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第8話 二軍スペック


「え……!? だれっ!!?」


 開口一番、そう声をはった炭木の前には、天文部ではみたことのない、男が好むプロポーションに、ワインレッドのショートカット。

 V字眉毛で腕をくみながら、スカートをなびかせる。


「あなた、1年生ね。鍵もかけずに不用心じゃない」

「あぁすみません。トイレいってまして。片岡さんくるかもしれなかったんで……」


「ふうん、そう、気をつけなさいよ。ところで、部長がいないようだけれど、まさか鍵の管理を1年生にまかせてるわけじゃ、ないわよね?」

「いやぁ、今日、藤崎さん休みなんですよ。熱でたらしくて。電話ごしに俺のことダーリンとかよんでたんで、重症だとおもいますよ」


 そうはかえすが、怪訝を表情にうかべているのは炭木。

 彼女の顔をまじまじみながら、スクールバッグをデスクにおいた。


「あの……、つかぬことをおききしますが、あなたは……?」

「あら、自己紹介がまだだったわね。私の名前は安藤咲希(あんどうさき)。2年、生徒会役員。1年はしらないかもだけど、学期はじめは部活動に、生徒会の監査がはいるのよ」

「あぁ、それで」

「まあ、天文部は出費も少ないし、片岡先輩もいるし、特に注視もしてないけれど」


 しった名前がきこえたからか、炭木の肩がピクリとうごいた。

 忘れがちだが片岡、生徒会役員である。


「てことは、片岡さんも監査にいってるんですか?」

「そうね。でも一応、部員全員が集まるまでは、いさせてもらうわよ。これも仕事だからね」

「は、はい……」


「…………」

「……」


 その会話が区切られてすぐ、なんだか気まずい沈黙が流れはじめた。

 炭木は人見知りというわけではないが、こうも高圧的にでてこられると、話題をふることなどできるものではない。


 しかし炭木、この空気感はなれっこもいいとこ。

 ヘタに気を遣うよりは、各々で時間を消費したほうがいいことを、熟知している。

 炭木は歯牙にもかけず椅子にすわり、活字の世界に旅だとうと、文庫本を手にとった。

 が、その視界は、彼女のひとことで、さえぎられる。


「……あなた、いま私のこと二軍スペックだとおもってるでしょ」

「は?」


 突然、馴染みのない単語が空を舞い、炭木の率直な感想と激突した。

 おそらく、だれがここにいようとも、同じ言葉がもれたであろう。


「あの……いま、なんて?」

「はぁ……、まず、私は生徒会役員。学校行事はおろか、部活動まで、幅広く顔がきく。いるだけで融通がきくってもんでしょう」

「ん……?」


「あと、名前ね。あなたたち天文部メンバーのフルネームは、『藤崎千鞠(ふじさきちまり)』『炭木青樹(すみきあおき)』『片岡虎ノ丈(かたおかとらのじょう)』」

「あの……」


「そして、私の名前は『安藤咲希(あんどうさき)』……」

「………………」




「……いまお前、私のことサブキャラスペックだとおもったろ」

「うわこのひと、めんどくさいひと(藤崎タイプ)だ」



 ━━第8話 二軍スペック━━



「あの、そもそも、なんの話してるんですか……?」


 炭木、率直素直な疑問である。

 しかしこの女、先ほどのバリキャリムーブはどこへやら。

 安藤咲希の言い分は続く。


「例えば、あなたたちが文化祭である出し物をしたいとする」

「はあ……文化祭?」

「そう。でも、それには学校側の協力が不可欠だった。……ってなったら、あなたたちは、まっさきに私に相談するでしょう?」


「え、生徒会にそんな権限ないでしょ。あとうち、片岡さんいるし」

「うるさいなぁ! どうだっていいのよ、そんなことっ! で、天文部の出し物は大盛況で幕をとじましたと。みんなHAPPY。しあわせ。GOOD END」


「…………」


 自虐的ともとれる口調で話す彼女をみて、炭木はなにかを悟ったように目をとじた。

 口もとじた。


 一泊おくよう、息をすって、彼女はいう。


「……いまお前、生徒会の権限だしとけば、わりと不都合でも、なんでもできるとおもったろ」

「いやっ……──」


「いまお前っ!! 私のこと舞台装置の都合がいいキャラだとおもったろぉっっ!!!!!」

「なんでこの手のタイプは話きかないんだよ。どいつもこいつも」



 ………………

 …………



 初対面のはずなのに、昨日も同じやりとりがあったような記憶が、よびおこされる。

 だが炭木、なぜだかどうしてある既視感に、対処の糸口はみいだしていた。

 話を理解せずとも、この手の輩は適当におだてて、木にでものぼらせておけば、勝手に納得するというもの。

 アホ毛ガールの醜態をおもいだすんだ。


「安藤さんは、なんか、趣味とか特技ってないんですか?」

「しゅぅみぃぃ?」

「よくわかんないですけど、個性とかが大事なんじゃないですか? そういうのって」


「個性……──。──あっ、私、ロボ研はいってるわよ」

「ロボ研! いいじゃないですか。なんか、ロボットとかつくるんですか?」


「そうね。この前もロボコンとか参加したわよ。まあ、配線いじったりするのは、けっこう趣味ってかんじではあるわね」

「おー! おぉ〜……」


「…………」

「……」




「いまお前、展開こまったらおもしろマシンでもつくらせとけばネタ切れしなさそう、とかおもったろ」

