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顔のない彫像 終

 久家家は住宅街で時折見かける日本家屋だった。

 良い所のお嬢様であるのはわかっていたが、いざ厳かな門構えを前にすると身構えてしまう。

 やはり、お嬢様なのであろう影村さんは特に気にする様子はなかったが、出は庶民である貴幸さんには気づかれたらしく、こそっとわかるよと耳打ちされた。


「これでよし」


 包帯を巻き終え、軽く足を動かしてみる。


「手慣れてるんだね」


 縁側に座り、何やら資料を読んでいた貴幸さんが振り返り、そう言った。

 久家と影村さんは怪異の影響が残っていないか調べてるため、席を外しているので今は二人だけだった。

 二人とも、俺の手当てが終わるまで離れないと言って聞かなかったが、軽傷である事を強調し、また久家達の方が心配だからと繰り返す事で納得してもらったのだ。


「まあ、部活をやっていたらこれぐらいは」

「そうなの? 生憎、部活とは縁遠い学生生活だったからなあ」


 前聞いた話だと中学生の時に久家のお爺さんと出会ったらしい。

 となると、その頃からこちら側に関わっていたのだろう。部活をやる時間はなさそうだ。


「怪我が多かったのもありますけどね」


 フィジカルが弱いわけではないが、怪我は他の人と比べると多かった。

 とはいえ、骨折や肉離れなどの大きなものではなく、今回みたいに捻挫や打撲なのだが。


「ふーん」


 貴幸さんは興味があるのかないのか、よくわからないリアクションを取る。

 そもそも、視線が患部から離れていた。

 どこを見ているのかと視線を追うと……俺の髪へ向けられていた。


「あっ」


 そういえば、ずっとウィッグを被ったままだった。

 何か言いたげな貴幸さんを無視し、無造作に取る。


「取っちゃって良いの?」

「……いいんです」


 タイミングを逃しただけで影村さんにはちゃんと謝ろうと決めていた。

 この先もずっとだまし続けるなど、精神的にも肉体的にも辛い。


「もう被る必要ないので」

「えー、もったいない。似合っているのに」


 この男は笑顔で何を言い出したかと思えば……。

 疲労もあり、合わせる気力はないので遠慮なく睨む。


「本当だよ。……別に女の子っぽいって言いたいわけじゃない。ただ、それぐらいの長さなら似合うなって」

「はあ」


 別に男性だから長髪は似合わないと言うつもりはない。

 ただ、背中ぐらいまであるのは違和感が先にくる。


「貴幸さんは伸ばさないんですか?」

「くせ毛でね。これ以上伸ばすと朝が大変なんだよ」


 くせ毛だったのか。

 手入れしているからか、パッとみではわからなかった。


「秀人君も桜花さんも綺麗な直毛で羨ましいよ」


 髪は母からの遺伝らしく、小さい頃は事あるごとに言い聞かされた。

 父はくせ毛とまではいかないが、湿度が高い日などは爆発している。

 思えば、髪だけでなく、顔や手の形なども母親似だと言われてきた。


「確かに久家の髪は綺麗ですよね」


 きめ細やかと表現すれば良いのだろうか。

 太陽に煌めく黒髪はまさに絹糸のような髪だ。

 顔の造形も優れているが、一番目を引くのは髪ではないだろうか。少なくとも俺はそうだった。


「…………」

「なんですか、黙って」

「いや、秀人君が言うと爽やかだなって」

「は?」

「僕が言うと嘘くさいやらいやらしいとか言われるからさ」


 そんな事を言われても。

 嘘くさいのはもちろん、いやらしいとの感想もわかる気がする。

 何を口にしようと引っかかる人からすれば意味深に聞こえるのだ。


「何を馬鹿な事を言っているんだ」


 呆れた声。振り返ると久家がいた。

 方法はわからないが、思っていたより早く終わったようだ。


「どうだった?」


 俺の問いに久家は問題ないと言い、座布団の上に腰を下ろす。


「それより、君の方は」

「こっちも問題なし。これぐらいなら三日もあれば治るよ」

「良かった……」


 久家はほっと胸を撫でおろす。


「ところで影村さんは?」

「見た所、精神に干渉された形跡があったからな。身を清めているよ」


 身を清めるとはと思ったが、一旦頭の片隅に置いておく。

 それよりも精神への干渉には心当たりがあった。


「多分、桜の木のせいだな」

「あいつもそう言っていた。……まさか他の七不思議まで具現化しているなんて」


 唇をかむ様子に、そういえば久家は知らなかったなと経緯を振り返る。


「久家が捕まった後、資料室に逃げ込んで……そこから他の七不思議にも遭遇するようになったんだ」

「という事は僕との連絡が途絶えた後だね」


 貴幸さんが会話に入ってくる。

 久家は何故近江がとの顔をしているので大雑把に説明する。


「“ここにいる”の具現化……解決……顔のない彫像、か」


 当然、久家が知らなかった情報にも触れる事になる。


「知らなかったな」


 呟き、貴幸さんを見やる。

