表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第7話 ラブコメ回


 炭木いわく、今日は藤崎の様子がおかしいらしい。

 気がついたのは昼食時。

 いつものように、ふたりで部室にきて、弁当をつつきあっていたのだが、世間話をしようとも、どうも会話が噛み合わない。

 どうせまた、よからぬことでも、しでかすのだろうと一蹴していたが、そもそも人がかわったかのような、言動そのものが不自然なのだ。


 炭木が「藤崎さん家の弁当いつも美味しそうですね」と社交辞令をしても、「……うん」と猫撫で声しかかえってこない。

 普段であれば、震えたドヤ顔が乱舞し、許容外量のオカズ交換でもしてくるであろう炭木のセリフ。


 だが、今日は違った。

 うつむく彼女は頬を赤らめ、まったく目線をあわせようとしてこない。

 すこしだけ心配になったのか、「どうしました?」ときいても、「いや……ほんと、うん……」と答えになっていない返答をする。

 なんというか、朝からずっと、女々しいのだ。


 これまで、だれもが近所の子供くらいにしか、あつかってこなかったひとが、その実、悩む姿は女の子。

 炭木もまだ高校1年生で、人生経験にはとぼしい。

 悩む異性への声のかけかたなど、わかるわけがなかった。

 そんな艶っぽおとめ状態のまま放課後に突入、いまにいたる。


「…………」

「……」


「…………あの……さ、炭木ぃ。いま……いいか……」

「っ!! は、はい! いいですよ、どうしました?」


 まるで、恋するおとめのような口調。

 緊張のあまり、まくしたてるよう、ききかえした炭木の額には、憂慮の汗がしたたっている。


「男子じゃないと、わかんない話なんだけどさ……、こ、こんな話できる男子さ……、お前くらいしか、いないからさぁ…………」


「別に、全然、大丈夫ですけど……。あの、片岡さんじゃ……?」

「ダメなの! ……お前じゃなきゃ、ダメだから……」


 部室に唾液をのみこむ音がひびいた。

 藤崎は、なにをのぞんでいるのか。

 なにを、のぞまれるのか。


「れ、恋愛……相談だよ……」

「恋愛相談!? 藤崎さんが!?」

「お前なんか失礼だぞ」


 お咎めである。


「い、いや、すみません……。でも、なんで俺なんかに?」


 そうきくと、藤崎はまた視線をそらし、唇をつきだした。

 すこしの沈黙。

 そして、すぐに、はにかみながらも、ぽそりと口をひらく。


「…………お前、…………お前の、ことでの……話……だから……」


「えっ!? そういう体!? そういう体のやつですか!? でも、急にいわれても、どうやって断ればいいかわかりませんよ」

「お前やっぱ失礼だぞ」


 再度、お咎めがおちた。

 しかし、さらりと失恋したはずの藤崎であったが、悲哀は表情にでていない。

 というよりむしろ、怪訝なようす。


「ていうか、なんで私がふられないと、いけないんだよ」

「え? だって、恋愛相談で俺の話ってことは、つまり、そういうことでしょう」


「ちげーよ! 逆だろ、逆!」

「は?」

「お前が私のこと好きなんだろ」


「?????」


「お前が私のこと好きなのに、私は恋愛なんてよくわかんないから、お前のことに1番詳しいお前に教えをこいてるってことだよ!」


「もうっ……、なん……うぅん……、なにからつっこみゃいいんだよ」



 ━━ 第7話 ラブコメ回━━



 つまり、藤崎は炭木が自分のことを好きだとおもっている。

 だが藤崎、生娘であるため、どうすればいいかわからない。

 ならば、炭木のことを1番しっている、本人に相談をしようというわけだ。

 わけだ、じゃないが。


「いや、まあ、俺の話を俺に相談するアグレッシブさはいったんいいとして、そもそもなんなんですか? その前提」

「しらねぇよ! 私のこと好きになったのはお前だろ!!」


 いつもの濁声が鼓膜にとどく。

 もう、おとめの片鱗はうせていた。

 その声をきいて、炭木はすこしだけ嬉しそうにしながら、ため息をつく。


「えーと……そうじゃなくて、藤崎さんはなんで、俺が好きになったと、おもったんですか? なにか理由があるんですよね」