「うぅう〜ん…………う〜んん………………」



 ………………

 …………



 ダラダラぐずぐずする空気感に、肩もおもくなっていたところ、やさしく数回、扉をノックする音がなった。


「あら、安藤ちゃん。用事? どうしたの?」

「あ! 片岡先輩っ! 片岡先輩っ!!」


 部室内にそよ風がたったとおもったら、突風がおもいっきりにふき荒れる。

 比較的おおきな双球を横にゆらし、猫撫で声が片岡のもとへと一目散。


「遅かったですよぉ。なにしてたんですかぁ?」

「えっと、ちょっと予算でもめちゃって。安藤ちゃんはここの監査?」


「そうですよぉ! 片岡先輩がくるの、まってたんですから」


 猫撫で声である。

 これでもかという猫撫で声である。

 パンピーがきけば、虫酸がはしろう。


 いっきに蚊帳の外になった炭木だったが、わりとお構いなしに、声をかける。


「あの、距離ちかくないですか。おふたりはどういう関係で……?」

「ん? ただの生徒会の後輩よ? あとこの子、藤崎ちゃんの従姉妹らしいし」

「ああ……どうりで」


 藤崎への失礼は普通に納得する男。


「ちょっとあなた、変なことかんがえてるんじゃ、ないでしょうね? 美女ふたり並べとけば、サブキャラでもある程度の人気商売はできるみたいな」

「いや…………、ん? 美女……?」


 (じょ)


 あえて、炭木の代弁をするならば、「それ勘違いしてるの、1番サブキャラっぽくない?」、といったところだろうか。


「あの……俺から多くは語りませんけど、片岡さんはいいんですか? その、勘違いされてるの」

「あら、私はどっちにおもわれても別にいいわよ。優良誤認なとこあるし」

「自覚あんの、タチ悪いっすね……」


 その呆れたため息に反論したくか、うなずきたくか、片岡は「悪い女」の笑顔をのぞかせた。

 炭木にとっては記憶に新しい、まってましたの顔である。


「そうかしら。でも、いいこともあるわよ?」

「え……?」


 そういった片岡は、炭木のはてなに無視をして、安藤咲希の背後にまわった。


 そして…………。



 もみゅう。



「……!」

「ええっ……!!? ちょっ!?」


「うふふ、すきありぃ〜」



 もみぅ、もみゅぅう。



「ちょっと! 片岡先輩!! これじゃ、人気工作するお色気要員のサブキャラみたいになっちゃいますよぉ!!」

「うふふ、安藤ちゃんはおっきいわね〜」


「…………」



 もみもみ。



 炭木はそれをみても、口をひらくことがなかった。



 もみ、もみうぅ。



 彼がこのような状況に、不慣れであったためではない。



 ももみ、もみぅみうも。



 あえて、炭木の代弁をするならば、「これ指摘したら、なんかこっちが悪者みたいにされるんだろうなぁ」、といったところだろうか。



 ももう、みみぅももみ。



 この男、健全を言い訳にした、不感症か。






「……………………」

「はぁ……、はぁ……」


「…………」




「……ね、めっっっっっちゃ役得でしょ?」

「次あうのムショでも擁護しませんよ」



 ………………

 …………



「とにかく! あなたは私をバカにしています。不愉快です」

「ああ、結局こっちにくるんですね……」


 方向転換というよりは、本題にもどったというべきか。

 そもそも、その本題すらトンチンカンなのだが。


「あの、片岡さん。このひと、いつもこんなんなんですか?」

「うーん、そうね……。ちょっと、思い込みが激しいとこがある、っていうか……。悪い子じゃないけどね」


 その苦笑いからは、1年間ともにしたのであろう、苦労がうかがえる。


 しかし炭木、彼女があの鼻垂れの従姉妹ときいてから、少し覇気がやどった、きがしないでもない。

 そう、この女があの女の一族なのであれば、気兼ねなく適当がいえるというもの。

 もちろん、適当(ふさわしい。)ではなく、適当(いい加減。)である。


「あの、安藤さん。別にそんなサブキャラとか、こだわらなくても、いいんじゃないですか?」

「はぁ? なに? 自分は安定職があるから、余裕ぶっこいて上から目線???」


「いや、安藤さんって普通にかわいいから、俺なんかにからまなくても、だれかの1番にはすぐになれるんじゃないですか?」


「……………………????」


「…………」

「……え」


 かたまる安藤。

 疑問符の炭木。

 こいつマジか、って顔を炭木にむける片岡。


 三者三様にだまりこむ最中、はじめに声をはりあげたのは────。


「──あ……! あんたなんかにそんなことっ!!! いわれたく……ないんだからっっ!!!!!」


 捨て台詞、とよぶには乙女が有り余る。

 安藤咲希はそのまま、おもいっきりに扉をあけると、にげるように天文部をあとにした。



「なんだったんだ、あのひと……」


「………………あの、炭木くん。たぶん炭木くんはわからないだろうから、私がいうわね?」

「え?」


「いまのあの子、人気を画策してるサブキャラっぽさ、いままでで1番あったわよ……」

「ええ……」


 1話完結の作品で過去話のネタ、あんまりいれないほうがいいきがする。

 でもオイラ、カブトボーグとかそらおととか愛しているから、いれたくなっちゃうんだよ。

 次回は10月にでていたらうれしいですね。

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