44話
夕方。
リビング。
エアコンの風がゆっくり回っている。
俺はソファに寝転がってスマホを見ていた。
響はいつものように俺の上に乗っている。
腹の上に座って、ぼーっと天井を見ていた。
「……東海林さん」
「何」
「……重い?」
「別に」
「……そっか」
静かな時間。そのとき、キッチンから秋山の声。
「アイスいる?」
響がすぐ答える。
「……いる」
「即答だね」
秋山が冷凍庫からアイスを三つ持ってくる。
テーブルに置く。
響は俺の上から降りない。
「……秋山さん」
「ん?」
「……アイス」
「自分で取って」
響は少し考える。それから俺の胸に手をついて、少し前に身を乗り出す。
ギリギリ届く。アイスを取る。
また元の位置に戻る。
秋山が笑う。
「完全に定位置だね」
「……うん」
響はアイスを開けながら、少しぼーっとしていた。
そしてぽつりと言う。
「……ねえ」
「ん?」
秋山が椅子に座る。響はゆっくり言う。
「……結婚ってさ」
俺はスマホから目を離す。
「急だな」
秋山も少し驚いた顔。
「どうしたの」
響はアイスを一口食べる。
「……東海林さんと秋山さん」
「うん」
「……結婚すれば」
少し間。
「……ずっと一緒にいられる」
沈黙。俺は目を細める。
秋山は少し固まる。
「……え?」
響は普通に続ける。
「……家族になる」
「……うん」
「……そしたら」
アイスをもう一口。
「……離れない」
秋山は少し笑いながら言う。
「それ、僕と東海林君?」
「……うん」
「響君は?」
響はすぐ答える。
「……一緒に住む」
俺が言う。
「それただの同居だろ」
「……家族」
秋山が少し吹き出す。
「すごい理論だね」
響は真面目な顔。
「……だめ?」
秋山は少し考える。
それから柔らかく笑う。
「だめじゃないけど」
「……けど?」
「結婚ってそんな簡単じゃないよ」
響は首を傾げる。
「……好きならする」
俺が言う。
「法律がある」
「……法律」
秋山が笑う。
「響君難しい話してるね」
響は少し黙る。それから俺の胸に顎を乗せた。
「……でも」
「何」
「……三人でいるの」
「うん」
「……好き」
秋山は少し静かになる。
「僕も」
響が続ける。
「……だから」
少し考えて。
「……東海林さん」
「何」
「……秋山さんと結婚して」
秋山が吹き出した。
「なんで僕に言うの?」
「……大事」
「そうだね」
響は少しだけ目を細める。
「……そうしたら」
静かに言った。
「……ずっと一緒」
俺はため息をつく。
「お前な」
「……なに」
「人の人生を軽く決めるな」
響は少し考える。それから小さく言う。
「……じゃあ」
「?」
「……東海林さん」
「何」
「……三人で結婚できない?」
今度は秋山が完全に笑った。
「それはさすがに無理だよ」
響は真面目な顔。
「……法律」
秋山が頷く。
「法律」
響はしばらく黙る。
そしてぽつり。
「……法律、邪魔」
俺が言う。
「危ない思想だな」
秋山が笑いながら言う。
「でもさ」
「ん?」
「響君の言いたいことは分かる」
響が秋山を見る。
秋山は少し優しく言った。
「離れたくないんでしょ」
響は小さく頷く。
「……うん」
秋山は少し考えてから言った。
「大丈夫だよ」
「……なにが」
「結婚しなくても」
少し笑う。
「僕たち、今も普通に一緒にいる」
響は少し考える。それから俺の服を掴む。
「……東海林さん」
「何」
「……約束」
「何の」
「……いなくならない」
俺は少しだけ黙る。
それから言う。
「急に重い」
「……大事」
秋山が笑う。
「まあ」
そして言った。
「僕もその約束には入れてほしいな」
響はすぐ答える。
「……秋山さんも」
そして少し満足そうにアイスを食べる。
三人でいる、ただそれだけの形。
響の中ではそれが一番壊れてほしくないものだった。
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