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第9話 恋愛相談〜ガールズサイド〜


「片岡ぁ、首尾よくいってるか?」

「……しゅび?」

「いや……あのっ……、炭木に今日、天文部の活動ないっていっといて、ってやつ……!」


「……? うん、それなら連絡しておいたけれど……。さっきメールでもおくったわよね?」

「ちがくてっ! なんか、こう……秘密結社みたいな、形からはいりたかっただけなの!」


 狼狽える藤崎を確認してから、片岡は冗談めいて、にこりとほほえんだ。

 そこに藤崎はため息でかえす。

 もうふたりは3年のつきあいだ。

 互いに互いの出方もわかっている、というものだろう。


「それで、炭木くんだけのけものにして、今日はなにかするの?」

「いや……まぁ……、そのねぇ……。相談したいことが、ある……といいますか……」

「あら、相談? まさか、恋愛相談とかかしら」

「…………」

「………………えっ!?」


 片岡の声が1オクターブほどあがる。


「えっ、えっ!? ってことは、相手は炭木くん……?」

「あー……、まぁ、そう…………」

「あら!? あらあらあらっ!!? ほんと!? ほんとに!? えぇーっ! あめでとう!!」


 狂喜乱舞とひとりでもりあがる片岡に対し、平静を装おうと、無表情に目をとじる藤崎。

 無表情ながら、頬だけは制御がつかず、赤らんでいた。


 だが、その熱気が束の間であるということは、漠然とわかるであろう。

 この女の恋愛感情が、カフェでのんびりくつろぐ時間を共有したいとか、寝る前に少しでも多く通話をしていたいとか、そんな普遍的でしれたものなわけがない。


「それで、相談ってなにかしら? 告白のセッティングとか、炭木くんの近辺調査とか、いってくれたらなんでも手伝うわよ!!」

「いや、そのへんは4年前にやってるから、大丈夫」

「あ、そうなの…………──、4年前……? まだ入学してから、1ヶ月もたってないわよ?」


「うん。だから1ヶ月前に炭木と出会った1年後の4年後なんだよ」

「……?」


「1年後の卒業間近に炭木から告白されてつきあいはじめたけど私は東京の大学いくから遠距離恋愛になっちゃうとおもってたら毎日電話してくれるし休みはこっちきてくれるしであんま遠距離感なくてまだ高2なのに将来のこともかんがえてくれてて炭木が高校卒業したときに東京の大学くるってことになったからじゃあ一緒にすもうってことになっていまは同棲中なんだよ」


