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まさかの助っ人、そしてその頃 ※真摯なお願いは無碍にしてはいけません

 熱糸手甲ねっししゅこうマグリバ。黒野はそう名づけた。グローブから射出される細い赤い超高熱の糸。指定した対象を問答無用に溶断する、当たれば必殺の武器。だが強力過ぎて制御しづらい力と、射程範囲指定が難しいなど扱いづらい部分が多々ある。


 たった2%のパワーで巨大な金属の塊を切断できる威力を持つが、相手が巨大すぎて2%ではタロスの指を切断するのが限界。出力を上げれば決定打を与えることができるだろうが、代償としてグローブをはめている手が焼けるように痛む。



「(喫茶店始めたばっかりのとき、火傷ばっか作ってたな……)」



 誰かのために動くということは、己の事をかえりみないということ。やってやろうじゃないか。この手が焼け落ちてもいい。囚われの姫君、というより魔女君を助けようではないか



「おおおぉぉおぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉおお!!」



 黒野が勢いよく両手を広げると、黒野の背後にクモの巣のように赤い糸が張り巡らされた。黒野の両手の爪の間から血が滲み、地面に垂れる



「(まだだ! まだ足りない!! もっと! もっと力を!!)」



 手の血管が破裂するのではと思うくらいの痛みが両手を蝕む。だが黒野は力を使うのをやめたりはしない。目的が明確になった今、彼の迷いはとうに消えていた



「おのれ、異世界人が、その力を汚すんじゃなぁぁぁぁぁぁぁあああぁい!!」



 タロスの腕が振るわれる。黒野は拳が飛んでくる方向へと赤い糸を張り巡らせ、ネット状にして受け止める。力を存分に発揮できていないせいか、ネットは今にも引き千切れてしまいそうだ



「ッッ、ンのぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおお!!」



 糸を操る手に思い切り力をこめるが、相手の圧倒的物量に徐々に押されていく。このままでは焼き切るより早く自分が押しつぶされる。一旦隙を作れば小手先で巻き返すことも出来るだろうが、一撃を受け止めてしまった今、時既に遅し



「(くそ……)」



 巨大な拳が黒野を押しつぶそうとした瞬間、凄まじい速さの赤い閃光が黒野をその場から連れ去った。それはここに来たときに一度命を救ってくれた存在の一人、というか1匹



「チュー太君?!」


『ヂュイ!』



 燃えるような赤い色の体毛を持つ火鼠、チュー太が参陣した。背中の黒野を一瞥するチュー太。黒野はこう言っているように感じた



『僕の背を貸す、ご主人を必ず助ける。手を貸せ!』




 と、グローブから伸びる赤い糸がひとりでにチュー太へと巻きつき、手綱のような形になる。手の痛みも少し引いている。


 考えるのは後だ、今はあの巨大な棺桶に閉じ込められているヒロインの奪還を最優先とし、黒野は手綱を引きチュー太を走らせた







「ちょこまかとォ!」



 俊敏な動きで振るわれる巨大な拳を避けていくチュー太。チュー太は火鼠かそ、竹取物語にも少しだけ登場する伝説上の生き物である。


 タロスの装甲の一部が円状に開き、そこから火炎弾が射出される。あたりを火の海に変えながら執拗にクロノとチュー太を狙う。一発が直撃するが、燃え上がる炎を意に介さずチュー太は走り続けている。むしろその炎を取り込んでさらに強化されたようにも見える


 糸と同じ色の炎の毛皮が凄まじい速さで動くため、さながら赤い流星である。



「さすがチュー太君です、なんともありません、ねッ!!」



 タロスが地面を殴ったときに発生した大量の瓦礫を糸で絡めとり、そのまま投げ返すように投合し攻撃する黒野。高熱の糸で絡め取っているので、岩が投合時に燃え出す。だがタロスの金属の皮膚に傷はつかない。コレでも足りないのか



「チュー太!!」


『ヂュイ!!』



 黒野は作戦を変えた。チュー太のすばしこさを生かし超近距離線で挑む。密着すれば相手は手出しできない、黒野たちを攻撃すれば自分に攻撃が来るからだ。だがやはりそう簡単に近づかせてはくれない


