10話
俺はラブコメを書いてたはずなんだがなぁ
炊飯器の電子音が、間延びした会話をぶった切った。
「……もう炊けたのか」
響を膝に乗せたまま、どうでもいい話を延々と続けていたせいで、時間の感覚が完全に飛んでいたらしい。時計を見ると、きっちり一時間近く経っている。
キッチンからはカレーの匂いが漂ってきていて、空腹をじわじわ刺激してくる。
「秋山と響、腹減ってる?」
「お腹空いたよ」
「私は……少しだけ」
「なら食べるか」
「響君を?」
「秋山、疲れてるなら寝ろ」
「私を……食べるの?」
「頭おかしいのが二人に増えたな」
とはいえ、少しだけ考えてしまった。人間って美味いのか?
いやいや、さすがにそこまではいかない。多分こいつらは別の意味だ。多分。
「東海林君も入れたら三人だよ?」
「まともならあの学校行ってないだろ」
「いつまで……抱きついてるの?」
腕の中の響が小さく動く。細い。なのに妙にあったかい。
「逃げそうだからな」
「それ東海林君が離れたくないだけだよね」
「……まぁな」
正直、否定はできない。魔法瓶みたいな体温してるんだよな響。
ようやく立ち上がり、キッチンへ向かう。秋山が皿を出して米をよそい、俺がルーをかける。完全に流れ作業だ。
三皿目を作り終えて気づく。
「ルー余りすぎじゃないか?」
「明日もカレーだね」
「数日は確定だな」
響が遠慮がちに席へ座る。俺はその隣、秋山は向かい。
「福神漬け買い忘れた」
「ロピア行く?」
「そこまでの存在感じゃない」
「クラスの隅で寝てる人くらい?」
「例えが雑だな」
「居ても居なくても……いいって事?」
「なんで深掘るんだよ」
混ぜるな危険、とはこのことだ。
一口食べる。
久しぶりに作ったチキンカレーは普通に美味い。鶏肉って焼いても煮ても揚げても美味いの反則だろ。
「……美味しい」
「明日もこれだぞ」
「飽きないの?」
「捨てる方が嫌だな」
「……それは、そうかも」
他愛ない会話をしながら、皿は空になった。
食器を軽く流して食洗機へ放り込む。文明の勝利だ。手荒れしないのが最高。
「風呂、先に沸かすか」
パネルを押すと機械音声が響く。
「40度でお風呂に湯を入れます」
振り返ると、響がすでに半分寝ていた。
「眠いか?」
「少し……」
「風呂入ってから寝ろよ」
「あ、着替えないね」
「俺の貸すか」
「それで……いい」
ソファに移動すると、響が後ろからついてくる。完全に猫。
「なんかしたいことあるか?」
「頭……撫でて」
素直すぎる。
隣に座った響の頭を撫でると、無表情がほんの少し緩む。その変化が地味に嬉しい。
「甘えたことあんまりないの?」
「ほぼ……無い」
「なら今のうちに甘えとけ」
「……抱きしめて欲しい」
膝に乗ってくる。軽い。あったかい。
「僕も撫でて欲しい」
「お前もか」
結局、俺は撫で係だ。
『お風呂が沸きました』
タイミング良すぎだろ。
響を起こして脱衣所へ送り出す。
しかし静かすぎる。
「沈んでないよな?」
「ありえそうだね」
着替えを持って様子を見に行く。
扉を開けると、普通に湯船に浸かっていた。
「生きてるか確認」
「……生きてるよ」
「ならいい」
そそくさと戻る。
やがて響が上がり、秋山が風呂へ。
リビングに二人きりになると、急に静かだ。
「服、明日買いに行くか」
「普通の物で……いいと思う」
「普通が一番難しいんだよ」
響は俺の袖を少し掴んだまま、眠そうにしている。
まぁ眠そうならこのままで良いか。
シリアス回とか多分この先ないかな?




