第三楽章「荒れ果てた『野の風景』」(3)
第三楽章「荒れ果てた『野の風景』」(3)
名古屋の家電量販店から帰宅して早速、袋を開ける。
「絢瀬さくら」とポップな字体で書かれたロゴと、ピンクのサイドテールの女の子が描かれたイラストが目にまず映った。
こういったキャラクター商品っぽい物は今まで買うことがなかったので少し気恥ずかしかったけど、ここから俺のバーチャルシンガー使いとしての道が始まるのだというワクワク感もひしひしと湧いていた。
そんなこんなでバーチャルシンガーソフト「絢瀬さくら」を手に入れた俺は、すぐさま自分のPCにインストールした。
エディタを少し触ってみたが、MIDIの予備知識がある俺にはそれほど苦にはならなかった。
あとはちょっと複雑な発音記号を覚えるだけだが、さくらは日本語ライブラリのシンガーなので平仮名で入力してもなんら支障はない。
そして、最初に作る曲はもう決めていた。
大学生時代にMIDIで作ったメロディに歌詞をのせ、歌ものにするつもりだ。
タイトルは『ポジティブ』。
正直、今の気分はあまり前向きじゃないけど、せめて歌だけでも前を向いていきたかったからだ。
メロディは既に出来ているので、さくらのエディタを開いてコツコツとメロディと歌詞を打ち込んでいく。
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強く吹く風に 背中を押されて
前に進もう 力の限り
くじけそうに なる時もあるけど
上手く乗り越えて 日々を駆けて行こう
明日はきっと 晴れになるはず
恐れずに一歩ずつ 歩みを進めよう
闇を打ち払い 光を呼び込む
力を振り絞り 前へ前へ前へ ずっと
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自分でもかなりクサい歌詞だと思うけど、なんとか形にすることができた。
あとはこれを動画にして「スマイリー」にUPするだけだ。
そして数日後。
フリーの動画作成ソフトを駆使してなんとか動画を完成させ、昨日の夜にスマイリーへUPした。
恐る恐る動画を開いてみて、再生数とコメントを確認する。
「【絢瀬さくら】『ポジティブ』【オリジナル曲】」
再生数:124
◎コメント
・( ´_ゝ`)フーン
・昔のゲームみたいな音質だな
・曲にインパクトがない。歌詞はまだマシかな
・チップチューンにした方がよさそう
辛辣な意見にちょっとガックリきたけど、まあ、最初だし反応はこんなもんか。
「あっ、パイセン。さくらの曲、聴きましたよ! いい感じですね!」
その夜に俺は志田っちに電話をかけ、曲の意見を聞いた。
唯一、肯定的な意見をくれたのは志田っちだけだ。
奴は一応、音楽関係者だしお世辞かもしれないけど、それでもいい意見をもらえるのは嬉しいことだ。
音楽の道は厳しいけれど、それでも俺は自分なりに歩いていきたい。そう思える瞬間だった。




