第103話 魔獣筋
Side:ブルータ
今度こそは。
だが、近くに危機の反応はない。
遠出するには歩くのもつらい。
体が弱くなり過ぎだ。
少し前なら弱くなったなんて手下に知られたらぶっ殺されたところだ。
だが、手下は体に良い物を料理して、せっせと運んで来る。
「ありがとよ」
料理をたらふく食った俺は、感謝の言葉を口にした。
「頭の言葉で良心の痛みが和らぎました。俺達の感謝の言葉でも効くんですね」
「俺達はいま善人だからな」
「そりゃそうか」
絨毯でこの体を元通りにする魔道具を作ってもらう。
じゃないとやってられん。
体を元通りにする魔道具を。
念じたが、扉は出て来ない。
夜だからか。
明日だな。
体が眠りを欲しがってたのか、ぐっすり眠れた。
「扉よ出て来い」
やったぜ、扉が出て来た。
中にはシナグルと魔法使いの女がいた。
「邪魔するぜ」
「いらっしゃい」
「客は選んだ方が良いのでは」
「こいつは良いんだ。こんな面だが善人だ」
「シナグルが良いのなら」
「この体を元通りにしたい」
俺は絨毯を置いた。
「うーん」
何かしら不味いのか。
不満そうではない。
困った顔だ。
「この品じゃ不足だってのか?」
「いいや、質量保存の法則ってのがあってね。まあ覆されてはいるけど、大抵の場合は当てはまる」
「えっ、質量保存の法則って覆されているの。詳しく教えて」
「こいつが帰ったらな」
「小難しいことは分からん」
「簡単に言うと無い物から在る物は作れないってこと」
「肉でも何でも材料に使えよ」
「モンスターの肉だとそれは禁忌だろう。人間の肉でも禁忌だと思うし」
「モンスターの肉で構わないぜ。俺が狂ったら止めを刺してくれよ。どうせいつかは死ぬんだ。心情としては人を守ってすぐに死にたい」
「仕方ない奴だな。名前は何だっけ?」
「ブルータだ。もう、忘れるなよ」
「細胞、細胞、細胞♪細胞♪細胞、融合、細胞、細胞♪細胞、細胞、融合、細胞♪細胞、融合、細胞♪細胞♪細胞、融合、融合、細胞♪細胞、融合♪細胞、細胞♪細胞、融合、細胞♪。融合♪細胞、細胞、細胞、細胞♪細胞、融合♪融合♪。融合、細胞、融合、細胞♪細胞、融合♪融合、細胞♪。融合、融合、融合♪融合、細胞♪細胞、融合、細胞、細胞♪融合、細胞、融合、融合♪。融合、細胞、細胞、細胞♪細胞♪。細胞、細胞、融合♪細胞、細胞、細胞♪細胞♪融合、細胞、細胞♪。融合、細胞、細胞、細胞♪融合、細胞、融合、融合♪。融合♪細胞、細胞、細胞、細胞♪細胞♪。融合、細胞、細胞、細胞♪細胞、融合、細胞♪細胞、細胞、融合♪融合♪細胞、細胞、融合♪細胞、細胞、細胞♪。融合♪細胞、細胞、細胞、細胞♪細胞、細胞♪細胞♪細胞、細胞、細胞、融合♪細胞♪細胞、細胞、細胞♪。くっ、長いからミスった。もう一度だ」
何度かやって、核石が作られた。
でかい葉っぱの形の木材に、核石と溜石と導線が付けられて。
おっ、完成したようだな。
「お前の盗賊団しか使えない。自己再生の魔道具だ」
「おう、ありがとよ」
「教会が文句言いそうな魔道具ね」
「まあな。やたらめったらは作らない」
扉から出て、ボスフォレストウルフの肉を材料に魔道具を使う。
みるみる体が元通りになっていく。
何だか強くなったような。
ステータスを見ると、魔獣筋のスキルがある。
パッシブスキルらしい。
狂ったりはしないな。
こいつはいいや。
いや良くない。
死ぬのが遠ざかった。
危機を察知すると反応がある。
「おい、お前ら仕事だ」
手下を連れて現場に行くとオーガが暴れていた。
馬車が横倒しになっていて、商人の護衛達が逃げて行くのが見えた。
Aランクモンスターじゃ逃げるのもやむを得ない。
たぶん護衛はCランク辺りだ。
しかし、なんかオーガに楽勝で勝てる気がするんだよな。
大剣を振りかぶって、オーガの脛をぶった斬る。
オーガの片足は両断された。
ああ、けったくそ悪い。
片膝を付いて、頭の位置の下がったオーガの首を一撃で刎ねる。
オーガの肉がやけに美味そうだ。
俺は斬り落とされたオーガの足肉を噛み千切って咀嚼した。
味は悪いのだが、美味く感じる。
魔獣筋スキルの副作用か。
まあ、これぐらいなら問題はない。
狂暴になるような感じはないからな。
でかいオーガの片足を食いきってしまった。
ふう、満足満足。
「あ、あ、あの、オーガの生肉って美味しいのですか?」
怯えまくった商人にそう言われた。
「スキルの副作用だ」
「そうですか。では仕方ありませんね。オーガの皮を引き取りたいのですが」
「ああ、心のこもった品を代金として頂く」
「心のこもった品? ではこれを差し上げましょう」
貰ったのは、見るからに素人が作ったお守り。
お守りの中を見ると古い金貨が入っていた。
この金貨はたぶんかなりのお宝だな。
オーガの皮と釣り合う金額なのだろう。
商人の馬車を修理してやってなんとか動かせるようにした。
くそっ、今回も生き残った。
オーガを2撃って、強くなり過ぎだろう。
ドラゴンとでもやらないと死ねないかもな。
焦って、モンスターの肉なんて体に入れなきゃ良かった。
フォレストウルフの時に、片腕を持って行かれた奴が何人かいる。
げっそりと痩せているからすぐに分かる。
くくくっ、お前らも同じ目に遭え。
オーガの肉をそいつらの体の修復に使ってやった。
「何か強くなった気が」
「くくっ、簡単に死ねない体にしてやったぜ」
「横暴だ」
「普通の奴らも、腕や足を食われても、モンスターの肉を使って元通りにしてやるからな」
「死ぬのが難しくなったのか」
「即死しないといけないらしいぜ」
「難しいな。フォレストウルフの時みたいにわざと隙を晒してもモンスターは食いつかない」
「どうやったら死ねるかな」
「お前らは、俺が死ぬより先に死なせない」
「お取込み中の所失礼します。今回はありがとうございました」
商人がお礼を言いに来た。
「道中気をつけてな」
商人の謝礼の言葉で良心の痛みが少し減る。
しばらくはこれで我慢するしかないか。
いつか人を救って壮絶に死んでやるぜ。
商人の馬車を見送った。