 貴幸さんは視線を庭へと向けたまま、機密事項だったからとだけ言う。

 久家は不満げに鼻を鳴らすが、何も言わなかった。


「でも、異変には気づいていたんじゃないの?」


 貴幸さんの言葉に久家がピクリと反応する。


「……どういう意味だ」

「そのままの意味だよ。何かが変わった事には気づいていたんじゃないかな」

「ま、待ってください」


 剣呑な雰囲気が漂ってきたため口を挟む。


「久家は影村さんに頼まれたから足を運んだわけで……そりゃ、資料に書いてあったから想定はしていたと思いますけど」


 説明するが、貴幸さんは笑顔で違う違うと手を横に振る。


「僕が言っているのはもっと前、桜花さんが学院に通っている時の話だよ」


 学院に通っている時に何に気づけたと言うのだろうか。

 反論はないのかと久家を見る。

 一見落ち着き払っているが、机の上に置かれた手には明らかに力が入っていた。


「言いたい事があるならはっきりと言ったらどうだ」

「じゃあお言葉に甘えて」


 かまかけかとも思われたが、貴幸さんには何か確信があるようだった。

 立ち上がり、久家の正面に座る。

 その表情はいつもの胡散臭いものではなく、真剣なものだった。


「彼女の言葉に耳を傾けたね?」

「っ!」


 目に見えて久家は動揺を見せる。

 どうやら、思い当たる事があったようだ。

 しかし、言葉の意味を俺は理解できなかった。


「秀人君、実は幽霊が見えると一口に言っても個人差があるんだ」

「あ、それは……」


 旧校舎で影村さんから聞いた話だった。

 影村さんは幽霊の声が聞こえるとかで、久家も同じはずだと。


「それなら話は早い。……力の強い人でも幽霊の言葉は断片的にしか聞き取れないんだ」


 影村さんを思い出す。

 幽霊は要領を得ないと言っていたが、もしかしたら断片的にしか聞こえていないのかもしれない。


「かくいう僕もほとんど聞き取れない」


 でも桜花さんは違うんだと貴幸さんは言う。


「幼い頃から時折はっきりと会話している節があった。あの頃の桜花さんはやんちゃもやんちゃだったから、聞いてもろくに教えてくれなかったけど」


 もしかしたら椿さんは知っているかもねと付け加える。

 久家は微動だにしない。


「恐らく、誰とでも会話できるわけじゃない。波長が合ったり、思いが強い霊限定のはずだ」

「……何かマズイんですか?」


 情に流されたりなどの懸念はあれど、情報面などメリットも多分にあると思うが。


「事例としては具現化した都市伝説や怪異を出さないといけないんだけど」


 僕達みたいのが会話できるのは具現化した場合に限るからねと苦笑する。


「見えないモノが見える……だからこそなのかな、僕達は本質的に幽霊(彼ら)に同調しやすい。彼らの声に耳を傾けるなって先生にも口酸っぱく言われたよ」

「そういうモノなんですか……」


 ふっと貴幸さんが笑う。

 何故だといぶかしんでいると、


「やっぱり、秀人君は“見えない”んだね」

「「っ!」」


 しまった。完全に油断していた。

 反応で見破られてしまったか。いや、そもそも疑われていたんだ。


「そんな怖い顔をしないでよ」


 しかし、貴幸さんは思いのほかあっさりしていた。


「誰にも言うつもりもないし、こちらの世界に関わるのを止める気もないよ。……無茶はダメだけどね」


 安堵感と違和感のせいでどうにも気持ちの収まりがつかない。

 久家も貴幸さんの本心を探るかのように鋭い視線を向けている。


「信用ないなあ」


 貴幸さんは苦笑いを浮かべ、自業自得かと嘆息する。


「前にも言ったけど桜花さんは一人で突っ走る所があるからね。秀人君がいてくれると僕としても助かるんだよ」


 人狼の事件の時に聞いた。

 俺と出会う前の久家は知らないが、その気があるのはわかる。


「桜花さんがわざわざ見えない人を引き込むなんてって疑問はあるよ? だから付き合っているのかなって思ったんだ」

「つ、つつつ付き!?」


 久家が同様のあまり大声をあげる。

 頬を赤く染め、目を見開いていた。そんな可愛い反応をするのかというのが率直な感想だ。

 貴幸さんはそんな久家を楽しそうに見ながら、


「まあ、理由はなんだって良いんだよ。騙されているとかなら話は別だけどね」

「だ、だましてなんかいない!」


 久家の言葉に合わせて頷く。

 人を食ったような言動は時折するが、騙すなどの悪意を持った事はされていない。

 貴幸さんは俺達の言い分を聞き、そうかそうかと納得――。


「――でも、隠している事はあるんだろ?」


 笑顔でも真剣でもなく、無表情。

 感情の色を消したその顔は、貴幸さんだからこそ怖かった。


「そ、それは……」


 流石の久家も気圧される。


「何も洗いざらい話せとは言っていない。ただ、こちら側に引き込んだのなら“力”については言っておくべきだ。そうだろ?」

「…………」

「お、俺は気にしてないんで!」


