4話
物語の着地点を決めておかないと迷走しそうですよね。
川崎駅から最寄り駅までは、秋山が横にいたおかげで迷わずに済んだ。
方向音痴という呪いから解放されただけでも今日は上出来だと思う。
そのまま流れるように学校へ到着し、気づけば俺と秋山は校舎の廊下を並んで歩いていた。
時刻は六時間目が始まる五分前。
いわゆる放課とか十分休憩と呼ばれる時間帯だ。
「秋山と俺って、同じクラスだっけ?」
「同じクラスだよ。席は隣じゃないけどね」
「隣だったら中学と何も変わらないじゃん」
「僕は東海林君の隣が良かったけど」
「席替えの時に交渉でもすれば?」
「なるほど……次は本気を出すよ」
こいつ、席替えに本気出すタイプだったのか。
中学時代、なぜか俺は高確率で秋山の隣に配置されていた。
ただし本人は不登校気味で、席はあっても本人が存在しないことが多かった。
そのたびに俺が家まで迎えに行く羽目になり、クラスメイトからは介護やら廃品回収と呼ばれていた。
失礼極まりない。
「東海林君、ここだよ」
秋山が立ち止まった教室のプレートには、
1年B組
と書かれていた。
「……新八先生?」
「東海林君は一体何を言っているの?」
「分からないならいい」
「重い翼」
「知ってるじゃねぇか」
やっぱり秋山といるとHPが削れる。
古びた引き戸をガラガラと開けると、
教室の視線は明らかに一点へ集中していた。
可愛い女子の方向へ。
……分かりやすいな、お前ら。
「東海林君の席、一番後ろの窓側だよ」
「なにその主人公ポジション」
「遅れてきた転校生は大体そこだよね」
「俺転校生じゃないけどな」
とりあえず席に着く。
確かに最後列、しかも窓側。風通し良好。
「次ロングホームルームだよ」
「……俺、今日来た意味ある?」
「あるよ。名前覚えるチャンス」
「俺、人の名前覚えられないんだよ。興味ないと特に」
そんな話をしていると、私服姿の教師らしき人物が入ってきた。
この学校の最大の欠点は、生徒も教師も私服なことだ。
せめて名札くらい付けてくれ。
「席つけー、ロングホームルーム始めるぞー」
一斉に椅子が引かれる音。
隣を見ると女子だった。
残念ながら、とは言わないでおこう。
一応挨拶くらいは必要だ。
「俺は東海林。よろしく」
「……よろしく……」
声が小さい。
人見知りか、俺を警戒しているかの二択だな。
「喋るの苦手?」
「……うん……」
「じゃあ無理しなくていいよ。頷いてくれれば通じる」
小さく、コクンと頷く。
初日としては、まあ悪くない。
「名前、聞いてもいい?」
「……東……愛香……」
「東さんね。覚えとく」
隣の席の名前くらいは覚えておかないと、
学校生活に支障が出る。
ナンパ扱いされたらそれはそれで困るが。
その後俺は寝た。
ロングホームルームは成績に入らない。
ならば体力温存が最適解だ。
目が覚めた頃には終了していた。
「それじゃあ気をつけて帰れよー」
教師の声と同時に、視線を感じる。
隣を見ると東さんがこちらを見ていた。
無表情だが、圧がある。
「東さん、どうした?」
「……寝てる……」
「ああ、それでガン見?」
「……うん……」
慣れてきた。
このテンポ、嫌いじゃない。
席を立とうとした瞬間、
「東海林君、一緒に部活を見て回ろう」
秋山が現れた。
どうやら今日と明日は部活紹介らしい。
俺はもちろん寝ていた。
「帰宅部でよくない?」
「中学と同じじゃん」
「秋山もだろ」
「文化部にしようよ。僕たちが運動部入ったら干からびる」
否定できない。
掲示板には大量の部活一覧が貼られていた。
漫画研究部、手芸部、茶道部、謎の同好会まで。
「申請すれば何でも通りそうだな」
「手芸部まともに見えてきた」
「奇遇だな」
結局、文化部棟へ向かうことにした。
廊下を歩いていると、
読書部の部室前に一人の女子が立っているのが見えた。
俺たちは、なぜか立ち止まって観察してしまう。
「秋山、あの子こっち見てない?」
「側から見れば僕たちが不審者だよ」
……確かに。
常識人ポジションの拓人がいないせいで、
俺たちは完全にブレーキが壊れている。
そしてその女子は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
男の娘って可愛いよね。




