17話
今日目の前で、チャリに乗っとる人が轢かれました。
川崎はそう言う街です。
食堂を出た瞬間、なぜか俺は両手を塞がれていた。
右に響、左に秋山。
二人とも当然のように手を握っている。
どうしてこうなったのか、正直まったく思い出せない。だが、二人が妙に満足そうな顔をしているのを見ると、まあいいかという気分になってしまう自分がいるのも事実だった。
「次の授業は何だろうな」
廊下を歩きながら聞くと、秋山が即答する。
「2クラス合同の体育だよ」
「……地獄か?」
満身創痍の体で運動?
昨日の件がまだ尾を引いているのに。
また倒れて入院、なんて未来が一瞬脳裏をよぎる。
それも悪くない気がしたが、そんなことを繰り返していたら本当に卒業できなくなる。
階段前でクラスが分かれる。
「じゃあ響、また後でな」
「……うん……」
名残惜しそうに手が離れた。ほんの一瞬だけ、指先が絡む。その感触がやけに残った。
教室に戻る途中、秋山が俺を見た。
「東海林君、体操着持ってきた?」
「持ってきてる訳ないだろ」
「奇遇だね、僕もない」
「やる気ゼロかよ」
「やる気スイッチが見つからなくてね」
「塾でも通え」
「講師が可哀想だからやめておくよ」
くだらない会話をしながらも、周囲はすでに体育館へ向かい始めている。
よく考えれば体育館履きすらない。
俺、何しに学校来てるんだ?
そのまま流れに乗って体育館へ。
合同クラスが並び、視線の先には響の姿。目が合うと小さく手を振られた。
私服三人組、完成である。
アンケート用紙が配られ、競技を選べと言われる。
テニスに丸をつけながら、周囲の賑やかな会話を聞き流す。
俺がまともに話す相手は、結局この二人だけだ。
種目決定後は自由時間。
皆が散らばる中、俺たちは自然と体育館の隅へ移動した。
「……なんか今日、ずっと眠たい」
響が壁にもたれた。
「昼飯後だからだろ」
「……ここで寝ても……」
「怒られるぞ」
秋山が笑うが、響の顔色は冗談ではなさそうだった。
まぶたが重く、立っているのもやっとのように見える。
こいつ、ちゃんと寝てるのか?
体育の時間は何事もなく終わったが、俺の中には妙な不安だけが残った。
放課後、数学もまともに聞かずに終わる。
チャイムと同時に現実へ引き戻される。
今日は響の生活用品を買わないといけない。
「東海林君、この後どうする?」
「買い物だな。必要なもん揃えないと」
「僕も行っていい?」
「当たり前だろ。響も呼ぶ」
帰りの会が終わる頃には、すでに響が教室前で待っていた。
無言で、ただ立っている。
忠犬かよ。
頭を軽く撫でると、ほんの少しだけ頬が緩む。
三人で校門を出る。
夕方の空気は少し重い。
駅へ向かう途中、響の歩幅が微妙に小さいことに気づく。
俺は無言で速度を落とした。
電車に乗り込み、揺れに身を任せる。
「夏休み、お婆ちゃん家帰るけどさ」
「去年も行ったね」
「勝手についてきただけだろ」
「……私は……どうすればいい?」
その問いは軽くない。
家に置いていくのも違う。
無理やり連れていくのも違う。
「俺たちが行くなら、来いよ」
「僕は行くよ」
「……じゃあ……行く」
その答えに、なぜか胸の奥が少し軽くなった。
やがて電車は川崎に到着する。
改札を抜け、人の波に飲まれながら、俺たちは自然と同じ方向へ足を向ける。
これから何が起きるのかは分からない。
だが少なくとも、今この瞬間だけは三人で並んで歩いている。
階段下で、寝てる奴が居た。
やっぱこの街はおかしい
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