002 茜ヶ原緑青と蝦夷グリーンランド
やっと続きの投稿になります。
放課後。部活の時間。
「く、ははははははははははははははははっ!」
不愉快な笑い声が聞こえる。部室の扉を開けると、案の定九十九里だった。
一年九組出席番号九番、九十九里九隠。クラスメイト。なのにいつも俺より早く部室に着いている。銀髪逆毛。大量のベルトポーチを装備しているのが特徴。ちなみに中に何が入っているのかは知らない。
今日は朝からずっと笑っている。というのも、
「……五月蝿い、九十九里」
「応、来たか、転校生!」
というわけである。
……そんなに俺の遅刻が面白いか。
教室を見回すと、朝とは違い、部員は全員集合していた。
「そんな呼び方は良くないですよ、九十九里さん。いくら茜ヶ原さんだって転校生なんて呼ばれたら怒りますよ」
一年八組、他クラスなので出席番号までは知らない八崎鉈花。烏の濡れ羽色の、俺の姉に負けず劣らず長い髪。日本人形のような、整った顔立ち。スカート長めの制服。物騒な名前とは結びつかない、典型的な優等生。確かクラスの委員長。
「でもさでもさ、アカネくんの失敗ってなかなか無くて面白いよね!」
そう言ったのは一年七組、同じく出席番号不明、逢魔刻手首。ツインテール。くりくりとした目。制服は、長めの上着に短いスカート。頭には魔女みたいな帽子を載せている。八崎とは対照的な外見。
「……」
そして俺、茜ヶ原緑青。
四人揃って図書委員会執行部。いやこれは部活とかじゃねーよ。動物園かなんかだろ。
「で、今日は何するんだ?」
「それがな、黒崎ちゃんがいねーのよ、で、二人と話してたわけ」
「嘘だー。九十九里はずーっとアカネくんの悪口言ってたんだよ」
あっさりバラされる九十九里だった。あと逢魔刻、アカネくん呼ばわりは止めろ。
「それで、四人揃ったら話し合いをしようと思いまして、茜ヶ原さんを待っていました」
どうも要領を得ていないが、まあいいか。どうせ先生の思い付きでできた部活だし。活動なんてあってないようなもんだ。
「で、どーすんよ転校生」
「転校生言うな。
……別に、俺が決める話じゃないだろ」
「どーすんよ」
両手を挙げて肩をすくめる九十九里。
「どうしよー」
ツインテールの毛先をいじりながら首をかしげる逢魔刻。
「どうしましょう、この子」
唇に人差し指を当てて、考えるような動作をする八崎。
一様に困る図書委員会執行部員たち。こういう場合、帰ればいいのに――って、『この子』?
「八崎。今『この子』って言ったか」
「はい、言いましたけど……」
改めて教室を見渡してみると、ここで初めてもう一つの人影に気付いた。
教室の後ろ、ロッカーの辺りに人間がいた。年は多分十歳くらいだろう。あんまり背は高くない。っていうか、なんで高校に小学生が。今は五月下旬。普通に授業があるはずだけど。
「えーっと、茜ヶ原さん、この子、蝦夷グリーンランドさんです」
蝦夷グリーンランド? およそ人の名前とは思えない。九十九里九隠とか八崎鉈花とか逢魔刻手首とかがまだマシに思えてくる。
「アカネくん、今、失礼なこと考えたよね」
バレたか。当然だけど。
「で、この子供をどうしろと?」
「しばらく預かって欲しいそうです」
「は?」