第66話作戦会議
目を覚ますと俺の鼻の上にてんとう虫が乗っていた
少し動くと驚いててんとう虫は去って行き俺は髪の毛をわしゃわしゃと掻き上げてあくびをして立ち上がった
随分と長くなったな……
そう思いながら生えてきた髭を触り背中に大剣を携えたまま寝ていたせいで背中がいたい
そしてすぐ横を見ると衝撃で周りの草が消し飛び丸ハゲになっている草原の跡があった
「あの女……」
俺は少し怒りが湧き上がり拳を強く握ったがこんな事してる場合じゃない
大体9時ぐらいか
俺は木の下に下ろしてあった荷物を手に取りエルドリアへ向かった
森にある木の葉っぱの隙間から太陽の光が差し込みその光が俺の目を照らす
歩いていると川の音が聞こえ川の上に置かれてある岩に足を乗せ川を渡り向こう側へと辿り着いた
森を抜けると途轍もなく大きな畑や放たれている家畜達が見えた
その前には木の門がありここに来た人を歓迎しているように見える
俺は木の門を潜り遠い先には目指していたエルドリアがあった
ただその国に向かって歩いているだけなのに周りにいる人達は俺を驚いた目で見て来る
皆、俺の大剣を目にしていたのだ
「魔術師殺し様か……?」
「国王様は今日来ると言っていたよな?大きな体格に大剣を持ち合わせているって……」
「まだ魔術師殺し様って決まった訳じゃないだろ、無礼者かもしれない」
「た、確かに…」
そんな声が聞こえしばらく歩いた後、エルドリア王国の城下町に繋がる開かれた門に直面すると後ろには無数の農業者達が、久々に見たラッセルが門の前に立っていると俺に向かって片膝を付き敬意を示した
何千、何万人か、そんな莫大な人達がまるで俺を救世主、英雄のように見ており一斉に跪いた
そしてラッセルが言う
「魔術師殺し様、ようこそ」
「あなたをご歓迎しましょう」
そして俺の歓迎会が始まった
ラッセルに連れられ城下町に入ると国民達の大喝采が聞こえる
爆音で少し嬉しい気がするがその気持ちも大喝采による耳の痛みによって一瞬で消え失せた
馬車に乗せられ移動し連れて来られたのはこの国を統率する王が座る玉座の前だった
玉座には王が座っており立ち上がると俺に近づいて来る
横にいた案内人のラッセルは跪き俺も片膝を着こうとした瞬間だった
「其方が魔術師殺しか、膝など着かなくてもいい」
王様は親しく俺の肩に手を置いて言った
「私の名はアルトバッハ・ノストス・ベルトロス、この元エルドリアの国を統率する国王だ。君は?」
「エディだ」
「随分と……小汚いな、噂では美形の王族だと言われていたが……まあ所詮は噂だ」
「エディ、夜には舞踏会が開かれる。主役は私だが平民の君でも参加できるようにされてある。文句を言う者は私が許さないし……そもそも魔術師殺しである君に牙を向ける馬鹿者は居ないと思うがね」
「一体何が言いたいんだ?」
「ああっ、私は少しお喋りが過ぎるタイプでね、夜までラッセルが案内してくれる部屋でゆっくり過ごすといい」
「君が行きたい所にラッセルは何処でも案内するだろう、竜人族の国にだってね。………ただの冗談だ、気にしないでくれ」
「ではラッセル、エディ君を部屋へ」
「かしこまりました」
あの嫌味臭いラッセルが消えたみたいなラッセルは王様の命令を受け入れ俺を連れて案内し始めた
どうしてエルドリアの損傷がこんなに少ないのかとラッセルに聞いてみた所、あまり強い奴が襲って来なかっただとか、国の冒険者達の連携が上手いおかげだとか
だだっ広い王城中を歩き回り辿り着いたのはかなりの上階にある場所の部屋だった
ラッセルが扉を開けるとそこはまるで王女様でも住んでそうな大層立派な部屋だった
「では私はこれで……」
ラッセルが扉を閉めようとドアノブに手を掛けた
「待て」
ラッセルはピタリと止まり俺の方を見た
「いつまでそんな態度を取るつもりだ?前みたいに接しろよ」
「すみません、今の私には過去の記憶と言うのが無くて……その、魔術師殺し様にお会いしたのは覚えているのですが、曖昧で……」
「俺に似た奴にやられたのか」
「……多分、そうでしょう」
「わかった。もう席を外してもいいぞ」
「はい、では舞踏会の前に作戦会議があります、準備が整いましたらまたお声掛けします」
そう言うとラッセルは扉を閉め俺は広い部屋の中1人になった
俺はベットに座り深く溜息を吐くと目の前にはブチギレているデットがいた
「テメェ!!俺との約束はどうした!!」
デットは俺の胸ぐらを掴み持ち上げ向こう側の壁に放り投げ俺は壁に激突した
「やっと、俺の肉体が手に入るって時にお前は!!何考えてやがる!」
「復讐の為にアストレア達と離れただけだ、それにこの肉体は俺の物だ。決してお前の物じゃない」
デットはずっと我慢してきた怒りを俺にぶつけてきた
俺の顔を殴り俺は吹き飛ばされタンスに背中を強打する
