イタズラ妖精との出会い
森の中を歩く
とても不気味だ
「……」
上を見ると、木々の間から空が見える
まだ明るい時間のようだ
ガサガサ!
「っ!」
木々の揺れる音
何か飛び出してくるんじゃないかと身構える
「…………」
丸腰なのは不安だ
何か……何か武器になりそうなのは……
「……これは」
いい感じの棒を見つけた
自分の腕並みに太く、バットの様に長い
これなら武器になりそうだ
『零はいい感じの棒を装備した』
気を取り直して歩く……
「……スマホ」
混乱して忘れていた、スマホで伯父に連絡を取れば良いじゃないか
スマホを開く
「……時間」
スマホの画面は20時34分と出ていた
夜?
上を見るとやはり見える空は明るい
「……どういうことだ?」
取り敢えず伯父に電話を……
「……圏外」
…………念の為電話を掛けてみるが
当たり前だが繋がらない
「……地図」
スマホアプリも使えない……困った、スマホが時計の役割しか果たせない
スマホを仕舞う、充電も60%、暗くなった時のライトとして使う為に……充電は取っておこう
ーーーーーーーーー
暫く歩くと……
バッ!
「!?」
草むらから何か出てきた
プルン
「?」
ゼリーの様なものがある
プルンプルン
「……動いてる?」
自分は棒を構える
プルン!!
「っ!」
ゼリーが跳んできた
棒で跳んできたゼリーを叩き落とす
バシン!
ベチャ!
プシュー
叩き落とされたゼリーが蒸発した
「……コイン?」
足下に数枚のコインが転がっている
見たこと無いコインだ……外国の通貨だろうか?
「……持っておこう」
それにしても、さっきのゼリーはなんだったんだ?
まるでゲームに出てくるような……
「……スライム?」
そうだ、スライムだ
序盤に出てくるモンスターがあんな感じだった
……ちょっと美味しそうだったな
「あれはなんだったんだ?」
スライムって実在したのか?
ーーーーーーーーーー
また暫く歩くと……
「……看板?」
左に矢印を向けた看板がある
文字が書いてるが読めない……
文字を読むには『それなり』の知識が必要かもしれない
「左……か?」
取り敢えず矢印の方に歩いてみよう
『クスクス』
「?」
今、笑い声が聞こえた?
周りを見渡すが誰もいない
「…………」
明るいうちに幽霊とかないよな?
気を取り直して歩く
暫く歩くと、ひらけた場所に着いた
「……出口ではなさそうだな」
上を見ると空がよく見えた
まだ青い空が見える
スマホを見ると22時だった
「……」
相当歩いたようだ
それにしても、ここは日本じゃないのか?
22時だが、空は昼間の様な明るさだ……日本とは時間が違う?
→『ここはアメリカか?』
『ここは日本』
『ここは異世界?』
「ここはアメリカか?」
確か、日本の反対側だから、時差で日本が夜ならアメリカは昼とかだったはず
日本からアメリカに一瞬で移動したのかって話ではあるが……
いや、いくら外国でもスマホは繋がるはずだ……
スマホが全く繋がらない……つまり、電波が無いのかもしれない
「ここは異世界?」
……馬鹿らしい、そんな事があるはず無い
『クスクス』
「!?」
今度はハッキリ聞こえた
笑い声だ
→『誰か居るのか!?』
『クスクス』
「誰か居るのか!?」
しかし返事はない
「…………」
人影も無い
「…………」
怖い
早く森から出よう
ーーーーーーーー
暫く歩く
少しすると
「葉っぱ?」
目の前に大量の葉っぱが落ちていた
というより敷かれていた
「…………」
避けたほうが良さそうだ
道から少し外れて、敷かれた葉っぱの横を歩く
ズボッ
「うわぁ!?」
突然足下が崩れて、尻を打った
「……」
これは、落とし穴?
あまり深くはないから、出るのは問題なさそうだ
「きゃははははは!! 引っかかった引っかかった!!」
頭上からそんな声が聞こえた、上を見る
「バーカ! バーカ!」
→『虫?』
『人?』
「虫?」
そこには手の平サイズくらいの人がいた
背中に蝶のような羽がある
あとなんか全体的にピンク色だ
「虫じゃない!」
ピンク色は不愉快って顔をする
どうやら言葉が通じるようだ
落とし穴から出る
→『君は?』
『……』
「君は?」
「わたし? 見てわからない? 妖精だよ」
陽性?…………あっ妖精か
『妖精!?』
→『妖精……』
「妖精……」
「何よその顔」
もっと、こう、幻想的なイメージがあったんだが……なんだろう、落とし穴に落とされたからか、悪ガキを見てるような気分だ
あっそうだ
→『名前は?』
『出口教えて』
「名前は?」
「? 名前? なにそれ?」
妖精に名乗るついでに名前の概念を教える
「そんなのわたしにはないよ!」
どうやら彼女には名前が無いようだ
「出口教えてくれないか?」
「えーどうしよっかな〜」
彼女は空中でクルクル飛んだあとに自分を見る
「やーだよ!!」
そう言って彼女は飛んでいった
「…………」
落とし穴に落とされただけだった
いや、一応の収穫はあった
ここは自分の居た世界じゃない
流石に妖精が実在するわけない
ここは恐らく自分の居た世界とは別の世界、異世界だ
……スマホが使えないわけだ
「……困った」
運良く車が通ったら、道を教えて貰おうと思ってたが……異世界ならそれも期待できない
そもそも文明がどこまで進んでるのか?
