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天使と悪魔と窮地と

「――戦いの準備は出来たか」

 ディアボロスとの契約を交わしてからちょうど24時間が経過した。5人の少女は一日前に来た何もない空間に集まり、同じ位置に立っていた。

 不安そうな顔をした奈々に、余裕の表情を見せる朱里、物憂げそうな奏、無表情を貫く唯、そして緊張の面持ちをした沙耶。考えることはそれぞれに様々のようで、それぞれに違う表情を見せていた。

「ルールは到着した先にある『拠点』の中にある本に書いてある。我は口出しせぬ故、熟読したうえで十分に理解しておけ」

 静寂が空間を包み込む。ディアボロスの言うことに誰も異議を唱えたり、疑問を挟もうとはしない。そもそもそこまで理解に苦しむルールではないであることもその要因だが、下手に口出しすることがマイナスになりかねないのが最大の要因だった。

「間もなく、地界……貴様たちがかつて生きていた世界へと転送する。それぞれの人間の距離は十分に離すつもりだ。故に、突然の襲撃を受けることはまずない。安心しろ」

 とは言われたものの、互いの実力が分かっていない彼女たちにとってそれが致命傷になるかチャンスになるか判断がつくわけが無い。彼女たちは表情を変えることなくディアボロスの話を黙々と聞き続ける。

「戦うもよし、逃げるもよし。正攻法も、卑怯な手を使うもよし。我は咎めぬ。……全てを晒し、我に全力を見せよ。我の為ではなく、己の為に、な」

 ククク、と低い声で笑うディアボロス。それに対して何か反応があるわけでもなく、じっと彼女たちはディアボロスの次の言葉を待つだけだ。

 続けて話そうとしたその時、不意に上を見上げ、ディアボロスは溜息をつく。

「……邪魔が入りそうだが、問題ない。転送を開始する」

 五人の少女の足元が淡く光り始め、その点を結ぶように五芒星が出来上がる。その中央に立つディアボロスはその場で合掌し、小さな声でぼそぼそと何かを呟く。その言葉は周りを囲む少女たちの耳には届かず、たた彼女たちは各々の表情を貫くだけだった。

 地面から伸びた光はやがて彼女たちの身体を包みこみ、透明なガラスと化していく。好奇心からか沙耶が手を伸ばし、軽くノックしてみるが、当然の如く何かが起こるわけでもなく、コンコンと無機質な音が鳴るだけだ。

 異変が起こったのはその直後。五芒星の中央、ディアボロス目がけて幾千もの光の矢が突如として空に現れ、降りかかってきたのだ。四方八方から襲いかかるそれらを一瞥し、しかし慌てる様子もなく首の傾きを元に戻し、念仏を唱え続ける。

 ――ガガガガガガガガッ!!

 流星群のようなものはディアボロスに届く前に宙で霧散してしまい、眩いばかりの一瞬もすぐに過ぎて空間をまた暗闇が支配する。

「驚かせたな、じきに終わる」

 短くかつ的確に、面倒くさそうな声で少女たちに謝罪と連絡をする。それと同時に空が光り、間もなく第二波の攻撃がディアボロスへと降りかかるが、一回目の時と全く同じ様子で打ち消される。全くの無傷で、ディアボロスはおろか、五人の少女、そしてその足元にある魔法陣にさえ傷がつくことはない。

 その間にも転送の準備は着々と進んでおり、最初は淡かった光も光度を増し、これから何かが起こるということがガラスの中に閉じ込められた少女たちからも認識することが出来る。

「残念だったな……転送はじきに完成する」

 そう言うとおもむろに右手を上げ、パチンと指を鳴らす。

 それを皮切りに地鳴りと地響きが始まり、五芒星の頂点周りの地面が軟化、少女たちはガラス諸々ぐちゃぐちゃの地面へと飲み込まれていく。

 その様子を見てか、突如ディアボロスと同じほどの背丈の男が彼の目の前に現れ、腰に手を回したかと思うと次の瞬間には剣を引き抜き、そのまま斬りかかる動きまでを確認したが、ディアボロスがそれを許すはずもなく、男の右腕を掴んで阻止する。

「……愚かだな。我を傷つけても何の解決にも成らぬことは分かっているだろう?」

 力を込めるも、ディアボロスの腕力には男の力ではどうすることもできず、何もできず終いのまま、少女達を閉じ込めたガラスは完全に地面の中へと消えてしまった。

 手遅れと分かったからか男は腕の力を緩め、剣をも落としてしまう。ディアボロスもそれに反応して腕を握るのを止め、解放してやる。

「貴様には、反省という言葉が抜けているのか、ディアボロス……!」

 表情こそ暗闇で見えないものの、男が放ったその言葉には明らかな怒気が含まれていた。

 それに対してディアボロスははぁ、と溜め息をつき、呆れた声で返した。

「貴様らが、我ら悪魔に力を与え、その王である我に神の称号と権力を与えたのが悪いのだ。今まで虐げられてきた種族が力を持てばどうなるか位、予想はついていたはずだがな、なあアージュよ」

 「ぐっ……」と言葉を詰まらせる男――聖霊神王アージュ。苦虫を噛み潰したような『敵』の顔を見て満足したのか、アージュの真横をすり抜けてどこかへと歩き出す。

「『チキュウ』へのアクセスを我に奪われ、それを利用してばら撒いたのは貴様ら天界の天使どもが使っていた術を掛けた、恐らく最強の生命体。そんな奴らがチキュウで暴れ始めたら、貴様の星はどうなることだろうな?」

