暗転
ある家族が街はずれにある湖のほとりで散歩している。
「みてみてパパ!!」
「なんだい?」
「湖に向こう岸の山、綺麗!!!」
「ここはね、霧が晴れてきた今見える景色が一番なのよ~ね、あなた!!」
「そうだね。君たちここで待っていなさい。パパがもっと良いものを見せてあげる」
「久々に見れるのね!!」
私は湖に向かって歩いた。
「ママ?パパが水の上を歩いてる!!え!?どういうこと!?」
水面を歩いている様子を見て我が娘が驚いていた。
「パパはね、凄いの!!でもね、秘密よ?誰にも言っちゃいけない良いわね?」
「わかったわ」
「それで、パパは何をしてるの?」
「まぁ見ていなさい」
(そろそろ良いかな)
水深5mと言ったところだろうか。
「そろそろ始めるぞ!!ママ、音楽頼む」
「わかったわ!!」
妻はどこからともなく大きなハープを取り出して演奏を始めた。
「私が愛する妻、娘へのプレゼント、題して「闇と光と水」!」
噴水のように水面から水が吹きあがった。
ビー玉サイズの水玉を光の反射を利用して輝かせたり、湖底の泥を活用して色を付けたり。
そう、これはあの時俺が見たショーの再現。
草木や動物を表現したり、音楽にシンクロさせてみたり。
「いつみてもあなたの水上ショーは綺麗だわ!!」
「パパすごい!!」
(良き人生・・・最高に幸せだ)
(思えば前世から色々あった。本当に大変だった)
(今日も一日頑張った。疲れた。帰るぞ!!!!)
俺はしがない会社員で、工場勤務をしている。
(さて、、、夜ごはんどうしようかねー......)
ロードバイクにまたがり、夕食の内容を考えながら道路を走っていた。
俺は今、工場のあるこの町で一人暮らしをしている。
町は、ほとんど山の麓、と言っても過言ではない場所に位置していて、自動車での移動が基本だ。
だが俺は違う。
夢を叶える為、老後資金を蓄える為、自動車を持たずロードバイクで生活している。
おかげ様で新卒3年目で500万円を貯めることができた。
(コンビニ弁当は楽だが、コストがかかる)
(自転車生活を始めて明らかに食事量が増えた)
(自炊以外ないっしょ!!)
「今日の夜ごはん何しようか」
もちろん、後続車や対向車には細心の注意を払っている。
「ちっ!坂道で赤信号か・・・しかも最前列じゃなくてど真ん中。今日はついていないな」
いくら軽いロードバイクであっても坂道発進はエネルギーを使う。
長い車列のど真ん中だから、信号切り替わってもすぐには「Go!」とはならない。
動き始めても最初はノロノロ。
実は自転車の方が初速度は早いのだ。
前方車両との衝突、後続車両による追突の危険性を考慮し、ペダルを踏みこんでは地面に足を付ける。
(やっと流れがスムーズになってきたな・・!!!信号も青のままだ!!)
「Let's Go!!!!!!!GOGOGOGO!!!」
その時である。
対向車が右折を開始。
「え、あ、、え、やば、、、、、」
宙を舞った。
(受け身!!!!!!間に合え!!!!)
脳からの指令により身体は動いた。
なんとか受け身の姿勢で地面に倒れ込むことに成功した。
しかし運が悪かった。
ここは橋。
コンクリートの柱に頭を思いっきり激突させてしまったのだ。
ヘルメットは着用している。
だが当たり所が悪かった。
その日、手術むなしく、俺は病院で死んだ。
(ここはどこだろう・・・・?)
(夢を見ているのだろうか?)
真っ暗な空間にぽつんと一人。
(不思議な空間だ。寒さも、空腹も、立っているときの疲労感もない)
しばらくすると、目の前でパーティクルライブが始まった。
そのライブでは色とりどりのパーティクルで、草木や動物、星と様々なものが表現されている。
背景に流れている曲は聞いたことがないもので、ボーカルはない。吹奏楽やオーケストラの生演奏でもなく、天才がDTMで作った曲、そんな感じ。パーティクルが音にシンクロして点滅し、心が躍る。
(そろそろクラマックスかな)
これまでの記憶の画像が複数パーティクルに合わせて流れてきた。
最期は映画のエンドロールのように、これまでに関わった人物名が流れ、最後に「総資産」が表示されてライブが終わった。
パーティクルライブ終了後に死亡直後の映像が映されて、色々と知ることができた。
(そうか、俺は死んだんだな)
(というか、俺の人生の価値、安すぎないか・・・)
死後、両親が対向車両ドライバーに対して賠償金5億円を吹っ掛けた。
しかしそのドライバーは任意保険未加入で、手に入ったのは自賠責分のみの3,000万円。事実上の亡き寝入りを余儀なくされた。
賠償金と保有資産の価値合計が人生の価値だとすると3,500万円。
・・・・・俺の人生は3,000万円の価値だった。なんという安い人生。いや保有資産分を合わせれば3,500万円か。それでも安い。あと結婚して子供欲しかった。来世はもっと上手く生きよう。
((君の願い、叶えてあげよう))
どこからともなく、声が聞こえてきた。
パーティクルが集まってきて、人型を成した。
その姿は初恋の相手にそっくり。
((この姿は君の記憶の奥底にある人物に合わせている))
((これまで生きてきたところとは別の世界へ君を送る。君たちの世界で言うところの異世界転生になるのかな?))
(どういうことだ??)
((君は今、身体がない。意識のみある状態だから発言することはできない))
((心の声は聞こえているけどね))
(心の声が聞こえるなら会話も可能では!?)
((一度しか言わないからしっかり聞いてね))
(無視か)
((君がこれから行く世界は剣と魔法の世界。君の適正は水だね)
((生前なんとなく水に対して愛着なかった?))
(確かにプール大好きだし、好きな色は青系、特にスカイブルーが好きだった)
((適性はね、魂の紐づけされるの))
((魔法のない世界では意味をなさないけど))
((私が今回あなたにプレゼントするのは、高い適性強度と前世の記憶よ))
((前回転生のお詫びもかねてね))
(前回転生!?どういうこと!?)
((さぁ、いってらっしゃい!!))
目の前が真っ暗になり、短めのパーティクルライブが始まった。
最期にパーティクルの扉が形成され、吸い寄せられた。