現代日本と同程度だったら嬉しいが……電波が無い以上それは期待できない
「んっ?」
空を見ると赤くなっていた
もう夕方の様だ
……流石に夜の森には居たくない
こうなったら
「走ろう」
夜まで足掻こう
この手の森は夜には危険がたくさんあるはずだ
ーーーーーーーーーー
スマホを見る、どうやら30分は経ったようだ
走って歩いて走って歩いてを繰り返して、大分進んだようだが……出口は見えない
……これ逆に奥に進んでないだろうか?
「暗いな」
暗くなってきた……もうすぐ夜になる
スマホのライトを点ける
「…………どこか隠れれる場所は?」
こうなったら朝まで身を隠した方が良い
そう思って歩いていたら
「きゃー!!」
悲鳴が聞こえた
→『…………ほっとこう』
『助けなきゃ!!』
「…………ほっとこう」
あの声はさっきの妖精の声だ
また何かされるかもしれない
…………そう思ったら伯父の姿が頭に浮かんだ
………………!!
「助けなきゃ!!」
ここでほっといたら、自分は伯父の様な大人にはなれない!
悲鳴の下方向に走る
少し走ると、ライトの光で照らされた妖精が見えた
「この! この!!」
妖精は蜘蛛の巣に引っ掛かっていた
「…………」
「あっ! 人間! 助けて!!」
→『本当に捕まってる?』
『また落とし穴?』
「本当に捕まってる?」
「これが嘘に見える!?」
妖精は必死だ
……本当に捕まってるみたいだ
自分は棒を使って蜘蛛の巣を破る
妖精が自分の側に飛んでくる
「あーひどい目にあった!」
「……」
→『大丈夫?』
『お礼くらい言ったら?』
「大丈夫?」
「ちょっとベトベトする……」
妖精は身体についてる糸を払う
キシャャャ!!
「っ!?」
威嚇するような鳴き声
ボトッと木の上から何かが目の前に降ってきた
ライトで照らす
「シャァァァァ!!」
「うわ出たぁ!?」
妖精が自分の後ろに隠れる
上から降ってきたのは蜘蛛だ、人間の子供くらい大きい
→『気持ち悪い』
『可愛い』
「気持ち悪い」
あまり虫は得意じゃない……
「くる!」
妖精が言うと蜘蛛が襲い掛かってきた
跳んできた蜘蛛を棒に叩く
地面に落ちた蜘蛛は後ろに跳び、糸を飛ばしてきた
「っ!?」
咄嗟に棒で防ぐ
糸が棒にくっつくと、引っ張って棒を奪っていった
「ちょっと!? なにうばわれてるの!?」
妖精が驚く
こっちは戦闘の素人なんだ、こんな事もある
『魔法は!?』
→『君は何か出来ない?』
「君は何か出来ない?」
「風魔法がつかえるよ! 詠唱するから時間稼いで!」
妖精が呟き出すと緑色の光を纏い出した
蜘蛛が妖精を狙って糸を飛ばす
「っ!」
間に入って妖精を糸から守る
「退いて!」
後ろで妖精が叫ぶ
横に跳ぶ
「ウィンド!!」
妖精から緑色の刃が飛んでいく
ザシュザシュ!
刃が蜘蛛を切り刻んだ
消滅する蜘蛛、落ちるコイン
「……」
どうやら蜘蛛を倒せたようだ
自分は棒とコインを回収する
「あ〜助かった〜」
妖精はフラフラしている
『少し休む?』
→『肩貸すよ』
「肩貸すよ」
「んっ借りる」
自分の左肩に妖精はちょこんと座った
ーーーーーーーーーー
「へ〜気付いたら森の中にいたんだ〜」
妖精に歩きながら事情を話した
蜘蛛から助けたからと言って、出口への方向を教えてくれた
「帰り方わかる?」
「知らない、別世界の人間なんて初めて会ったし」
やっぱり簡単には帰る方法はわからないか
「取り敢えず街に着いたら誰かに聞いたら?」
→『別世界への帰り方を?』
『家への帰り方を?』
「別世界への帰り方を?」
「あっ、でもそんな事いきなり言ったら、頭おかしいって思うかも」
「…………」
確かに
人に聞くより、文献を調べるとかの方が良いかもしれない
そう言ってる間に、漸く森から出れた
「はい! あとはあっちに行けば街があるよ」
「ありがとう」
お礼を言う
「いいよいいよ、はやくいこ!」
「…………」
→『一緒に来るの?』
『じゃあ、さようなら』
「一緒に来るの?」
「森を出て、はいさようならってしないよ? 流石に街まで案内するから!」
どうやら思った以上に恩を感じてるようだ
そう思いながら、街に向かった