12話
眠いです
古びた木造アパートの前で足を止める。二階建て。外壁は色褪せ、ところどころ塗装が剥げている。夜の冷気が肌に張り付く。
階段を上るたびに、ぎし、と乾いた音が鳴った。金属の手すりは冷たく、指先の体温を奪っていく。
響の手は小さく震えていた。
玄関のドアを開けた瞬間、鼻を刺すアルコールの匂いが流れ出る。むせ返るほど濃い。
視界に飛び込んできたのは、積み上げられた段ボール。生活用品、開封もされていない箱、潰れたペットボトル。足の踏み場がほとんどない。
奥のリビングからテレビの音が漏れている。バラエティ番組の笑い声が、やけに空虚に響く。
男が一人、酒瓶を片手に座っていた。
「……誰だ」
低い、濁った声。
「東海林です」
喉が渇くのを感じながら答える。
響が一歩前に出た。
「……この人の家で住む」
その一言で、空気が凍った。
男の目が細くなる。
ゆっくりと立ち上がる。
椅子が倒れ、床にぶつかる音が響いた。
「ふざけんな」
怒鳴り声と同時に、男の体が一直線に突っ込んでくる。
速い。
酔っているはずなのに、勢いだけは異様だった。
俺は反射的に響の腕を掴み、横へ引く。
拳が頬の横をかすめる。風圧だけで分かる。
そのまま男は壁に激突した。鈍い衝撃音。
だが止まらない。振り向きざま、今度は体当たりのように突進してくる。
狭い廊下。後ろは壁。逃げ場がない。
再び体を捻ってかわす。
男はキッチンへ倒れ込み、食器が床に散った。割れる音が連続する。
その音が止んだ瞬間、異様な静寂が落ちた。
嫌な予感。
男がゆらりと立ち上がる。
その手に、光るもの。包丁。
刃先がテレビの光を反射する。
響の指が、俺の服を強く掴む。震えている。
距離は三メートルもない。
「死にてぇのか」
低い声。足音。踏み込み。
床を蹴る音が近づく。
狭い。避けきれない。
俺は響を背後へ押しやる。
振り下ろされる刃。体を傾け、紙一重でかわす。切っ先が壁を削り、石膏が散る。
二撃目。横薙ぎ。速い。
響の位置が悪い。この軌道は当たる。
考えるより先に体が動いた。
響を抱き寄せ、覆い被さる。
衝撃。鈍い感触と同時に、肩の奥へ焼けるような熱が走る。
「っ……!」
刃が食い込む感覚。肉を裂く感触が、生々しく伝わる。
呼吸が止まる。包丁が引き抜かれた瞬間、血が一気に溢れ出すのが分かった。
温かい液体が背中を伝う。
男は舌打ちし、後退する。
そのまま玄関へ走り、ドアを乱暴に開ける音。閉まる音がやけに遠い。
静寂。耳鳴りが響く。
視界の端で、床に赤が広がっていくのが見えた。
二回目だ。
妙に冷静な自分がいる。
だが、出血量が違う。足に力が入らない。
膝が崩れ落ちる。
響が必死に支えようとするが、体格差がありすぎる。
「東海林さん……!」
声が遠い。
涙で滲んだ顔。
そんな顔するな。
俺は震える手で、響の頭を撫でた。
「……大丈夫」
自分でも分かる。嘘だ。
視界が白くなる。天井が歪む。
遠くでサイレンが鳴っている気がする。
誰が呼んだのか、分からない。
最後に見えたのは、泣きながら必死に何かを叫ぶ響の姿。
そのまま、意識が落ちた。
男の娘は可愛いしついてるからお得