「お、おんおう、そうか、それか。じゃあな、またな、回想はいるやつやるぞ? いいか?」

「ああ、はい。どうぞ」




 そう、あれは、お昼休み前の出来事でした。

 お弁当を片手に部室へとむかおうとしていたところ、背後からだれかによびとめられたのです。


「よっす、藤崎ちゃ〜ん。どこぃくん?」

「びゃっ! えっ!? ま、松山さん……?」


 そう、私がなにかをしようとするとき、必ずちょっかいをかけてくるのは、「一軍おんなキラビヤカ〜ズ」松山さん。

 ギャルという生き物は、自分の楽しさだけをおいもとめ、自分の価値観だけにいきる生物。

 私のような底辺人間への配慮なんてない。

 娯楽をみいだし、しゃぶってしまえば、ポイをする。

 ギャルというのは、怖い生き物。


「で、どこぃくんょ〜」

「あっ……! あの……、部室で……ご飯、食べる……」

「ぁぁ! 例の後輩くんと?」

「う、うん……」


 松山さんはそうきくと、目をほそめながら、にんまりと笑いました。

 その顔が、脳裏にこびりついて、はなれません。

 いま、おもいだしても、鳥肌がたちます。


「ゃっぱさ〜、っきぁってんの? ふたりって」

「そ、そんなことないよ。ただの後輩、後輩」

「ふ〜〜ん……。でも、むこぅは、そぅ、ぉもってんのかな〜?」

「え?」


「たとえばさ! なんか最近、進展みたぃなことって、なかったの?」


 炭木のことを恋愛目線でみたことはありません。

 ですが、クラスメートと久しく会話をしていなかった私は、即座に話をうちきり、彼女に嫌われてしまうことを憂いました。

 なんとかして、くらいつこうと、してみます。


「進展もなにも……。あっ、この前、(人生で)初めてカラオケにいった」

「ぇぇ〜! それ絶対すきだからさそったやっじゃん〜。ほかにはなぁぃ?」


「え、えーと……。あっ、あの、体臭がきになるって話したら、臭い、(かげっていったから)かがれた」

「ひゃ〜、ぇっち! 無自覚にそぅぃぅことされるって、信頼されてんだよ〜」


 ウザがらみの類いなことは重々承知していましたが、私も、もりあがってしまっていたのは事実。

 ですが私はこのとき、彼女がもりあげ上手な一軍女子であることを、すっかり忘れていました。

 彼女のペースに、のまれているともしらず、私は口をはしらせていたのです。


「あ! あとね、あとね……」

「ぅん。ぅん」


「この前、おっぱいとおしりさわられた!」

「はぇ?」


 空気の一変をかんじました。

 正直、なにがダメな発言だったのか、いまでも見当はついていません。


「ふ、藤崎ちゃん……。それ、どぅぃぅ状況?」

「え? おしりに腕はさめば、きもちいいんじゃないかって、いわれて」


 彼女の表情がくもっていきました。

 こんなにも眉をひそめた松山さんを、私は初めてみたとおもいます。


「…………ぁの、藤崎ちゃん」

「ん? な、なに……?」


「それ、利用されてるょ」

「え?」


「だってさ、どんなになかょくても、女の子の胸はさわらなぃょ。って考えたら、カラォケもタィミング見計らってただけかもだしぃ、体臭かがれたってのも、そぅぃぅ……」

「え、えっと……つまり……?」


 松山さんは息をはいて、ためるようにいいました。


「藤崎ちゃん、後輩くんの性欲のはけぐちにされてなぃ?」


「……っっっ!!!?!??!!!!!??!」






「──ってことがあったのよ」

「好き勝手がすぎるだろ。その話」



 ………………

 …………



「ていうか体臭もおっぱいも、全部、藤崎さんがいいだしたことじゃないですか」

「そう! 私もおもった。けどさ、いちいち、つきあってくれてるってことは、それって好きだからじゃないの?」

「ああ、それでそこにもどるんすね……」


 炭木は藤崎の顔を一瞥した。

 その顔は、このふざけた内容に伴っていない必死さで、茶化していいものでないことは、炭木も理解しただろう。

 炭木は、普段の穏やかな声色とはうってかわり、力のこもった声で、藤崎のほうをがっちりみる。


「藤崎さん。もうこの際だから、はっきりいいますね」

「お、おおう。なんだよ……」


「俺は藤崎さんのこと、女性としてみてないです」


 炭木、渾身の謝絶。


