褒美の言葉だ
翌日学校へと登校する。礼都と夢波は朝早く誰もいない時間帯に登校した。しかし教室の扉を開くと彩夏が既にいた
「彩夏!早いね……」
「う、うん……昨日みたいに萌歌に怒られると怖いし……」
そんな静かな朝、扉の音と共に担任が教室へ入ってきた。いつもおどおどとした、虚弱そうな男の教師
「みなさん、早いですね」
「先生こそ早いですね、おはようございます!」
担任は少し微笑んだ
「夢波さん、前より明るくなりましたね」
夢波は礼都の耳元に口を近づけ、小声で話す
「ねえ、例のやつ礼都から言ってよ」
「もちろん構わないが、放課後でいいだろ?」
朝のホームルームと呼ばれるその時間になる。担任は指を二つ立てた
「最初に……良いお話と悪いお話、どちらから話すべきでしょうか」
教室はざわついていた
「悪い話から!」
その男子生徒の意見で、担任は話す
「伝手で入れられたんですよね……ではまず、悪いお話から。萌歌さんが、入院しました。何者かに酷く……」
「あいつ死んだか」
「もう二度と戻ってくるなやアホ」
教室からは盛り上がりの声が聞こえた
「みなさん、不謹慎ですよ」
夢波はかなり複雑だった。同時に、彩夏はホッとした様子を見せる。少し声が静まると、再び会話を続ける
「同時に、新しく転校生がいます」
「女子ですかー?」
「見てのお楽しみです。入ってきてください」
そう言われ入ってきたのは、妃揺だった。昨日の今日まで敵だった妃揺
「え!妃揺!?」
「あいつが例の教師の件で学校を揺すったんだろ」
「あの陸上セクハラ親父?」
礼都は目を細めた
「酷い呼び名だ。しかし相応しい」
担任は何か勘づいた様子だった
「アイツとは……やはり、報告に上がっていたのは彼でしたか」
「デットオーバー……だよね」
「おい、急に……いや、別に問題ないか」
担任は一つ息を吐いた
「どうしたんだ?先生?」
「すみません、何でもありませんよ」
そう返すと、夢波に目を向けた
「まさか、そこまで知ってるとは……ハテ子のやつは何を考えて……まーいいですよ。二人は放課後に」
「妃揺も合わせて三人です」
夢波は真剣な眼差しで答える
「そこも既に仲間でしたか、そうでしたね……上層部もハテ子の手の上……」
昼食前、体育の授業だった。していたのはサッカー。礼都はクラスでも抜けて運動神経が良かった
「私だって!デストロイ!!」
夢波が滑り込み礼都のボールを取ろうとするが、軽くパスをされた。パス先はクラスで最も力が強い、高校生とは思えぬ巨漢の倉田小問だった。小問はボールを受け取ると、思い切りシュートを入れる。時は進み昼食時になる。食堂にて、礼都と向き合い夢波と妃揺は食べていた。夢波はオムライスを、妃揺はスパゲッティを、礼都はクマさんカレーを食べていた
「礼都……」
「どうした?」
「今までそんな近い関係じゃなかったし訊けなかったけどさ……そのカレー何?」
クマ型の皿をした子供向けメニュー。山頂には旗が立っている
「カレーだ。一口食べるか?間接キッスをさせてくれても構わないぞ?」
「げ、礼都最低!」
「でもさ、礼都のカレー甘そうだよね。そんで可愛いし、なんかいいかも」
妃揺はそう言う
「甘くて少量。俺にはベスト。この上ない」
ええ……変わってる
礼都は話を切り出す
「それで妃揺、お前の言ってたマノイセや紗刻ってのを、もっと詳しく教えてほしい。構成員とか、目的も話せる範囲で」
妃揺は頬に指を置き少し考える
「いいよ……紗刻の人たちはね、全員強くて怖いよ。けど、飛び降りようとした私を救ってくれて……」
あれ──私と同じだ
「みんなほんとは優しい人。マノイセさんは紗刻のリーダーで、とてもかっこいい」
「紗刻のリーダー……つまり黒幕」
放課後になる。三人は屋上で担任と向かい合っていた。少し強い風が吹く中、礼都は言う
「さて、聞こう。デットオーバーと、それを達成した者について。知っているのなら、紗刻とマノイセについても」
「マノイセ……そこまで知ってるのか。ったく、ハテ子のやつは昔からメタクタなことをしてくれる……」
担任はジャケットを椅子にかけた
「異世界サークル……俺たちは中二病の集いだった。加入条件は異世界に相応しい人間であること」
「異世界に相応しい?」
「身なりや口調だけね。ある日、裏の世界に干渉する方法を見つけたんだ。そして物の存在を知り、物を調べ、完成したのが魔法使いのステッキ」
「使いって、魔法少女じゃないんだ……」
「あはは……ハテ子は魔法を使おうとしたけど無理だった。男の人で試したのは、それが最初で最後。ハテ子はたぶん他の男に使わせたくないんだと思う……」
「なんで……?」
「男は全員使えないって、魔法少女しか存在しないって言い訳を押し付けてるんだ。異世界サークルは中二病の集い。魔法なんて聞けば、みんな喉から手が出るほど使いたい。ハテ子だって」
夢波はハテ子の気持ちを自分なりに察していた。担任は再び話し出す
「デットオーバーは五つの魔法を複合させた魔法。魔法は人の知性を奪うんだ。魔法を二つ会得すれば、三つ会得すれば……と増えれば増えるだけ、知性も消えていく」
「え?そなの!私元々バカなのに……」
「バカでもビジュで嫁にしてやる」
「礼都……なんかほんとキモくなった?」
「褒美の言葉だ」
ええ……
「話を続けよう。魔法を三つも覚えれば知性は殆ど消え、四つで天才ですらも知性を失う。天才でも二つが限界、一つが普通」
じゃあ私一つが限界ってこと?
「そして物は能力を一つ持ってるが、あれは魔法なんだ。物は知性の問題で一つしか覚えられないから、それを能力と呼んでいる」
担任は屋上の先、遠くを眺めていた
「そして、魔法を五種扱う化け物が異世界サークルにはいた……デットオーバーに到達した女だ」




