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第14話 嫉妬


 典越高校へと続く道の住宅街。

 塀の影に隠れ、ひょこっと生えるアホ毛がひとつ。

 朝日も目を焼きつける中、目当ての男が現れるや否や、シャカシャカ早歩きで追い越そうと試みる。


「あっ……、あー……、あぁー」

「あれ、藤崎さん、奇遇ですね。おはようございます」

「……っ!! およ、おはようっ! 炭木ぃ! なんだお前、もう始業だぞお前。ねぼすけさんがよぉおっ」

「え……自虐?」


 嬉々として炭木の腰回りをソフトタッチする藤崎。

 肩パンするには身長差という障壁があまりに高い。


「しっかしなぁお前、ぼっち登校なんて寂しいことしてんじゃねぇか。友達いねぇのかよぉ!」

「なんか触れづらいっすわ」

「でな! でな! ま、まあ……まぁ、おま、お前さえよけりゃあな、うん、ふへへ、なんていうかな! こう……あのなぁあ……」


 しどろもどろに連ねるも、言葉の続きはなにもでてこない流石のコミュ障。

 しかしそんなことはつゆも知らず、会話の一刀両断か、背後からワインレッドの短髪が横切った。


「あら、炭木くん。奇遇ね」

「あ、安藤さん」


「昨日は天体観測、楽しめたかしら? 校外学習は残念だったけど、こっちも許可だしたぶん、楽しめたならなによりよ」

「へー、生徒会ってそんな許可取りもするんですね」

「そりゃそうよ。ほら、生徒会のおかげで準備できた、みたい回想、やったわよね?」

「ん? んー……」


 ごめん、名前だすことすら忘れてた。

 うっかり作者。


「まぁ……でも、ありがとうございます。安藤さんがいなかったら開催できなかった、ってことですもんね。これからも頼りにしてますよ」


「……………………」

「……ん?」


「……うるさいっ! とにかく、私はまだあんたらの出鼻を折って、センターたつこと諦めてないんだから!! 首洗ってまってなさいよ!!」


 赤面も、飛び散るつばもかまいなく、捨て台詞を吐き散らしながらに走り去ってしまう。

 炭木は呆然としかできないなか、電柱の陰に隠れていた藤崎は静かに口火を切った。


「……あの、咲希ちゃんいった……?」

「咲希……? あぁ安藤さん、先にいきましたよ。そういや従姉妹でしたね」

「おおん……。正月くらいにしか会わないから、全然話したことないけど」


 安藤咲希の後ろ姿を目で追って、藤崎は長い深呼吸をした。

 そして改めて、炭木の顔に睨みをきかせる。


「炭木ぃ、あっ、あのさぁ────」


「ぁれ!? 藤崎ちゃん! きぐぅ〜、ぉはょぉー!」

「ぶぇっへっ!!? 松山さんっ!?」

「珍しぃね、この時間。寝坊?」

「あっ、いや、まぁ、そんなとこ……です」

「そっか! そっか……ぅん」


 例のごとく取り合わせが悪いふたり。

 また、低空浮上の会話で盛り下がった松山は、展開を図るべく、炭木へと視線をむけた。


「ゃーゃー師匠も、ぉ元気ですかぃ?」

「おー、くるしゅうないぞよ」

「またさぁ、色々聞きにぃくかもだけど、そんときゃょろしゅうね」

「はいはい。いつでもどうぞ」


 ほくそ笑みながらも、松山の額には冷や汗が流れる。

 取り合わせが悪けりゃ当然、居心地も悪い。

 ウキウキで、それでいて足速に、まるでアイドルに認知されないよう振る舞うオタクかのよう、そそくさ先を急いでいった。

 「キャー! 藤崎ちゃんとお話ししちゃった♡」、じゃないが。


 そんな松山も去ったあと。

 何事もなかったかのように平然とする炭木だったが、その隣には、今にもおでこがねじ切れそうなジト目の姿。


「しかし今日は賑やかですね」

「…………、……なぁ」

「はい?」

「あのふたり……お前のなに?」

「え、友達ですけど」


