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自称底辺DTMerの幻想交響曲  作者: 音羽 裕(大黒 天)
第一楽章「若き日の『夢、情熱』」
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第一楽章「若き日の『夢、情熱』」(2)

第一楽章「若き日の『夢、情熱』」(2)


 今年もまた春風が吹き始め、冷たく尖った空気も過ごしずつ和らいでくる。


 そんなこんなで大学生活も2年目に突入し、毎週の実験が始まるなど忙しくなってきたが、俺は学生生活を謳歌している。

 たまにポカはやらかすものの、とりあえず単位はそつなくとっている感じだ。


 だが、俺はとんでもない凡ミスをやらかしてしまった。

 DTMに熱中していた俺はつい深夜まで音楽に没頭してしまい、翌朝に寝坊して英語のテストに遅刻。なんとか先生に拝み倒して途中からテストを受けさせてもらったが、結果は思った通り不可で単位を落とすことになってしまった。


 そんなこんなで、俺は新入生に交じって英語の再履修を受けている。英語は必修科目なので、この単位を取らないと4年生には進級できない。これからは他の講義も大変になってくるので、どうしても落とせない単位だ。


 広い講義室の中を見渡しても、周りは知らない顔ばかりだ。履修する学生のほとんどが1年生で、俺みたいな2年生以上の学生はまずいない。

 同級生の助けは借りられないけど、まあ仕方ないかと思いつつテキストを開こうとすると……


「あのー、すみません。今、何時ですか?」


 右隣から聞こえてくる声に、俺は脊髄反射で振り向いた。

 そこに座っていたのは、赤いシャツに黒っぽいジーンズ姿の眼鏡をかけた学生だった。知ってる顔じゃないし、多分1年生だろう。


「ああ、10時23分ですね」

「ありがとうございます!」

 俺が平坦な声でそう答えると、眼鏡の学生はにっこり笑いながらそう答えた。どうやら、俺と話すきっかけが欲しかったみたいだ。

「ところで、あなたも1年生ですか」

「いや……2年生だけど、悪いか?」

 俺はそう答えながら、学生をじっと見る。

「あっ、すみません。失礼しました!」

「いいよいいよ。別に怒ってないし」

 すぐさま頭を下げる学生に、俺は穏やかな口調でそう答えた。

「ところで君、名前はなんて言うの?」

「あっ……えーと、僕は志田幸由しだゆきよしって言います。情報工学科の1年生です。よろしくお願いします!」

 そう言うと、志田と名乗る学生は俺に深々と頭を下げた。


 英語の講義が終わって昼休みになると、俺は志田と学食で昼食を共にしながら色んな話をした。

 偶然にも志田は俺と同じくDTMをしており、音楽にはだいぶ詳しいみたいだ。MIDIの打ち込みもしているようで、そのあたりはものすごく話が弾んだ。

「俺、作曲家になるのが夢なんですよ、水沼先輩。絶対に音楽関係の仕事がしたいと思ってて」

「ほー、そうなんだ。何か理由でもあるの?」

「それはですね……」

 そう言うと志田は、一冊の雑誌をテーブルの上に置いた。どうやらアニメ関係の雑誌のようだ。


「このページに小さく載ってるんですけど……『村咲結むらさきゆい』っていう声優さん、知ってます?」

「いや……知らないけど」

 志田が指さしたのは、雑誌の片隅に載る女性の小さな写真だった。

 ショートカットで、ちょっと幼い感じも見える。けれど本当に片隅で、明らかに売れているとは言い難い。

「ですよねー。まだデビューしてそんなに経ってないですし」

 そう話す志田の表情は本当に活き活きとしていた。


「結ちゃんは最近、CDデビューしたんですよ。歌声も透明感があって凄く綺麗だし、もっと売れてもいいと思うんですけどね」

「まあ、俺は聴いたことがないから分からないけど、でも本当に好きなんだね、その結ちゃんって人」

「もちろん! 作曲家になりたいのも、いつか結ちゃんに自分の曲を歌ってほしいっていう夢があるからですね」


 はぁー。それは果てしなく大きい夢だなと思いながら、俺はまた志田の顔を見る。その瞳には一点の曇りもない。これだけ大きな夢を持てるのは、ある意味凄いなとも思う。

「そうだ、水沼先輩。今度、先輩の曲も聴かせてもらっていいですか?」

「ああ、いいよ。夜にでも俺の部屋に来ないか?」


 こうして俺と志田は友人となり、お互いに作った音楽を聴かせ合うようになった。


 そしてここから、俺たちの運命が動き始めるのだ。

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