 動力炉ソニアとの同調が進んでいるのか、動きがだんだん早くなってきている。あれだけの質量のものをよくこうも動かせるものだ。黒野は徐々に追い詰められていた






▼=▼=▼

 少し前

▲=▲=▲



「まったく黒野さんったら! モグ……私一人放置して! モグ…もぐ……帰ってきたら説教してやります! もぐ! …………グスン」



 ソニアの家に一人ぼっちで少女は待機していた。黒野が作り置きしていた食事を食べながら、少女は黒野に悪態をつき続けている。彼の居場所は羅針盤でわかるものの、少女にはそこまで行く足がなかった。町までならまだしも、黒野はその町よりさらに遠くにいる今からいくとなると確実に夜が明ける



「そりゃあ私は小さいですし、弱いかもしれませんよ? でも言い方って言うものがあるじゃないですか! もぐ……ゴックン。大人気オトナゲないですよ! モグ!」


「あら~? 美味しそうな匂い~♪ 私もいただいていいでしょうか~?」


「どうぞどうぞ。どうせ一人じゃ食べ切れませんし」


「あら、これ美味しいわね~」


「ですよね! それ私もお気に入りなんです! って誰ですかあなた?」


「あら、今更ね~?」



 無断でソニアの家に入り込み、少女にご飯を恵んでもらっていたのはディエン・ラウムーだった。ネットに絡めとられていたのを脱出したらしい。髪がまだ若干ネトネトしているらしく、髪をくしけずった指が糸を引いている




「それで、あなたはなぜこんなところに?」


「道に迷っちゃってね~。いい匂いに釣られてここにたどり着いたのよ~?」


「無断はダメでしょ無断は」


「そうかしらね~? うふふ」


「とはいえ、私も少し退屈だったので少し退屈が紛れました」


「あらあら、光栄ね~」


「えぇ、さすがにヘタレ泥棒が入ってくると退屈どころじゃありませんから」


「ヒドい言い様ね~? というか知ってたのね、私のこと」


「えぇ、黒野さんから聞きました。あざといメガネ巨乳泥棒に気をつけろと」


「割と本気で傷つくわね……」



 少女は置いていかれた鬱憤をディエンで晴らしているようだった。ディエンにはご愁傷様といっていく





悶話休題



「それで? 私になんのようですか? 霊石のある場所なら知りませんよ」


「それはいいわ、今クロノさんが何してるかわかるかしら~?」


「黒野さんは……知りません。なんだか、酷く落ち込んでどこかへ走り去ってしまいました」


「あら~、そうだったの……」



 数十秒ほど沈黙が流れる。沈黙を破ったのは少女だった



「黒野さんのところへ行くんですね?」


「あら~? わかっちゃったかしら?」



 ニコリとやわらかい笑みを浮かべるディエン。笑ってはいるが、その笑顔の真意は読み取れない、ある意味不気味な笑顔だった



「霊石を盗み返しに行くんですね?」


「そうね~。目の前で盗られちゃったし、それじゃ私のメンツが立たないからね」


「…………そういえば聞いたことがあります。私と同じような存在でありながら、世界を引っ掻き回しその世界の宝を根こそぎ奪い盗っていく人が居ると」


「あらあら~、やっぱりあなたもそうだったのね~? ということはあなたは仲介者かしら~?」


「狭間の盗人、ディエン・ラウムー……」


「わからないならいいわ、お邪魔しました~」



 そそくさと出て行こうとするディエン。ディエンがドアに手をかけようとした瞬間少女はディエンを呼び止めた。



「待ってください。私も付いていきます」



 少女の突然の申し出にディエンは思わずドアを開ける手を止めた。振り向かずに問いかける



「あらあら、遊びでやってるんじゃないのよ~? 正直邪魔になりそうだから付いてきてほしくないんだけれど~?」


「……黒野さんの居場所は私が知っています。教える代わりです」


「あらあら~、ウソツキは泥棒の始まりよ~?」


「現役泥棒のあなたに言われたくありません。それで、どうしますか?」



 顎に手をやり、少し考え込むような仕草をするディエン。



「……いいわ、手を貸してもらえるかしら? 私の小さなお友達?」


「私を甘く見ないでください」


「あら、ブーメラン発言って知ってるかしら~?」



 外に出ると、馬のような生物がソニアの家の前にいた。おそらくディエンがここに来る時に使った足だろう。ディエンが少女に手を伸ばす



「手を貸してあげるから乗りなさい、あとちゃんとしがみつく事。いいわね~?」


「無論です。そっちこそちゃんと案内どおりに動かしてくださいよ?」




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