「おうそうか。お前もうなんか死ねよ」

「えぇっ!? 今までで1番、突拍子ないなっ!!?」



 ━━第14話 嫉妬━━



 仏頂面で頬杖をつく藤崎に、沈む日差しが照りつける。

 顔を見合わせた苦労人コンビ、片岡と炭木は、ヒソヒソ話で意見をすり合わせようとした。


「嫉妬ね」


「え、どういうことですか」

「もう、こんな時だけ鈍感ね。炭木くん、最近は交友の幅が広いじゃない? それで嫉妬してるのよ」

「なるほど、先輩女子の友人枠ってアイデンティティが失われて、焦ってると」

「む〜……この際それでもいいわ。ほら、実際私とヒソヒソ話してたら……」


 →眉 (シワ) 眉←

   ぐいぃ〜。


「うわっ! めっちゃ怒ってる!?」


「藤崎ちゃんのメンヘラ承認欲求お化けっぷりは、炭木くんも知ってるでしょ。いま、藤崎ちゃんを満足してあげれるのは炭木くんだけ。言葉じゃない、心の底から大切に想って、1番であることを示すのよ」

「はぁ……よくわかんないですけど……」


「む。……じゃあ、炭木くんがずっと一緒にいるひと、それはだあれ? あなたにとっても、かけがえのない存在のはずよ。愛していて、好きだから、だから、一緒にいる。炭木くんが1番大切に想っている女性……それはだれなの!!?」


 その勢いにたじろぐ炭木をみて、片岡はニタリとした笑みをうかべる。

 

 そう、片岡はあのトンチキ恋模様を諦めていなかった!!

 この鈍感不感症男、荒治療で心に訴えかけなければ、LOVEを抱くこともなし。

 ならば、洗脳まがいの誤認をさせればいいのだ。

 周りがやれ愛しているだの、やれ大切にしろだの冷やかせば、実は好きなのではと錯覚をおこすもの。

 敷いたレールの上を、おてて繋いで歩かせる。

 それこそが片岡の描く、ふたりのLOVEロードマップなのであった!!


 ひとりで勝手に興奮する片岡を前に、炭木の顔もこわばるばかり。

 彼はいま、一体、誰を想い描いているのか。


「1番、大切にしている女性……」

「うん! うん……!」




「…………、……母親……ですかね」

「うわぁ模範解答」



 ………………

 …………



「藤崎ちゃんでしょ!? 藤崎ちゃん!! そんな屁理屈いらないわよ!!」

「わかりませんよ……そんなの……。正直、こういう状況は俺よりも、片岡さんの得手じゃないですか。宥めてやってくださいよ」

「ダメよ!! 炭木くんのことなんだから、自分でやらなきゃ!!」

「えぇ……」


 炭木は顎に人差し指をおいて、顔をゆがませた。

 そこにいつもの洞察が取り柄の面影はない。

 あがった目尻が眉根を顰め、この理不尽には納得がいっていない模様。

 寸刻の末、表情そのまま、炭木は藤崎へと歩み寄せた。


「……藤崎さん」

「あ? なんじゃコラ」


「この前、藤崎さんが話してたアニメのガチャガチャ、たまたまみかけて回したんで、あげましょ────」

「カァァッーーート!!!! カット!!! カットォ!!」


「なんですかもう……」

「ダメよ、そんな色気のない解決のしかた!! ほら藤崎ちゃん、物欲しさでちょっとソワソワしだしちゃったじゃない」

「じゃあ円満なのでは」


 ひょこひょこソワソワしだしたアホ毛をよそに、片岡の熱弁はとまらない。


「第一、こんなしょんないことで気分悪くしたくせに、物もらったから解決、なんて藤崎ちゃんのしつけにもよくないわ」

「このひとが1番刺すじゃん」

「ちゃんと根本から解決するのよ。そのためには藤崎ちゃんになんて声をかけるか、炭木くんならわかるわよね!」


 ここぞとばかりの、熱を帯びた言葉が室内にこだまする。

 もうヒソヒソ話の域はこえており、当然、藤崎の耳にも届く声量。

 彼女の不平不満も、半分くらいはこの話の内容に移っていた。


 だがしかし、その熱意が炭木の細胞を震えたたせた!

