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混沌と悲哀に満たされた世界 ※恋愛は混沌の下僕ではありません



 扉を抜けるとそこは闇の世界でした



 3人が立っていたのは混沌渦巻く黒い大地だった。漫画とかでよくある魔界のイメージに良く似ている。


 空気は若干淀み、なにか言いようのない重圧が漂っているようで若干息苦しい。荒れ果てた大地を見渡しても、枯れたような木が数本立っていたり、大小さまざまな岩が転がっていたり、遠くに大きな山の輪郭が見える程度でほとんど何もない



「ここが闇の世界、ねぇ。それらしいといえばそれらしいかな。空気が喫煙スペースみたいに息苦しいのはいただけないかな」


「タバコは私も苦手だ! というより煙いの全般がだめだけど」



 ソニアがうんうんと頷く。ちなみにゼニシアは黒野の意向で全席禁煙だ。タバコの煙でコーヒーの香りが壊されるのと、黒野自身がタバコ嫌いだからだ。店の中でタバコを吸おうものなら、次の瞬間その客は外の植え込みの中へと埋められる



「その意見には激しく同意するよ。ふむ……」



 黒野がしゃがんで足元の砂を拾って掌で転がす。乾燥し、カピカピの大地は砂や泥というより、長年積もったホコリや長年放っておいた泥汚れを連想させる。少し触っただけにもかかわらず、黒野の手は真っ黒になってしまっていた



「びっくりするほどやせ細ってるね……小学校とかのグラウンドの砂を立ち悪く変色させたみたいだ。話に聞いた植物が育つのも良くわかるよ」



 砂を捨て、手をパンパンと払いながら立ち上がる。と、眼前にピョコンと一筋の灰色の線。ゆっくり下を見ると、それは灰色の髪の毛をした女の子のアホ毛だった



「「「うぉおおぉぉ?!」」」


「ウク、ウクク……い、いい反応………ウクっ…」



 若干腹の立つ笑い方のこの少女。慎重は黒野の顎下くらい、見た目18歳くらいだろうか。地面に擦れるのではないかと思うくらい長い灰色の髪、少し気だるそうに開いた目。どどめ色の袖の長い服を着ており、その袖も地面に擦れそうである。



「えっと、改めて、こんにちは」


「う、ウクっ……コンニチハ?」


「あぁ、コレは挨拶だよ。出会った人に対する礼儀の一つだ」


「あ、ソユコト……ウククッ、コンニチハ……」



 あまり喋る事が得意ではないのか、ゆっくりとどもりながらも言葉を紡ぐ少女。


 前回の火の世界のように、この世界に来ていきなり死にかけるということはなかったものの、ほぼ見渡す限りの荒地だ。この少女に出会わなければどれにしろ途方にくれる羽目になっていただろう。とりあえずはこの少女からこの世界の事を聞き出すのが先決だろう



「ウクク……め、珍しいニオイがする……ウクッ」



 意味深な含み笑いで黒野たちを見据える灰髪の少女。だが黒野たちはその言葉を正面から受け止めていた



「え? そんなに臭うかなぁ? マズいなぁ、飲食関係の店でクサいのは……」


「いえ、クサくはないですよ?」


「むしろコーヒーのいい匂いがするな」



 黒野が服の腕の部分の匂いを嗅ぎ、少女とソニアが両側から黒野に鼻を近づけクンクン嗅ぐ。怪しい格好をした大人一人が幼女に両脇から匂いをかがれている珍妙な光景に、灰髪の少女は次の言葉を失ってしまった。なんとか頭を振って自意識を正常にし、再び言葉を紡ぐ



