷凍状態を解除、再び活動を始める。こうすることで人間が長い時間生存する事ができるんだ。この世界の科学力じゃ造作も無かっただろうね」
再び黒野は机の上の機械をいじり始めた。今度は溶接ごてで、むき出しの基盤になにやらカラフルな電線を繋いでいく。作業しながら黒野はケムリを吸わないようにね、と少女に注意を呼びかける。
「それで、どうするんですか?」
「うん、とりあえずは奴らはこの世界の環境調査をすると思うんだ。それはこの建物も例外じゃないと思う、そこでトラップを仕掛ける。ルラトさんの充電室を上手いこと避けるように仕向けて、調べれば調べるほどドツボにはまるように。
この研究施設は割りと頑丈だし、使えるものもあるだろうから、その人たちもいきなりここを爆破しようとは思わないでしょう。いやぁ、夢だったんだ。リアル・ホーム・ア○ーン」
「私たちが逃げたとして、黒野さんはどうするんですか?」
「僕はここに残って罠とか起動しないと。大丈夫、仕損じはしないよ。目指せノーダメパーフェクト! ってね」
これがゲームなら良かったのだがこれは現実。怖いことをサラッといった後ニコリと笑う黒野。何度目か忘れてしまったが、少女は黒野に戦慄した。
ふと少女は思った。黒野は何故こんなにも平然としていられるのか? 火の世界での戦いでもそうだ。黒野曰く、黒野はただの一般人であり喫茶店主だ。そのただの一般人がなぜ銃を所持してあまつさえ使いこなし、躊躇なく人を攻撃できるのか。
見ず知らずの自分に優しくしてくれた黒野。ガナルの操る巨大兵器に果敢にも挑みかかっていた黒野。これらが同じ人間の中にあるとは思えない。溶接が終わったのか、基盤をなにかのなかへしまっている黒野に少女は問う
「あの、黒野さん……」
「なんだい?」
「何故黒野さんはそうも闘えるんですか?」
「闘える、とは?」
少女の唐突な質問に黒野は作業をする手を止め、怪訝な表情を浮かべた。だが次の瞬間にはいつもの笑顔が浮かんでいる
「その……人間は、その、人にもよりますけど、傷付けることはあまり得意ではないですよね……殺人とか…」
「まぁ、一般的にはそうだろうね」
「黒野さんは世界を守るためとはいえ……こういう、その、殺人に抵抗はないんですか?」
笑みを浮かべたまま視線を落とし、寂しそうにため息をつく黒野。まずかっただろうか。でも少女は気にせずに入られなかった。おせっかいかもしれない、聞いて欲しくなかったかもしれない。でも
「……ここではっきりさせたほうがいいのかもね、長い付き合いになるだろうし。それで僕からも確認したいんだ」
「なんですか?」
「君は、どれくらい世界の裏側を見てきたのかな?」
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行間
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「これから僕が話すことは子どもに話すにはあまりに酷く、残酷なものばかりだ。君がそれに耐えられるのなら僕は話すよ。失礼だけど、どうやら君の精神とその身体はあまり一致していないようだしね」
「やっぱりわかってしまいますか」
「ああ。子どもの背伸びにしちゃ堂に入りすぎてるし、立ち振る舞いがどちらかといえば大人だったからね。それに、こんな小さい子は普通1店舗の店の経理なんてできないから」
「あ」
納得である。隠そうともしていなかったが見破られて当然か。
「ともあれ、その質問に答えるには少々時間が早いかな。夜になったらまた呼ぶよ。」
このとき少女は知る由もなかった。彼の真っ白な髪に隠された秘密を。闇より暗く、鮮血よりも赤い。彼の身体に流れる呪われた血の過去を
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行間
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「ルラトさん」
「ウクッ?! な、なに?」
相変わらず薄暗いが、朝食を食べて数時間ほどたったころ。疲れて拠点に戻ったソニアに変わって黒野がルラトの元へやってきた。恒星が死に掛けているゆえ、時間経過しても変わらない薄暗い空を見上げて、ボーッとしていたルラトは急に話しかけられて驚いたようだ。もうこの子人間でいいんじゃないかな
「空、好きなの?」
「ウク、好きでも、嫌いでもない……でも、ボーッとしてるの、好き…」
「そっか」
その後しばらく二人でボーッと曇り空を見上げる。どんな天候であれ空を見ていると、雄大な自然に抱かれているようで安らぎを覚える。黒野は空を見上げながら過ごす、ゆったりと流れる時間が好きだった
「ルラトさん、キミは元々人間だったね?」
