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第33話 試練

Side:ヤルダー


 僕はマギナ師匠の弟子のヤルダー。

 お師匠様が考え事をしている。

 新しい魔法について考えているのだろう。


「お師匠様、何を考えていたんですか?」

「温度計が溶けるほどの温度はどう測ったらいいのかと考えていた」

「それは難問ですね」


 お師匠様は凄い。

 僕はそんなことを考えたこともなかった。

 それどころか温度計すら知らなかった。


 熱を測る。

 さっぱり分からない。

 温度計の仕組みすら分からない。

 お師匠様が嬉しそうに外出の支度をしている。


「どちらへ?」

「シナグルの所に決まっているでしょう。今度こそ、ぎゃふんと言わせてやるのよ」

「それは私も見てみたいですね」


 お師匠様と一緒にマイスト工房に入る。

 1階の道に面した部屋は店舗で、奥が工房。

 2階は住居らしい。

 お師匠様は何回か2階に入られたらしいが。

 男の部屋などに入って欲しくない。

 お師匠様に変な噂が立ったらどうするんだ。

 シナグルという男が悪いに決まっている。


 だが、世間はそう見ないかも知れない。

 由々しき問題だ。


「こんにちは」

「おう、今度はどんな魔道具だ」


「温度計が溶けるほどの温度を測りたいのよ」

「簡単なのだと赤外線の出る量だな」

「全くなんで私の知らない原理を知っているの。それで赤外線って何? 赤の外の色ってこと?」

「そうだな。虹を知っているか」

「馬鹿にしないでよ」

「あれは太陽の光が分離されている。赤から紫だが。その外にも目に見えない光があるんだよ」

「なんで目に見えないのにあるって分かるの?」

「知らんけどそうなっている」


「ええと、光感知。赤の外の光だと見えない光。でも、光なのは感じる」

「まあな。明るい所は暖かかったりするからな。光の入らない部屋に熱した物を持ち込んでみろよ。赤外線だと光って見えるから」

「あなたの知らない知識ってあるのかしら」

「あるよ。俺なんか大したことはない」


「勝負だ」


 僕はお師匠様と嬉しそうにしているこの男が気にくわない。


「何の勝負」

「普通の温度計の原理は?」

「それは簡単だな。物ってのは熱くなると伸びる。冷たくなると縮む。ガラス管の中の液体がその原理で動いているだけだ。物体が本当に縮むかは時計屋に聞くといい振り子時計の振り子の長さが、夏と冬では変わるからな」

「くっ、何でだよ。何で」

「何に怒っているのか分からないが。その怒りを自分の成長に向けるんだな」


「お前ほどの知識があれば、浮浪児がみんな助かる」

「どうだろうな。この街の浮浪児が助かったとして、他の街はどうだ。他の国は? 完璧なんてものはないんだよ。物理法則すら疑問をもたれて定説が覆ったりする」

「でも、でも」


「ヤルダー、考えるのはいいこと。そして良いと思ったことを実践する」

「お師匠様、僕、僕! 僕どうしたら?!」

「できることをするんだよ。マギナもそう言っている」


 僕は土下座した。


「教えてくれ。どうやったら目につく浮浪児だけでも助けられる。今の僕はお金もないし、仕事も出来ない。これぐらいしかないんだ」

「おう、なんかむず痒い。そうだな、ただで教えるのもなんだから、試練を与えよう。たくさん作っても良い物を考えろ」

「ええと、食料」

「駄目だ」

「なぜ?」

「考えろ」


「なんか弟子の教育を押し付けたみたいで悪いね」

「いいさ。俺にもレポートに苦しめられた時があった。あれは地獄だったなぁ。でも成長できたような気もする」

「不思議な人」

「こらお師匠様から離れろ。浮浪児を救う件とこれは別問題だ」


「はいはい。マギナ、ヒントは出すなよ。考えさせるんだ」

「ええ」


 くそう、いっぱい作っても良い物なんて全部じゃないか。

 食い物だって服だってみんな沢山あれば良い。

 それじゃ駄目なのか。

 何がいけないんだ。

 分からない。


「なあ、何を作ったら良いと思う」


 浮浪児仲間に聞いてみた。


「何を作っても売れないさ。俺達の作る物なんて誰も買わない」


 そうだな。

 作っても売れなきゃだめだ。

 食料なら食っちまえるけど、同じ物ばかりでは飽きる。

 飽きたら物々交換か売らなきゃならない。

 僕は、身ぎれいな恰好をしてるから売れるかもよ。


 なんで駄目なんだろう。

 誰かに聞いてみるか。


「おばさん、市で食い物を売っているけど、僕達がすると何か問題があるかな」


 市場のおばさんに聞いてみた。


「あんたたち畑はあるのかい」

「ないけど」

「よそ様の土地に勝手に植えたら駄目だよ」

「道端でも」

「駄目だね。役人に捕まるか。作物を盗られてしまう」


 あー、なんで世の中って、こうも糞なんだ。

 食料は駄目だ。

 かと言ってモンスターの出る森は危ない。

 お師匠様から危険を口が酸っぱくなるほど言われている。


 うーん、難し過ぎてもう訳が分からない。

 何を作ったら良いんだ。

 森は駄目だから、薪拾いも駄目だな。

 ゴミ拾いは今までさんざんやってきた。


 金にはならない。

 たまにくず鉄とか拾えるけどそんなことはめったにない。

 しかも、それじゃ腹いっぱい食えない。


 なんて、無力なんだ。

 犯罪行為も駄目だ。

 これはお師匠様からも言われているが、浮浪児でかっぱらいが生業になった奴は死ぬ。

 捕まって大人に力一杯叩かれたら、良くても怪我。

 最悪は死だ。

 浮浪児仲間もみんな知っている。


 糞だな。

 残飯あさりだって、病気になって死ぬ奴が多い。

 お師匠様に言われた。

 腐った食べ物は死ぬ危険があると。


 伝令みたいな仕事に浮浪児を就かせちゃくれない。

 仕事は駄目だ。

 冒険者ギルドに入っても、たぶん1年で半数以上が死ぬ。


 浮浪児の卒業先はそこで、大抵死ぬ。


 何でだよ。

 くそう、考えろって、いい考えなんか浮かぶかよ。

 いままで本すらろくに読んでないんだぞ。


 お師匠様の家のベッドに寝そべって考える。

 明日こそは答えを見つけてやる。


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