「そ、そうじゃなくて……」


「あぁ、まさか20代で加齢臭が出ようとは……加齢臭の元は食生活から来るんだったな……食生活見直すべきか? 割と栄養バランスには気を使ってるんだけど……」


「だから出てませんってば!」


「クロノのニオイ、俺は嫌いじゃないぞ?」



 聞いていないようだ。ちょっと涙目の灰髪の少女。



「ちょ、黒野さん! 泣いちゃってますよ?!」


「おぉっと、これは遊びすぎたかな?! ごめんね、ごめんね?! 許してなんていえないよね?! 酷すぎるよね?!」


「ほら、お前も嗅いでみろって、クロノのニオイ。なんかホッとするぞ?」



 ソニアに若干のニオイフェチ疑惑が上がったような気がするが、気にしないでおこう。それにしても先ほどからまったく話が進んでいない


▼=▼=▼

  行間

▲=▲=▲




「ゴメンね? なんだか緊張でもしてるのかと思ってボケ倒しちゃって…」


「い、いや……1周回っておもしろかった……ウクク……」




 あれから場が落ち着くまで数分かかった。最終的に黒野がタバコチョコを灰髪の少女に渡す事で何とか事態は収束した。


 灰髪の少女の名は『ルラト・ホテプ』。この荒野に一人で暮らしているらしい。そして彼女の話によるとこの世界は彼女以外人がいないらしい



「なんでこの世界には人がいないんだろう?」


「せ、センソウ……カンキョウハカイ……キガ……様々なフコウが重なった……ウミも枯れて……クウキは濁りきって……もう、イキモノはゼンメツした……それが、スウヒャクネンマエに起こったハナシ……」


「そこへ僕たちが現れたってとこか。あれ? どうしてルラトちゃんだけが生きてるんだろう……?」


「ウクク……い、いつからボクがイキモノだとサッカクしていた?」


「なん………だと……?!」



 ラトがおもむろに手を前に突き出す。と、ルラトの手首から先が凄まじい勢いで飛び出し、荒地にごろごろ転がっている岩のうち一つを粉剤してしまった。いわゆるロケットパンチである。黒野たち3人は目が点になり、顎は弛緩してあんぐり開いている。その様子を見てルラトが愉快そうにくぐもった笑いを漏らす



「ウク、ウククク……そ、そのハンノウが見たかった……ウクククククク…」



 よく見るとワイヤーが射出された拳から先と腕とを繋いでいる。シュリシュリと音を立てながらワイヤーを巻き取り、ガシャンといい音を立て腕に拳をつけた



「ウク、シュウノウも……カンペキ……」


「アンドロイドだったのか……技術の革新ってレベルじゃないね」



 驚きつつすぐにいつもの柔和な笑みを浮かべる黒野。それにしてもこの男、環境対応能力が高い。少女とソニアは砕けた岩が本物の岩なのかつついて検証している。どうやら本物らしかったが



「改めて、セツメイする……ここはヤミのセカイ、ニンゲンのゴウがコりカタまって出来たセカイ……ハッタツしたギジュツはソウゾウシュであるニンゲンにハンキを翻し、ケッカ、スベテはチに還った……」


「僕たちの世界も、ヘタすればこうなるかもしれないってことか……」


「どういうことだ?」



 ソニアが怪訝な表情をしながら黒野に尋ねる



「ソニアさんがいた世界も、僕らがいた世界も、この世界も、平行世界パラレルワールドなんだよ。世界同士は良く似ているけれど、でも互いがまったく同じじゃなくてどこか一方と違うところがある。


 ソニアさんがいた火の世界の地図を見たとき驚いたよ、僕らの住む世界の世界地図とほぼ変わらなかったんだ。そう考えると少々薄ら寒いけれどね」


「なんでだ?」


「今僕たちの住む世界は様々な環境問題、資源の枯渇、禁忌とされる技術……一歩間違えば……」


「ボクのいるこのセカイみたいになる……かな……ウクククク……」



 特徴的な笑い方で笑うルラト。精一杯の皮肉が込められたその笑いは、見ていて心が痛む。この機械人形ルラト人形キカイと呼ぶにはあまりにもニンゲンだった




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