 普段こそ洞察視姦野郎として名を馳せる炭木であったが、その実、ある一定の感情にのみ、ラノベ主人公かのようなプロテクトが展開している。

 だが今回は、そこに一筋の熱いパトスが風穴を空け、藤崎の世界へ一歩踏み込む猶予を与えたのだ。

 炭木の脳内に、認識もしていなかった言葉が、飛びかかってくる。


 嫉妬。

 大切。

 メンヘラ承認欲求お化け。


 先輩女子の友人枠……。




「登校……ですか」

「……!!!?!」


 藤崎の肩がピクっとはねる。



「藤崎さんは俺と一緒に登校したかった」

「す、炭木ぃ……!」


「だが時間も時間。入り乱れる生徒に邪魔をされ、満足にお話しすることすらできない」

「ずぅ……ずみきぃぃい!!!」


「もっと余裕のある時間帯に、ゆっくり一緒に登校したかったと、そういうことですね!!」

「ずうぅ、ずみゃきゃぁあ!!!」



「だったら俺も、もっと余裕もって家でますよ。今度からは待ち合わせして登校しましょ!」

「うんっっ!!! するっっ!!!!!」


 鼻垂れながらにわっしょいわっしょい、数時間ぶりに笑顔が灯る。

 ふたりして、両手を取り合いながらランラン気分で、みているこっちが気恥ずかしい。

 すこしばかり予定が狂った片岡だったが、「まぁこれはこれで」、と優しい眼差しをむけ、ある日の放課後は幕を閉じるのだった────。



 ………………

 …………



「活動中ごめんなさい。片岡先輩は……」

「あら安藤ちゃん。どうしたの?」


 扉を叩いた先にいたのは赤色の短髪、万年バイトリーダー安藤咲希。

 プリント片手におずおずと、なにやら警戒でもしているかのような体勢である。


「あ、先輩、資料忘れていたので届けにきました」

「ほんと!? ごめんなさいね迷惑かけて、ありがとう」


 キョロキョロと部室内を見渡したのち、今度は炭木に対して手招きをした。


「ちょっと炭木くん、いいかしら……」

「え、俺?」

「大丈夫、すぐに終わるから」


 炭木が部室の外へと連れだされた。

 が、いまのわっしょいハナタレ状態の藤崎にはへでもない。

 いくらこの場で籠絡されていようが、明日になれば、自分の手中にあるという肯定感。

 炭木との時間はそれほどまでに、尊重してしかるべき事象なのだ。


「せっかくならさ、片岡も一緒にさ、待ち合わせしようぜ」

「いや生徒会の用事あるから無理」

「うぇ、めっちゃ早口……」


 ひとやりとりしているうち、炭木もすぐに戻ってきた。

 扉の隙間ごしに、そそくさ夕陽に溶けていく安藤咲希の姿も確認できる。


「ほんとに早かったわね」

「なんじゃぁ? なに密会してたんだお前」

「いや、そんな隠すようなことでも、ないんですけど」


 すると炭木は、譲り受けたのだろうか、小袋を片手に胸の前へともってきた。


「このクッキー、調()()()()()()()()()()らしくて、余ったぶんくれたんですよ。別に()()()()()()()()()()()()()()、らしいんですけど。なんか食べたら感想もほしいとかで、()()()()()()しまして」


「……!?」

「………………」


「せっかくですし、みんなで食べましょうよ。しかし女性って、こんなかわいい小袋、常備してるもんなんですね」

「ちょ……ちょっと炭木くん、それ以上は────」




 バンッ!!

 (椅子に座る擬音)



 ダンッ!!

 (肘を机に置く擬音)



 ぐいぃぃ〜っ!!

 (眉間に力が入る擬音)




「は? 私クッキー嫌いだし。いらんしそんなん」


「え、なんでふりだし?」

「ダメだこりゃ」


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