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自称底辺DTMerの幻想交響曲  作者: 音羽 裕(大黒 天)
第三楽章「荒れ果てた『野の風景』」
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第三楽章「荒れ果てた『野の風景』」(5)

第三楽章「荒れ果てた『野の風景』」(5)



「一馬……お前、毎日夜中まで一体何をしてるんだ?」


 昼過ぎにのそのそ起きていつもの如くカップ麺をすすっていると、向かいに座ってテレビを見ていた父が俺にふと問いかけた。


 何をしてるって、俺は夜を通して絢瀬さくらの曲を書き続けている。結果は伴わないにしろ、俺にとっては大切な時間だ。けれど、そんなことを言ったって父には分かってもらえないのは十分承知の上だ。


 父は今年の春に会社を定年退職し、今は一日中家にいる。母は昼前にパートへ出てしまうので、出勤する前に作った昼食を父はいつも一人で食べている。それ以外はぼんやりテレビを見ているか、それともうたた寝しているかだ。


「……俺には俺のやるべきことがあるんだ。あまり構わないでくれないか?」

「お前がやりたいことを止めるつもりはないが、せめて朝に起きて規則正しい生活をした方がいいぞ。その方が精神にも……」

「はいはい、分かりました」

 父の話を話半分に聞きながら、俺はスープが残ったカップ麺の容器を持って流し台へと向かった。



 冷房が効いた自室でいつもの様にPCの前に座り、動画サイト「スマイリー」でバーチャルシンガーの曲を聴き漁る。音楽ジャンルのランキング上位に入っている曲を一通り聴くのが俺のルーティーンだ。

 画面に表示された再生数ランキングをざっと眺めると……。

 

「『闇の深淵にて』(FUJI feat. 絢瀬さくら)か。これ、かなり再生数が伸びてるな」


 デイリー再生数1位の曲がふと目に留まり、俺はすぐさまリンクをクリックする。


…………。


---------------------------------------------

僕らは目覚めた時から 振り払えない闇をまとい

ただあてもなく 歩き続ける


無為に過ぎていく毎日 底冷えのする世界

地べたを這いずりながら 僕らは生き続ける


I Dreamed a Dream.

思い通りにならない世界の中で

僕らはどう歩いていくか


I Dreamed a Dream.

深い闇の深淵にて 幾日もの時を重ね

ささやかな生きた証を 僕らは遺すのみ

---------------------------------------------


 うん。正直、歌詞はそれほど印象には残らない。

 けれど、曲のクオリティやさくらの調声、それに動画の美麗さはかなりのものだ。これは確かに評価されるのも頷ける。


 そして、動画に寄せられているコメントをいくつか見てみると、


「この作曲者の『FUJI』って、『エタプロ』のコンポーザーだってマジ?」

「マジだよ。検索してみろよ」


 ふと目にしたコメントが気になり、俺もすかさず『FUJI』で検索してみる。


---------------------------------------------

 FUJI(音楽プロデューサー)


 本名:富士谷ふじたに 勝昭かつあき


 愛知県稲沢市出身。

 尾張中島高校・愛知ITデザイン専門学校卒。


 卒業後は「大洋デジタルエンターテイメント」に入社し、ゲーム音楽のサウンドプログラマー、コンポーザーとして活躍。代表作にRPG『エターナル・プロミス』など。


 現在はフリーの音楽プロデューサー、コンポーザーとしてアーティストからバーチャルシンガーまで、様々な楽曲を手掛けている。

---------------------------------------------


 ……嘘だろ?


 なんか、信じられない。あの富士谷がこんな形で俺の前に姿を現すなんて思いもよらなかった。

 

 富士谷が大学にも行かずに専門学校に進学したのを、俺も含め同級生は心の中で軽蔑していた。けれど俺はいつの間にか、奴に決定的な差をつけられていたことに今になって気づくなんて。

 

 俺の負けだ。非常に悔しいし不本意だけれど、今はそれを認めざるを得ない。


 ぐらぐらと腹の中で何かが沸くのを感じながら、俺はそっとブラウザを閉じた。

 

 心がズブズブと深い闇に堕ちていくのを感じながら。


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