「…………??????」


「で、来年から就職なのに妊娠したから、学生結婚も視野にいれてどうしたらいいか、片岡に相談してるってわけよ」

「……あの…………?? うん…………?????」



 ━━第9話 恋愛相談〜ガールズサイド〜━━



「あの……ごめんなさい。ちょっとだけ、まってもらえるかしら…………?」


 困惑か、ドン引きか。

 弱々しくあがった掌は、藤崎のほうをむく。

 普段、炭木の対応力が頭ぬけておかしいだけで、この一考こそが、藤崎の奇怪さを物語っていた。


「うん、あのね藤崎ちゃん。なんにもわかんないんだけど……、とりあえずひとつだけ、きいてもいいかしら?」

「おうなんじゃい」


「将来のことかんがえた、おつきあいしてるのに、なんで就職前に赤ちゃんができるの……?」


 単純で、それでいて、つっこむところはずれている。


 先ほどのクソみたいな文章を読み飛ばしたひとむけに要約をしておくと、


 ①高校卒業前に炭木と藤崎がつきあいはじめる。

 ↓

 ②進学で藤崎が上京したがそれでも仲睦まじかった。

 ↓

 ③炭木も進学で上京し藤崎と同棲することに。

 ↓

 ④就職前になぜかかんがえなしに子供つくってる。


 という話である。

 話ではない。


「なるほど、いい質問ですね」

「ありがとう」

「ただこれは、単純明快、ひとつのある理由によるところなのである」

「は、はぁ……」


 藤崎の腹たつ口調はつづく。


「まず、私の結婚願望のひとつに、子供ってのは間違いなくあるのよ」

「うん、うん」

「子煩悩っていうか、我が子を愛でたい気持ちは、少なからずあるのよね」

「藤崎ちゃんっぽいわね」


「で、もし子供をもうけるとしたら、仕事が安定する20代後半ぐらいが目安、ってのは一般論であるとおもう」

「うん」


 淡々とした所感をかたっていく藤崎であったが、その「仕事」という言葉をだした途端、顔に影がさされていく。


「ほら、学生結婚とかして、育児におわれながら、なれないことを、しらないひとたち……と、する……ってのは……、やっぱ、つらい……じゃん…………」

「……? 藤崎ちゃん……?」




「私……大人になりたくないなぁ」


「わあ、ぜんぶ妄想なのに多感な時期!」



 ………………

 …………



「妄想ってわかってるのに、就職したら環境が激変するのかんがえたら、なんか、もう、学生のうちにぜんぶやっときたいな、なんて、おもっちゃって……」

「大丈夫よ藤崎ちゃん。藤崎ちゃんはいくつになっても、子供にしかみえないだろうから」

「めちゃくちゃに失礼だな」


 会話内容は神話の類だが、藤崎が素をだせる貴重な人材が片岡なのだ。

 炭木相手だと、ヘタなプライドに邪魔されることもしばしばあるが、同級生というレッテルの前ではそれもなし。

 これも彼が醸しだす、母性によるものなのだろうか。


「でも、私もうれしいわ。まさか藤崎ちゃんに好きなひとができるなんて、おもっていなかったもの」

「え? 好きなひと?」

「ん……? だって、炭木くんのこと……」


「ん、は? 私、炭木のこと別に好きじゃないけど」

「……へ?」


 藤崎、突然の告白。


「あいつが、告白してきて初めて私も好きになったのであって、いまはまだ告白されてないから、好きってわけじゃないぞ。そもそも、あいつからも恋愛対象じゃないっていわれてるし」

「あぁー…………、あぁ〜……????」


 なにか、線のきれる音がきこえた。

 あまりに無秩序な感情の機微は、片岡の善意をおるのも容易。

 むしろここまでつきあった片岡が、賛辞されるべきであろう。


「…………藤崎ちゃん」

「は、はい?」


「この話、炭木くんに直接してあげるのが、いいとおもうわ」

「ええっ!? でも……」

「私が解決策をだしても、それを炭木くんと共有しなきゃ意味がないわ。大丈夫、炭木くんはきっとわかってくれるわよ」


「……そうか、そうだな。わかった。炭木と話、する」

「うん! それでこそ藤崎ちゃんよ。さっきここにくるとき、まだクラスメイトの子と一緒にいたから、学校にはいるはずよ」


「わかった。さがしてくる……!」

「ええ、いってらっしゃい。がんばってね」


 決意あらたに表情をひきしめ、藤崎の足が天文部外へとのびていく。

 旅立ちを見送る母親か、はたまた部活の世代交代か。

 夕焼けにとけていくその背中が消えるまで、片岡が目をはなすことはなかった。




「……今日はもうさっさと帰って、スマホの電源きっとこう」



 ………………

 …………



「み、みつけたっ! 炭木っ!! 炭木ぃ!!」


 オレンジにそまった踊り場に、響いてはならない軽快な足音がリズムをきざむ。

 にじむ吐息が顔とかさなり、輪郭が淡くぼやけて、いつ消えてしまうのかも、わからなかった。


「ど、どうしました、藤崎さん。今日、部活ないんじゃ……?」

「いいからっ! そういうのいいから、話、きいて……!」


 藤崎の喉がなる。

 震える足も、ひっこむ脇腹もいたわろうとせず、彼女はもれるため息をのみこんだ。


「炭木ってぇ! 学生結婚とかどうおもうっ!? 子供とか、興味ある!?」

「は……? あの、なんですか?」

「答えてよっ!! 答えて……」


 真剣で、いまにも泣きだしてしまいそうな上目遣いが、炭木の心臓、奥深くへとつきささる。

 そのふざけた質問にともなっていない必死さは、どれだけくだらないことでも、藤崎にとっては、なくてはならないものなのだと、実感させられる。

 グーの手を口元にやった炭木と、肩で息をならす藤崎がみつめあい、刻々と時間だけがすぎていった。


「…………えと、それって、俺が彼女つくって、結婚して、子供をもうける、ってことですよね」

「そう! そう……!」


「あの、俺、子供つくりたくないっす」

「ふぇ……?」


 藤崎、3日も続いた戦いに、踏切の音が轟いていく。


「昨今の経済的に子供って明らかに負担になりますし俺も結婚願望みたいなのはありますけどそもそも相手もいないからいないひととのこと勝手にきめても仕方ないでしょうまあいまの俺の考え方がかわったとしても仕事が安定してない状態で子供はつくりたくないですあとそもそも学生結婚って事故みたいなとこもあるじゃないですかそんな不誠実に人生をきめたくもないですし逆にそういうひとと結婚とかおつきあいもしたくないです」


「………………」


「あの……、こういうとこで、いいですかね……?」

「…………、……お前、なんてこと……いうんだよ……!!」

「え?」


「私のこと、孕ませたくせにっ!!!! なんてこといってんだよっっ!!!!」

「ええっ!!? なんだ急にこいつ!!!?」


 急ですがタイトルを変えました。

 なぜなら、もっと伸びてほしいからです。

 チヤホヤされたいからです。


 次回は10月にでる予定です。でなけりゃ11月の予定だったことにします。

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