倍加したラブレター
今朝の気分を言えば、半々といったところだ。
生まれて初めてもらったラブレターの相手は美少女だった。
これが良い点。
悪い点があるのなら、その相手を振ったことだ。
「本当にもったいないよな」
幼馴染の木下が言う。「なんであんな美少女を振るんだ。馬鹿なのか?」
「お前、見てたな」
「俺は別に興味なかったんだけどな。でも、あいつが痛ッ!」
振り返ると、夏希が木下の脛を蹴り上げていた。
「テイッ!テイッ!テイッ!これでもくらえ!」
「いてえよ、馬鹿やめろよッ!」
「ふんだ。それより真くん。なんで昨日は告白を断ったの?」
朝の登校時間。校舎1階の玄関ロビーには生徒が多くいて、その中には女子生徒も多くいた。
「声がでかいよ。昨日のあの子がいたらどうするんだよッ!」
「真くんもで声でかいよ」
僕は靴を脱ぎ、下駄箱のシューズを取り出した。
「別に……ただ僕は……」
お前のことが好きなんだ、とこのタイミングで言えたらもしかしたら最高なのでは?
そんなことを考えていたのも束の間、「あ」と夏希が小さな声を出した。その視線の先には、パタッと地面に落ちた封筒があった。
封筒の宛名には僕の名前が書かれていた。
ここまでは前回と同じだった。だが、封筒の数は2通に増えていた。
◆◇◆◇◆◇
お昼休み。弁当を忘れたので食堂で昼食をとることにした。すると、弁当持参の夏希と木下もついてきてくれた。
「真くん。さっきのラブレター、もう中身確認したの?」
「いや、まだ。これから読む予定だ」
「うわっ、ひっどい。やっぱりモテてる人は違うね」
「うるさいな」
なんだろう?昨日の今日で二回もラブレターがきた。モテ期でもやってきたのか?
食堂は食券を購入してから列に並ぶ決まりだった。だから食堂前にある券売機の列に僕だけ並んだ。他の二人は自動販売機の前で何か話している。
――なにを話し込んでいるだ?楽しそうだな。
夏希と木下を見ていると突然、二人の女子生徒がその間に割り込んできた。
「あの西園寺先輩」
「え?」
『これ受け取ってください!』
女子生徒二人は華奢な身体つきで、頬をピンク色に染めていた。左にいる女の子は栗色の髪を肩まで伸ばし、もうひとりはボーイッシュな髪型がよく似合う女の子だった。
二人が差し出したものは動物のキャラクターがプリントされたハンカチで包んだ弁当だった。
咄嗟に二つとも受け取ると、女子生徒は「やった」とお互いの顔を見て、その場を走り去ってしまった。
突然の出来事に僕は呆然としていて、周囲からも好奇の視線が集まり始めていた。
自動販売機前にいた夏希も木下もそれは同じだった。