曇天の中、さらりと凄まじい爆弾発言が投下された。そんな突拍子も無い話にも動じず無表情のルラト
「ウク、どしてそう思う?」
「発達した科学力を持つこの世界。確かに感情を持つアンドロイドが開発されてもおかしくはないけど、争いに感情は必要ないからね。君が開発される道理がないんだ。気になって拠点を調べてみたら、君の出生について書かれた資料があった」
「…………」
ルラトは相変わらず空を見上げながら黙って聞いている。何を考えているのか、黒野でもその無表情からは何も読み取れなかった。
「これから君に話すのは今の君にとって酷なことかもしれない。でも僕だって生半可な覚悟でこの話をしようとは思っていない。キミを受け入れるために必要な事なんだ。キミが変わると言うのなら僕は喜んで手を差し伸べる、拒むのなら無理強いはしない。君はどうしたい? 君の意志で決めるんだ」
普通ならロボットに感情論の判断を任せるなどありえない。だが黒野には、最早彼女はロボットに見えなかった。ルラトは何かを思い出すように目を閉じる。風に吹かれて銀髪がたなびいた。その目を瞑った表情があまりに美しく、黒野は一瞬目を奪われた
「………ワタシのアタマのナカの記憶には、大きくケツラクしたブブンがある。でも、ワタシは記憶をケツラクさせるほどそれほどおおきなショウゲキを受けたこともない。ワタシは知りたい。ワタシが生まれたイミを。ワタシは、なぜここにいるのかを」
空から目を離し、いつもの表情で黒野を見やるルラト。その表情に黒野はフッと笑みをこぼす
「やはりキミはロボットなんかじゃない。人間だよ」
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過去
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ある世界に一つの家族が暮らしていた。戦いに次ぐ戦いによって荒み切った世界には似つかわしくない、絵に描いたような幸せそうな家族。優しい父母、人見知りだが両親の優しさを継ぐ娘。その家族は争いが耐えない世の中なりに平穏に暮らしていた。
はずだった。
ある時娘が病魔に襲われる。原因はこの世界の汚れきった空気に含まれる毒素による中毒。元々娘は身体が強くなく、日に日に娘は衰弱していくがそれでも家族は笑顔を絶やさず生きていた。だが娘の身体に蓄積された毒素は確実に彼女を蝕み、死へと追い込んでいった。
父母は機械技師だった。助けて見せる。どんな犠牲を払おうとも、娘だけは。大切なものを失いたくないがため、両親は大きな賭けに出た。娘への愛情が徐々に歪に捻じ曲がっていく
両親が娘を助けるため試みたのは人間の身体から機械の体へと娘の全てを移植するというもの。
娘だけでも。行き過ぎた親心が一種の狂気になりつつあった。両親は娘のために人型機械の開発を昼夜問わず行った、肝心の娘との時間を蔑ろにして。皮肉にも両親が開発に没頭し始めた頃から娘の意識は戻らなくなっていた。
そんな家族を更なる絶望が襲う
ある日の朝だった。突如としてその世界の住民全てに伝えられたのは、この世界が後数時間で焦土と化すというもの。傲慢な権力者達は守るべき民を見捨て自分達だけで安全な空へと上がることで生き残り、次世代に命を繋ぐという。
世界は混乱と絶望、あらゆる負の感情で満たされた。混乱の中、両親はついに娘を機械の身体に移植する事を決意。そのときには娘は既に機械に繋いでいないと生きられないほど衰弱していた。
施術は成功、娘の全ては機械の体へ移った。だが計算外のことが一つあった。娘の心が身体に適応するのが遅く、施術直後は機械とさほど変わらないほど無感情になってしまったのだ。
そしてそのまま両親は世界ごと炎に飲まれた。感情を無くした娘一人を置き去りにして。全てが焦土へと変わっていく中、人でなくなってしまった少女はぼんやりとその光景を眺めていた。
「キミが今のように感情が乏しくなったのは自分の肉体の変化に精神がついていけなかったから。そうでもしないと君はおそらく精神崩壊を起こしていただろう。そして僕らと出会い、それが刺激となって奥底に封印されていた感情が覚醒し始めた。と、こんなところかな」
ルラトがふいに目線を地面に落とす。手は小刻みに振るえ、目線が泳ぎ、今にも泣き出しそうな表情になる。だが涙は流せない、彼女の身体に涙腺は装備されていなかった。
「ッく、これ……なんだろ………わからない……ワカラナイよ……わカらナイ………ッッ」
「………………」
黒野は無言で彼女に近づき、優しく抱きしめた。腕の中の少女が壊れてしまわぬように。
「お父さん……お母さん…………」
ルラトは懐かしい感覚を思い出す。遠い日に失ったと思っていた暖かな感覚。ルラトの腕は自然と動き、黒野に甘えるように抱きしめ返していた。