デットは俺に覆い被さり顔を押して地面に叩きつけると首を絞めて来た
「いいか!?俺はお前の所有物じゃねえ!俺は俺だ!!テメェが指図していい程、安い命じゃねえんだよ!」
デットは俺の顔を殴り俺の鼻や口から血が出て床に飛び散る
「だから後でって………」
「何回言うつもりだテメェ!!」
俺はデットの顔や横胸を殴り顔に手を当てて引き剥がそうとする
そしてデットに向けて放った拳の一撃が当たりデットがふらついた所を俺は押しながら立ち上がり壁に叩きつけた
「お前が勝手に入って来たんだろ!!少しは黙って俺の言う事を聞いとけ!」
「自由を目にさせた瞬間これかよ!これなら最初から乗っ取るつもりでやればよかった!!」
デットは俺の腹を殴り俺が腹を抑えて後退りする俺の顔に向かって膝蹴りをお見舞いした
「ごはっ!!!!」
鼻血が大量に出て床にビシャビシャと溢れる
デットの拳を避け脇に挟み顔を掴んで近くのクローゼットに向かって思いっきりぶつけた
デットが倒れそこに俺は顔に向かって数発殴り俺は立ち上がった
「いいか……」
俺は片方の鼻の穴を抑えてフンッと溜めていた息を鼻から出し中に残った鼻血を出した
「俺が復讐を果たしたら約束を果たす、もし俺がこれを破ったらお前に俺の肉体の権利を渡してやるよ」
気付けばデットはいなくなっていてデットと争って出来た怪我は幻覚ではなく実際についてしまったものだった
拳がヒリヒリして見てみると皮が剥け血がこびりついていた
「部屋……汚しちまったな」
しばらくして数時間後
ラッセルに呼び出され連れて来られたのはここの国王や各国から集まった生き残りの冒険者達がいる会議室
皆、円を囲むように座っていて俺は空いた座席に座った
「では作戦会議を始めよう」
すると国王の使用人が地図を開き皆に見えるように見せた
南にあるのはエルドリア王国、そこから北に進み、あるのはエレーミアス神聖国、十騎士達がいる王国だ
司会を務めるのはこの冒険者達を率いるボレアスバレスと言う男は魔術師でありながらも反魔術師であり世にも珍しい鋼の証を身に付けている
他にも物凄くデカい鎧を着ている大男がいて迫力満載でまさに作戦会議という雰囲気に相応しい
「作戦としてはエルドリアと神聖国を挟むように置かれてある砦や城塞の破壊だ、ここを制圧しない限りエレーミアスに攻撃は出来ないだろう」
「地形においては奴らが有利ですがその砦の制圧についてはまず二つの班に別れる、魔術師殺し率いる一班とここにいる冒険者の代表が率いる二班です」
「一班は真正面から突撃、二班は横にある森から攻め情報網となる物や武器庫を焼き払ってから一班と合流、砦を制圧。力を合わせなければ勝てない」
「敵は十騎士の部下もいる、手強い敵もいるだろうし様々な箇所に配置されてある砦を壊し続けるなら必ず取り返しに来るはずだ。その時は誘い出しゆっくり時間を掛けて十騎士を崩壊させよう」
「では国王、よろしいですか」
ボレアスバレスが国王に聞く
国王は頷き魔術師殺しである俺と協力して十騎士達を殺害する事になった
「異論はありませんか」
しかし不安もある
冒険者の1人が手を挙げボレアスバレスは頷く
その冒険者は傭兵で数々の戦場を歩いて来たらしい
名はリューク、見た目は和服を羽織った老人の男だった
「野戦になる場合はどうする、攻めるか?包囲するか?」
「それは現場にいる私が決めよう」
「そう言われても……」
「私を信じてください」
「……では食料や水の確保は?エルドリアから引っ張って来るのか、襲われた場合、どうする」
「敵の拠点から奪えばいいでしょう」
「ゆっくり時間を掛けると言っていたが冬に入れば戦は難しくなる。奴らは高度な魔術を持っていて反撃され、もしもの事があれば逆転の恐れもある。兵力が足りなくなった場合は?」
「エルドリアには数百万避難者の中の4割が冒険者です、兵力は十分であり相手側の同盟国はおらず物資の調達もかなり難しいでしょう。相手が想定以上強くないと逆転はされないかと」
すると他の冒険者や騎士達、権力者が手を挙げ始めた
「……皆さんの質問は後日時間を作って聞きましょう、一旦会議を終わらせ舞踏会へと休憩に入りましょう」
ボレアスバレスが国王を見ると国王は微笑んで頷き言った
「一旦作戦会議は休憩に入るとしよう、これにて今日は終了をする」
そうして終わると息を吐く暇もなく俺は召使達に案内され自分の与えられた部屋に辿り着いた
「ではお着替えください」
「え?」
言われるがままに風呂場へ導かれ召使達が俺の血生臭い服や体や髪を洗い始め俺は恥ずかしくて抵抗する
「じ、自分でやれる!やれるから!」
「いいからじっとしてください!」
そうして体を洗わされ髭も丁寧に剃られ髪も整えられると舞踏会に相応しい格好にさせられた
そして王城の大広間へと案内され足を運んだ




