第11話 ゴールデンウィーク
ホワイトボードの前にたち、注目をうながすよう、高らかに拳をつきあげた藤崎へと、ふたりの視線が交差した。
なお、ここにいたるまで、数分間における「藤崎奇行時間」があったが、今回は割愛とさせていただく。
「明後日から! ゴールデンウィークだぁぁあっっ!!!」
「わー!」
「おー」
軽い拍手もおこるなか、藤崎は自分のことでもないのにニヤけ顔。
こういう役回りは片岡のほうが適任であるが、天文部はなぜか、このコミュ障陰キャ女が部長であるため、座して聴衆に従事していた。
「そして今週の土曜日、天文部も1日だけ活動があります! 日帰りで、プラネタリウムにいくのです!!」
「へー、そんなのあるんですね」
「ふふ、でも新入部員の歓迎会みたいなものだから、毎年ゆるいわよね」
「まぁそうだな。ただ聞いての通り、炭木は強制参加だぞ」
「あ、はい」
いわく、元々はプラネタリウムで天体観測をする校外学習だったが、わざわざ出向くわりには1時間しか上映時間がないらしい。
じゃあ、近くの海辺で新歓も兼ねてしまおう、というわけなのである。
5月でまだ海開きはしていないが、潮風を堪能しながらの疑似キャンプは、日帰り旅行に最適なのだとか。
「私は日夜、仲良し部活にするための、あれやこれやをやってんだろ?」
「あぁ……」
「うん……ね」
歯切れの悪い返事である。
「そこで! 今回はいい機会だとおもいました。おふたりにも思案していただき、私の苦労を共有したいのです。仲良くなるための、あれやこれやを、かんがえてください!!」
「はい!!」
「あい片岡!!」
「セックス!!!!」
「SSのノリ?」
━━第11話 ゴールデンウィーク━━
「やめろその、設定も世界観もガン無視してる、キャラのこと肉塊としてしかみてない同人のやつ、やめろ」
「詳しいね、藤崎ちゃん」
藤崎、墓穴。
「でも、急になにやるかっていわれたら、むずかしいものですね。レクリエーションってことでしょ」
「うーん、ハンカチ落とし、フルーツバスケット……」
「それ俺、先月やりましたよ。アイスブレイクで」
「まぁ、やるわよねぇ」
悩むふたりに、藤崎はなにやら満足げな様子。
しかしこいつ性格が悪い。
「おいおい、なんじゃ! なんも思いつかんのか! こういうときは、目的地からやれることを連想するもんだぞ」
藤崎は自分のことを棚にあげたアドバンスをした。
炭木も、片岡も、「いま、棚にあげたなぁ」とおもったろうが、指摘はしない。
「目的地かぁ、海辺っていっても、泳げはしませんもんね。じゃあ、バーベキューとか」
「あ、バーベキュー私は反対。1年のときにやったんだけど、道具の準備とか、移動とか大変で、ろくにお肉を焼く時間もなかったわ。食材も各自で持ち帰りになったし」
「なるほど……3人だと、なおさらですね」
「う〜ん……」
唸るふたりを眺めてか、藤崎はそっと腕を組んだ。
上座にたつと、なんとなく偉くなった気がするのか、薄ら笑いがとまらない。
先輩面というやつである。
この程度で。
「もっと広い目でみて、どんどん案をだしていきましょ。海といえば……ビーチボールとか」
「海ですもんね。マリンスポーツ系ってできたりします?」
「海…………悪質なナンパにからまれてる私をふたりが助けてくれて色々あったけどそれが1番の思い出になって帰りの車の後部座席で3人肩よせあって寝て運転してる顧問がお疲れ様っていうやつ」
「ひとりだけベクトル違うのよ」
「でもそれなら、ナンパに屈服させられて、わからされる展開のほうが私は好きよ」
「ほらもう、収拾つかなくなってきたぁ」
………………
…………
「ていうかこれ、現地集合なんですか? 俺、場所もわかんないですけど」
「おう、安心せい。顧問の斉藤先生が車だしてくれんのよ。片道1時間くらいのとこだな」
「はぁ……、ていうか、天文部って顧問いるんですね」
「うふふ、そりゃあ部活なんだからいるわよ。ちなみに私は過去2年の新歓で、2回しか会ったことないわよ」
「私も」
「教師に在宅ワーク常駐とかあるんだ……」
顧問というワードに主軸がぶれそうになったので、片岡はすぐさま話を戻す。
3年生、生徒会の地力といえよう。
「マリンスポーツは許可とるのがむずかしそうだし、他に案がないなら、アクティビティはビーチボールでいいかしら? ボールとネットは学校の備品でいいから、申請すれば確実よ」
