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第52話 在った頭文字

Side:エイタ

 家の中を歩いていたら、何か硬い物を踏んだ。

 慌てて足を退けると、お母さんのお気に入りの髪飾りがある。

 髪飾りは無残に折れ曲がっていた。

 直さなきゃ。

 力を入れて曲がった部分を元に戻そうとする。

 あれっ、何だか、ぐにゃぐにゃになった。

 必死で何度も挑戦する。

 さらに酷くなった。


「うわーん!」


 もうどうしていいか分からない。

 僕は泣いてしまった。


「あらあらどうしたの?」


 お母さんが僕の声を聞いたのだろう、やって来た。


「これっ、踏んで壊れちゃった。ごめん。直そうと思ったけど上手く行かなくて。ぐすっ」

「足は大丈夫だった」

「うん、すん」

「ごめんね。母さんも悪かったわ。床に髪飾りを落としていたのに気が付かなくって」

「僕こそごめん。ぐすっ」

「あなたに怪我がないのだったら良かったわ。さあ泣き止んで。物はいつか壊れるものよ。だから大事に使うの」


 お母さんは髪飾りを確かめると、悲しそうな笑顔になった


「これっ、大事なものじゃないの」

「お父さんから貰った最初のプレゼントなの。でも思い出の品はまだあるわ。気にしないで」

「絶対に僕が直す」

「諦めなさい」

「ううん、お店に持って行く」


 僕の宝物を持ってお店に行く。

 宝物と引き換えに、お兄さんが直してくれることになった。

 何度も足を運び、ついに直った。


 お兄さんは凄い。

 凄腕なんだ。

 でないとあんな状態からは直らない。


 僕も大きくなったら、父さんの跡を継いで立派な商人になる。


 家に戻るとお母さんは夕飯の支度をしてた。

 さっそくお母さんに見せる。


「あら、直ったのね。でもきっと似せて作られた新品ね。同じ職人の手による物かしら。よく見つけたわね」


 お母さんは少し笑顔だけど、まだぎこちないような気がする。

 駄目だったんだ。


 お母さんはテーブルの上に髪飾りを置いた。

 やっぱり着けないのか。

 偽物だから、気に入らなかった。


 騙された気分だ。

 お兄さんなんか嫌いだ。

 あんな店は二度と行かない。

 大きい店だから、良いと思ったのに。

 きっと悪い事して儲けているんだ。


 お父さんがよく悪徳商人の話をするけど、お兄さんもきっとそうだ。


「お手伝いする」

「ええ、スプーンとフォークとナイフを並べて」


 お手伝いを申し出た僕の行動が嬉しかったのだろう、お母さんは少し笑顔になった。

 僕は償いにこれから毎日お手伝いをしよう。


 料理も一部分手伝った。

 夕食の支度が整った。

 今日も美味しそうだ。

 でも今日の夕ご飯はきっと美味しくない。


 お母さんもまだ少し悲しそうだ。

 僕、お小遣い貯めてお母さんに髪留めをプレゼントするよ。

 それも凄い奴。


 そうすれば悲しみも完全になくなると思う。


「あの髪飾りの新品か」


 仕事を終えたお父さんが来て、テーブルの上の髪飾りを手に取って見る。


「古いのは壊れたから」


 お母さんの声には悲しみの色がある。

 悪い事をしたんだと、心が痛む。


「懐かしいな」


 そして、お父さんは髪飾りを裏返して、首を傾げた。


「あなたどうしたの?」

「なんでこれがあるんだ!」


 お父さんが驚きの声をあげた。

 お母さんがお父さんの手の髪飾りを覗き込む。


「えっ、嘘っ! ほんとだわ! 何故これが?!」


 お母さんは笑いながら泣いている。

 この涙は嫌じゃない。

 僕はやり遂げたんだ。


 お父さんも笑顔だ。

 何があったんだろう。


「この裏に俺が彫った二人の名前の頭文字は確かに俺の手による物だ。間違いない。良く似せられた偽物じゃない。これはきっと時空魔法が使われたに違いない」

「ええ、間違いない。この彫られた筆跡はあなたのもの」


「時空魔法って伝説の?」


 僕は気になって聞いてみた。


「ええ、絵本にあったでしょう」

「うん、覚えている」


 お兄さんは時空魔法使いなのかな。

 きっとどんな願いも叶えてしまうんだ。


「お店の人に良くお礼をいなさい。修理代はどうしたの?」

「僕の宝物と交換した」

「ああ、あの不思議な取っ手ね。宝石みたいだけど、宝石じゃない。価値があるものだったのね。でも時空魔法に比べたら安いわね」

「宝物はまた探せば良いんだ」

「あの不思議な取っ手は父さんが倉庫から見つけた物だぞ。また見つけてきてやろう。何に使うか分からない物より、新品に戻った髪飾りの方が何百倍も価値がある」

「そうね。あなた、髪飾りを着けて下さる」

「なんか懐かしいな。プレゼントした時のことを完全に思い出したよ」


 お父さんがお母さんに髪飾りを着ける。

 二人とも少し顔が赤い。

 でも嬉しそう。


 お兄さんのことを悪く思ってごめん。

 これから、毎日倉庫でお手伝いしよう。

 きっと何か見つかるはず。

 そしてお兄さんにまた魔法を使って貰うんだ。

 そして僕もいつか魔法使い商人になるんだ。

 お客さんの頼みを魔法で華麗に片付ける。

 なんて恰好いいんだ。


「エイタ、今日は早く寝なさい。絶対に起きないでね。トイレ行ってから寝るのよ」

「うん」


 いつにも増してお母さんとお父さんがいちゃいちゃしてる。

 それが嫌いじゃない。

 今日は良い夢が見れそう。


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