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自称底辺DTMerの幻想交響曲  作者: 音羽 裕(大黒 天)
第二楽章「悪夢の『舞踏会』」
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第二楽章「悪夢の『舞踏会』」(1)

第二楽章「悪夢の『舞踏会』」(1)


 デスクから振り返り、壁にかけてある時計を見る。もう午前0時を過ぎたか。こんなことはもう慣れっこになった。


 電子部品を製造する「尾州北西電子工業」に入社して、もう半年程が過ぎた。

 主に光通信で使われる電子部品を製造する課に配属された俺は、毎日ただ延々と部品を製造する日々を送っていた。

 俺が担当するのは、主に研究機関から依頼を受けて作る特注品だ。なので製造過程もかなりややこしく、一個の部品を作るのに何日もの工程を要する。しかもそこでトラブルが発生したら、またやり直しだ。


「水沼君。まだ今日の作業終わらないの? どんだけかかってるの?」


 もたもたしていると上司である後藤がまた嫌味をぶちまけてくる。こっちだって早く終わらせて帰りたいのはやまやまだけど、膨大な作業量をこなすには定時で終わらせるなんて土台無理な話だ。

「すみません。早く終わらせるよう頑張りますから……」

「口でだけならなんとでも言えるからね。やるなら行動で示してよ」

 後藤は鼻で笑いながら俺にそう言う。クソが。


 バンッ!


「早くやれって言ってんだろっ! なんでやれないんだよっ!」


 隣の部署からは机を激しく叩く音と、生産管理課の佐橋課長の怒鳴り声が聞こえる。こんなのももう日常茶飯事だ。

 そもそも、この会社は生産管理が滅茶苦茶だ。毎日、深夜まで働かないと追いつかない生産計画を組まれ、深夜になっても製造部門の社員は誰も帰ろうとはしない。それどころか昼休みもロクに取れず、栄養ドリンク一本で一日を乗り切ることもざらだ。


 あまりにハードなので毎月のように人が辞めていき、そして新しい社員が入ってくる。派遣社員も忙しくなれば大量に雇い、用がなくなればすぐにバッサリ切ってしまうのがうちの会社だ。

 とんでもない会社に就職しちまったなと思いつつ、作業に戻ろうとしたその時。


 プシュッ!


「冷てぇっ!」

 俺はそう叫びながら思わずのけ反った。後藤が俺に逆さまにしたエアダスターのスプレーを吹きかけたのだ。エアダスターを逆さまにすると冷気が噴出されるので、それを分かってのことだ。


「ハッハッハッ……」

 後藤は嘲り笑うような声を上げながら、俺のもとを去っていく。

「……ふざけんなよ」

 俺はそうつぶやきながらも、また作業に戻った。


 午前2時前。イライラしてラジオを聴く気分にもなれず、カーステレオの電源を切ったまま俺は車で家路を急ぐ。

 あれだけ好きだった音楽もストレスに感じてしまうなんて、俺はどうかしてると思う。

 もう思考能力さえも低下し、俺はただ車を飛ばしていた。


 こちらへ帰ってきてから彼女ができた時期もあったけど、長時間労働で疲弊して相手をしてあげられず、すぐに振られてしまった。どうしようもないことだけど、俺は自分の境遇を恨んだ。


 日曜日になり、昼まで寝倒した俺はPCを立ち上げ、MIDIシーケンサーを開く。

 こんな状況だけど、DTMはやはり止められなくて、鈍足ながらも曲作りは続けている。


 一応、お金はそれなりに入るようになったので、俺は新しいハード音源「SC-8850」を購入した。MIDIケーブルではなくUSBケーブルで繋げるタイプで「SC-88Pro」の改良版だ。

 やはりハード音源はもたつきがなく、綺麗な音が出るから好きだ。MIDIコントローラーとオーディオインターフェースも購入し、作曲環境としてはそれなりにいい物を揃えているつもりだ。


 志田っちは元気にしているだろうか。DTM同好会の思い出がふと頭をよぎる。

 多分、就職活動もしたんだろうけど、ちゃんと音楽関係の仕事に就けたんだろうか。


 俺はこんな有様だけど、あいつには夢を見続けてほしい。そんな気持ちが沸々と湧いていた。

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