「おお、さすが生徒会。顧問のひとにはいってもらえば、ゲームはできますし、時間的にもちょうどよさそうですね」
「うん、そうだな」
「昼食は各自お弁当を用意しましょ。おかず交換会なんてしても、楽しいかもね」
「そうですね。あ、なんならうちに花見用の重箱あるんで、ひとり一段つくって持ち寄るとかどうですか?」
「えっ! 楽しそう!! おにぎり担当とおかず担当にわかれるってことよね。いいわねそれ! みんなはひとが握ったおにぎり、食べれる?」
「いけます」
「いける」
「じゃあきまりね。炭木くんは明日、お弁当箱もってきてね」
「はいっす」
「私は暇にならないように、トランプとかもってくることにするわ」
「かさばらないですしね。お願いします」
「うん……そうだな」
「いやしかし、案外はやくまとまりましたね」
「ええそうね。土曜日が楽しみ」
「うん…………そう……、だな…………」
「…………」
「……」
その掠れた声をようやく認識したのか、ふたりの笑顔もだんだんひきつったものになっていく。
そう、この会話には3人目がいる。
目にハイライトをなくし、弱々と部屋の隅を陣取る、3人目が。
「あの、藤崎さん……。どうしました……?」
「いやぁーー、べっつにぃぃー。おふたりは楽しそうでありんすねぇぇーー、ってだけですけどぉー…………」
「藤崎ちゃん、別に私たちだけじゃなくて、藤崎ちゃんもやりたいことあるなら、いってもいいのよ。せっかく3人でいくんだから」
「そうじゃなくてさぁ……、なんか、ふたりでさぁ、さくさくっとさぁ、おもろそうなやつ決められたらさぁ、なんか、私の立場ってさぁ、なんか、ないよなぁってさぁ……」
「……?」
「私ぃ、いなくてもいいひとなのかなぁ……!」
「情緒どうなってんだこのひと」
………………
…………
どんよりと、部室の角の住民と化したすみっコぐらさー藤崎であったが、以外にも、ふたりはこの小動物を見捨てなかった。
「藤崎さん、顔あげてください」
「……え」
「そうはいいますけど、俺は藤崎さんがいないと、ここにきてないですよ」
「そうよ。私も入部したのは、藤崎ちゃん目当てだったし」
「…………、ん……」
「ひとには向き不向きがありますよ。たしかに普段の藤崎さんはポンコツですけど、ひとを惹きつける力ってのは間違いなくあるとおもいます」
「……!!」
「やることは分担でもいいでしょう。天文部は少人数なんだし、後腐れなくいきましょうよ」
「う、…………うんっ!!!!!!!!」
バカでか従順肯定。
「じゃあさ! じゃあさ!! 私もなんか、もってきていい?」
「なにもってくるんですか」
「え、なんだろ……ゲーム機とか」
「アウトドアを楽しめよ」
「うふふ、藤崎ちゃん完全復活ね」
「ふへへへへ、いやぁーー、な! 土曜がな、楽しみだなぁ!!」
*
校外学習当日!!
降水確率98%!!!!!!!!!!
降水量、34mm!!!!!!!!!
例年稀に見る、ゴールデンウィーク雨天直撃コース!!!!!!!!!!!!!!!
………………
…………
斉藤『わり、さすがに車出せん。埋め合わせするから今日は中止にして。』
片岡『了解しましたー。(T ^ T)(T ^ T)』
炭木『了解です。』
*
「あ、もしもし、藤崎さん?」
『………………、おう』
「あの、全然既読つかないから、連絡してくれっていわれまして。今日、中止に……」
『………………………………、わりわり、みてなかったわ! まぁそうだわな。こんな雨んなかいって、なに楽しむねん! って話だわな』
「はぁ…………、あの、藤崎さん」
『おう! なんじゃ!』
「なんか、やけに雨の音、近いですけど、外……学校いってたりします?」
『……すっ…………………………、ガハハ! んなわけねぇーだろ! 朝っぱらからこんな降ってんのに、まさかいくわけねーよなぁ!!』
「なら……いいですけど」
『おう! おう!』
「……あの、藤崎さん。風邪だけは、気をつけてくださいね……?」
『……………………おう、…………おう……』
バケツをひっくり返したような雨の音が、その消えいる声を遮ってしまい、炭木の耳に、返事が届くことは、ないのであった────。
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