「待て!まだ話は――」

「拳を以ても我に勝てぬ者に、口など無い。そこまで言うなら、プランの一つでも言って、我を楽しませてみることだな」

 アージュがその答えを紡ぎだす前にディアボロスは部屋を後にしてしまった。しかしディアボロスが仮にその場をすぐに去らなかったとしてもアージュはその質問に答えることが出来なかったために、どちらにしろその場に立ち尽くすだけだった。

「『転生人間計画』……まさか、天使よりも先に完成させてしまうとはな」

 誰もいない部屋でぼそっと呟き、アージュは部屋を後にした。


……

…………

………………


 地面に飲み込まれてから、5人の少女達はディアボロスの言うとおり、散り散りになった。

 その中でも沙耶の出発地は森の中――他4人の少女はおろか、人の気配すら全くしない、木々に囲まれた薄暗い場所だった。

「えっと……」

 急に放り出され、沙耶は混乱の極みにいた。ディアボロスのあの言い方からしてこのような状況になることは最悪のパターンとして想像していたが、まさかその通りになるとは露程も思っていなかったために、心の準備がいまいち出来ていなかったのが原因だろう。

 辺りを見渡しても何もないかと思って頭を抱えそうになったが、沙耶の正面にあからさまに人工の木造建築の小屋があることに気付き、誰もいないのに恥ずかしくなり顔が赤くなる。

「馬鹿だなぁ……」

 頭を掻きながら、沙耶はその小屋の中へととりあえず入ることにした。歩を進めようとし、足を上げた瞬間だった。

 ――ガキン!

 光の矢――魔力で編まれた、光の属性を帯びた魔法矢だった。少なくとも一般人のやることではない。

(まさか、嵌められた……?)

 逆方向に走り、逃げることにした。矢の精度はあまり良いとは言えなかったが、それでも沙耶を牽制するには十分な精度だった。

 時折沙耶も応戦するが、打たれている場所を特定することが出来ないために、反撃には至らない。

 空から降ってくる矢は数を段々と増していき、木々がいくらかは防いでくれているとはいえかなり際どいものがあった。実際、沙耶の装束の腕部分が矢で数か所引き裂かれている。

「この…………っ!!」

 我慢の限界に達したのか、ついに反撃の糸口を掴むための行動に出る。危険を顧みる余裕は彼女にはなかった。

 軽く助走をつけて、右足に力を入れて、左足を浮かせる。そして即座に左足に階段を上るようなイメージで筋力の代わりに魔力を注ぎ込むと――宙に浮き、やがて空を飛ぶ。

 高度が上がっていくと矢の精度が上がっていき、肩に一撃を貰うがその威力は高が知れているために、石ころを投げつけられた程度に収まる。

「誰だっ?!」

 木々を下から上へと抜け、やがて空と雲、そして一人の少女が見える。茶髪のポニーテールそして何よりも印象的な、それをくくる巨大なリボン。幼さではあの5人の中では飛びぬけて彼女が勝っているだろう。

 そう、候補者最後の一人、神楽唯である。

「残念だけど、沙耶さんには死んでもらわないといけない……私の『夢』のため……」

 すぅ、と手を前に伸ばすと彼女の手から眩い光が放たれると同時に、沙耶の身体全体に痛みが迸る。

 一瞬過ぎる出来事に沙耶の知覚が追いつかず、ただ痛みだけを享受する羽目になる。

 空中から地面に仰向けに叩き付けられて初めて意識を取り戻し、瞬時に転がって立ち上がり、逃走する。

(無理……!)

「雷撃の加護、今ここにっ!」

 加速。唯を振り切るほか今を無事に生きる方法は無い上に、もう一度あの攻撃を喰らえば恐らく逃げ切ることは不可能。ただひたすらに逃げるしか手段は無かった。

 相も変わらず降りかかる光の矢はここぞとばかりに弱った獲物を刺しにかかり、唯も高度を下げつつ矢を放ち続け、確実に沙耶を殺しにかかる。

「追いかけっこも疲れたし、そろそろ止めかな……?」

 空気が凍るような感じが沙耶には分かった。即ち、死期だ。唯の言葉からして、彼女は沙耶を弄んでいたのだろう。

(ゲームが始まってからすぐというのに、こんなにも唯が強いなんて、聞いていない!)

 最後の抵抗。前方に対魔法障壁を張って反転。僅かながらの力を右手に込め、近づく唯を冷静に見る。

 障壁にぶつかる矢で視界がゆがむが、死地を悟った沙耶にとって、それは些事であって、起死回生を狙うには全く問題ない。

 そして十分に引きつけたところで拳を固め、唯のモーションとほぼ同時に拳を飛ばした。

 ――パァアンッ!

 ダメージを与えたか、喰らったかもわからない。

 クラッカーを鳴らしたような、まるで場違いの音を最後に、沙耶の意識はフェードアウトした。

というわけで約2か月ぶりの更新……

皆様大変長らくお待たせいたしました!その割に内容はいつも通りのボリュームで申し訳ありません……


今回はディアボロスの敵対勢力の一人、「アージュ」。

そして候補者最後の一人、「神楽唯」です。

一話につき一人だったのに今回は一話で二人紹介してるじゃねーか!どういうことだ!とお怒りの方ももしかしたらいるかもしれませんが追々彼ら彼女たちには触れていく予定なのでご安心くださいませ。


物語は序章を抜け、本編へと進行します。

ここから本格的に話が進んでいくわけですねー。

こうご期待くださいませ。

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