「いままでのも、異性としてみてたら、できたもんじゃないですよ。ていうか、つきあってても、やりたくないです」

「あー……そう……?」

「そうですよ。そもそも俺も、男友達とじゃれあうくらいの感覚だったんで、藤崎さんに意識されたら、もうできませんよ」

「すぅー…………、なるほどねぇ…………」


 吐くものすべてはきだした炭木は、スッキリと汗をぬぐった。

 しかしそれをきいて腕をくむのは、納得のいく答えがかえってきたはずの当の本人。

 なぜか不満げな表情をうかべている模様。


「……あの、なんですかその顔」

「ん? いや、べつにね、全然、っていうか」

「ああ、はぁ」


「いってしまえば、紅一点なわけじゃん。私は。この部活の。私はお前のこと好きじゃないけど、お前は私のこと好きであれよ」

「メンヘラガキ大将?」



 ………………

 …………



 またはじまった。

 藤崎が、藤崎である所以。

 久しぶりの、承認欲求バカ。


 しかし、炭木。

 冒頭のフリはなんだったのかと、今回ばかりはだまっていなかった。

 この甘えたガキンチョに、1杯食わせてやろうと、くわだてる。


「じゃあ藤崎さん。まず、仮定として、俺が藤崎さんを好きとしましょう」

「お、おう」

「で、好きだとして、藤崎さんはどうするんですか? 俺が告白とかしてきたら、なんてこたえるんですか」

「え……? なんて……って」


「想像してみてください。俺が告白して、恋仲になった未来を」

「…………」


 炭木は藤崎の生態を理解しているつもりだった。

 予期せぬ思考が介入したとき、あらぬ方向にむかってトンチンカンな回答をだし、結果、大恥をかくという流れ。

 自分自身を触媒に、このワガママガールを、己の言動に慙愧させる。

 それこそが、ひそかなる、しゃらくせぇ、みみっちい、しょんない、炭木による逆襲なのだ。


 だがしかし、炭木は藤崎をみくびっていた。

 この女が、コミュ障で、卑屈で、妄想癖もはなはだしい、残念女子であることを────。


「………………」






 ①夕日が落ちる放課後の教室。


『藤崎さん。すみません、急によびだして』

『お、おう、うん』

『あの…………好きです。藤崎さんのこと』

『おう、うん……まあ、私も……だけど、お前のこと、うん。ど、どういうとこが……好き、とかある……?』

『手間かかるとこですかね。母性をかんじれて好きです』

『だいなしだよ、お前』



 ②街の駅前広場でまちあわせ。


『(はぁ、はぁ、電車が遅れて遅刻しちゃった。炭木のやつ、怒ってないかな?)』

『(遅いな藤崎さん。寝坊かな。寝坊だろうな。ま、べつにいいけど)』

『ごめーん。まったぁ?』

『はい。20分まちました』

『ほんとのこというな』



 ③デート先の遊園地。


『あれのろっ! あれ!! 絶叫系!!』

『あ、あぁー……。いいですけど……』

『おいおい、なんだお前。苦手か? こういうの。ん? お?』

『いや、命にかかわることなんで、不用意にのろう、なんていえないですよ』

『お前いま私の身長のことイジったろ』



 ④下校中の路地。


『じゃあ、俺こっちなんで』

『お、おう……』

『ん? どうしました?』

『うん……、……あのさ、今日、うちに親いないから、……こない? 家……』

『ああ、はい。エッチなことするんですか?』

『全部いうな』










「────────………………」

「あの、藤崎さん……、藤崎さん……?」


「………………」

「あの……なんですか、この時間」

「………………ちょっとまって……」

「え?」


「いま! ゴムのつけかたわかんなくて、ググってるとこだからっ!! ちょっとまって!!!!」


「なんで妄想のディテールこってんだよ」







「………………」

「…………??」




「…………」




「……っ!!!!!」





「俺でっ!!!! なんちゅう妄想してんだ!!!!!! あんたはっ!!!!!!!!」


 セリフばっかな描写、最終的に妥協になっちゃう。

 次回は9月か10月にだせるとおもいます。

 だせたらいいなっておもいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