13話
足立区民はチャリ盗むけど、川崎市民はサドル以外を盗む
目を開けると、見慣れた白い天井があった。
消毒液の匂い。一定間隔で鳴る機械音。
……ああ、病院か。
しかもこの角度、このカーテンの位置。この微妙にシミのある天井。
前と同じ部屋だな。
ここが俺のリスポーン地点なのか?
マイクラみたいだな、などとくだらないことを考えてから、ようやく現実に戻る。
いや待て。刺されたんだよな、俺。
とりあえず起き上がろうとしたが、体が思ったより動かない。肩から背中にかけて鈍い痛みが走る。
というか。
足元、重くないか?
布団の中に何かいる感覚。
猫?いや病院って動物ダメだよな。
恐る恐る布団をめくる。
そこにいたのは、丸まって眠る響だった。
「……」
いつから病院のベッドは添い寝OKになったんだ。
俺の腰あたりにぴったりとくっつき、制服のまま眠っている。顔色は悪く、目の下にうっすら隈。
とりあえず起こさないと起き上がれない。
「響、起きて」
返事がない。ただの屍のようだ。
仕方なく肩を揺らす。
「……う、ん……?」
「おはよう。今何時か知らないけど」
薄く目を開けたかと思えば、また閉じようとする。
夜中か?いや、廊下の向こうから爺さん達の世間話が聞こえる。昼だな。
まだあの人達入院してたのかよ。
ここはアズカバンか何かか。
「響、寝ようとしないで」
「……っ……東海林さん?」
「そうだよ。とりあえず離して」
その瞬間、響の目がはっきりと開いた。
「……起きた……?」
「起きた」
数秒見つめられる。
そして、
「……頭、撫でて」
「撫でたら離れる?」
「……いや」
即答か。
「じゃあ一旦降りてくれない?また乗ってもいいから」
渋々といった様子でベッドを降りる響。俺はゆっくりと上半身を起こす。
背中が痛い。刺された実感が遅れて戻ってくる。
「俺、何日寝てた?」
「……二日間」
「二日?」
思ったより長い。
「響、まさかずっとここに?」
「……うん」
ああ、なるほど。
だからそんな顔してるのか。
「秋山は来た?」
「……来たよ」
来たのか。
秋山の冷たい目が容易に想像できる。
「あと……後輩の子も……来た」
「後輩?」
「……天城ひまり……」
ああ、あの太陽みたいなやつ。
俺の後輩…あいつしか来ないな。
「……また来るって」
「マジか」
静かな病室に、嵐が再来する予感しかしない。
響がベッドに戻ってくる。今度は俺の横に座る。
「……東海林さん……何したら喜ぶ?」
唐突だな。
「今のところ特にないけど」
「……何でもいいよ」
「何でもって言われてもな」
俺は無意識に響の頭を撫でる。
柔らかい髪。
響は表情をあまり出さないが、嫌がってはいない。むしろ、少しだけ力が抜けた。
「……私のせいだから」
小さな声。
「違う」
即答する。
「あれは俺が勝手に前出ただけ」
「……でも」
「響が無事なら、それでいい」
嘘じゃない。痛いけどな。
しばらく沈黙。
廊下の向こうで足音が近づく。
妙に元気な声が遠くから聞こえた気がした。
嫌な予感しかしない。
「東海林先輩ってこの部屋ですよね!?」
ほら来た。
俺は天井を見上げる。退院、いつになるんだろうな。
静かな入院生活は、どうやら戻ってこないらしい。
病院は嫌いです




