第1話 ここどこだよ
目が覚めたとき、最初に見えたのは空だった。
雲ひとつない、やけに綺麗な青空。
三郎「……は?」
思わず声が出る。
次に感じたのは、背中の違和感だ。固い。痛い。
どうやら地面に寝転がっていたらしい。
三郎「……なんだこれ」
ゆっくりと体を起こす。
周囲を見渡す。
岩場。海。波の音。
——知らない場所だった。
三郎「いやいやいや……」
記憶を探る。
昨日は普通に仕事をして、帰って、飯を食って……そのあと。
三郎「……寝た、よな」
少なくとも、こんな場所に来る理由はない。
三郎「夢か?」
頬をつねる。
痛い。
三郎「……夢じゃねぇのかよ」
そのとき。
ふわり、と風が揺れた。
三郎「——は?」
目の前に、女がいた。
いつの間に現れたのか、全く分からない。
長い髪。整った顔立ち。やたらと存在感がある。
そして——無駄にグラマラスだ。
女神「はい、おはようございます」
三郎は固まった。
三郎「……誰だよ」
女神「女神です」
三郎は少しだけ考えてから言う。
三郎「いや雑だな」
女神「細かいことは気にしないでください」
三郎は頭を抱えた。
三郎「……夢じゃないのか」
女神「はい。異世界です」
三郎「やっぱりか……」
やけにあっさり納得した。
いや、納得するしかない。
三郎「で、なんで俺なんだよ」
女神「ランダムです」
三郎「適当すぎるだろ」
女神「そういうものです」
三郎は深くため息をついた。
三郎「……で?」
女神「スキルを差し上げます」
三郎「お、そこはちゃんと異世界だな」
女神「はい」
女神「あなたのスキルは——“釣り”です」
三郎「……は?」
女神「釣りです」
三郎「いや、聞き間違いじゃなかったな」
思わず空を見上げる。
三郎「もっとこう……なかったのか?」
女神「釣り、好きですよね?」
三郎「まぁ好きだけど」
女神「なら問題ありません」
三郎「問題しかねぇよ」
女神は気にした様子もなく続ける。
女神「このスキルでは、釣りに関する道具を扱えます」
女神「また、釣った魚はお金に換えることができます」
三郎「……は?」
女神「お金は円で管理されます」
女神「そのお金で、道具を補充することができます」
三郎「……ネット通販かよ」
女神「そのようなものです」
三郎は少しだけ黙る。
三郎「……それ、普通に強くないか?」
女神「はい」
三郎「最初から言えよ」
女神「言いました」
三郎は軽く笑う。
三郎「まぁいいか」
どうせここがどこかも分からない。
だったら——
三郎「釣るしかねぇか」
女神「そうですね」
女神「なお、この世界は江戸時代程度の文明です」
女神「言葉は通じますのでご安心ください」
三郎「そこは助かるな」
女神「では、頑張ってください」
三郎「軽いな」
その瞬間、女神の姿が消えた。
三郎「……マジかよ」
静かになる。
波の音だけが響く。
三郎はゆっくりと立ち上がる。
目の前には、広い海。
三郎「……やるか」
その言葉と同時に、手の中に現れる。
竹竿。
ナイロンライン。
針。
三郎「……最低限だな」
餌はない。
周囲を見渡す。
三郎「……虫でも掘るか」
岩の隙間を探る。
小さな虫を見つける。
三郎「まぁ、いけるだろ」
針につける。
海へと投げる。
ぽちゃん、と音がする。
しばらく待つ。
風が吹く。
波が揺れる。
——コツン。
三郎「……来た」
軽く合わせる。
引きがある。
三郎「お、いるじゃねぇか」
そのまま引き上げる。
上がってきたのは、小さな魚。
三郎「アジか」
手の中で、ぬめりとした感触。
確かな“生き物”の重み。
三郎「……ほんとに釣れるんだな」
少しだけ笑う。
その瞬間。
魚が、ふっと消えた。
三郎「……は?」
頭の中に、声が響く。
『100円を獲得しました』
三郎「……マジで?」
思わず笑う。
三郎「……いいじゃねぇか」
海を見る。
三郎「釣れば金か」
口元が、自然と緩む。
三郎「——悪くない」
再び、竿を振る。