 俺の言葉は貴幸さんには届かない。

 無視しているのではなく、まるで聞こえていないかのように反応がない。


「…………時折」


 ポツリと久家が呟く。

 その様は吐露ではなく、こぼれ落ちるかのようだった。


「声が聞こえる……。会話と呼べるモノではなく、一方的な独白……。でも、たまに……」


 意思疎通を図る事ができる幽霊がいる。


「彼女も、そうだった……」


 彼女と言うのは赤い目の少女だろうか。

 中学時代、旧校舎近くのベンチでご飯を食べているとフラフラと近寄って来たらしい。


「三人目だった……。まるで生きている人みたいで……。友達のように……」


 久家が止まる。

 うつろな目を過去へと向けていた。


「ある日、彼女が零した……。お父さんが殺されたって……」


 てっきり生前の話かと思っていたが、彫像に捕まる時に彼女の感情に触れ、わかったのだという。


「私に対する強い……憎悪……」


 綺麗な思い出は砕け散り、裏に隠されていた激情に心が揺らいだ。

 あの時の涙の意味を理解した。

 でもそれは七不思議に取り込まれたからではとの疑問は久家が否定する。


「顔のない彫像は元々彼女が由来だった……。取り込まれ、歪められる事はない……」


 胸に重くのしかかった暗い感情は本物だと久家は確信している。

 正直、助かったのが不思議でならないと久家は言う。


「……秀人君達が彼女の心を救ったからだろうね」


 一歩間違えれば命はなかった、と貴幸さんはあっさりと言い放つ。


「貴幸さん……だって、命の危険はないって……」


 貴幸さんはにっこりと微笑み、


「間違っている可能性はあったからね」


 だから、こうして急いで駆け付けたんだと貴幸さんは言う。

 嘘だったのかと怒りにかられるが、


「君達から聞いた話と僕の持っている情報を合わせたらあれが答えだった。ただ、桜花さんの反応が気になったのも、それを言わなかったのも事実だ」

「なんで……」

「懸念事項なんてね。この世界、数えだしたら終わらないんだよ」


 止めはしないが、入ってくるなら飲み込んでくれ。


「納得をする必要はないよ。でも、叫んだ所で聞いちゃくれない」


 大きく深呼吸をする。

 意地悪い言い方かもしれないが、貴幸さんの言葉はきっと大事な事なのだろう。

 今までの感性のまま言葉を連ねた所で意味はない。


「……わかりました。肝に銘じておきます」

「うんうん、秀人君は良い子だね」

「茶化さないでください」


 本心なのになと戯言を吐く貴幸さんは無視し、久家の横へと行く。


「久家」

「先輩……」


 弱弱しい姿は何度か見てきたが、憔悴している姿は初めてだった。

 彼女の救いたいという気持ちは、裏を返せば幽霊への強い思いとなる。

 そんな中、仲良くしていたと思っていた幽霊が実は……苦痛は想像に難くない。


「大丈夫。俺が……俺が何かをしたわけじゃないけど、彼女は救われたと思う」


 影村さんが言っていたんだと前置きし、


「“ありがとう”、“ごめんなさい”、“三階行かなくて良かった”」


 ありがとうは俺に対してだと影村さんは言っていた。


「ごめんなさいはきっと久家に対してだと思うんだ……」

「私、に?」


 彼女は三階に行かなくて良かったと言った。


「久家が助かった事を喜んだんだ」

「そうだろうか……」

「きっとそうに違いない。……だって、俺が“納得している”から」

「っ!」


 貴幸さんの前で匂わす事を言うのはためらわれたが、納得云々は資料室の時に言っていたので疑われる事はないだろう。


「俺、思うんだよ。彼女は久家に甘えていたんじゃないかなって」


 久家は頼りなさげに俺を見る。

 説得力に欠けたか。


「友達ってのは時に、どうしようもない感情のはけ口にしてしまう事があるんだ」


 もちろん、それで友情に亀裂が走る時もある。


「彼女が久家に向けた感情も、纏まらない思いをただただぶつけただけかもしれない」

「……でも、あの子のお父さんは」


 貴幸さん達が――久家家が対処した。

 七不思議は上書きされ、お父さんの幽霊も歪められていたという。

 仕方がない。

 そう頭でわかっていても割り切れない思いはあるだろう。幽霊なら尚更だ。


「そこら辺は貴幸さんのせいって事で」

「酷いなあ。まあ、間違っていないけど」


 大人の責任だと言うつもりはない。だけど、貴幸さんには雑に責任を投げても心は痛まない。


「もう謝る機会はないかもしれない。だからこそ、久家があの子との友情は本当で、どうしようもない思いを遂ぶつけてしまったんだねって思ってあげないと」


 そうでないと彼女は本当に久家を憎んでいた事になってしまう。


「思い出してごらん。一緒に過ごした時を」


 久家は目を閉じ、過去に思いをはせる。


「……嘘だと思うか?」


 久家はためらいがちに首を横に振る。


「なら、本当だったんだ。それが久家にとっての真実、だろ?」

「…………ああ、そうだな」


 久家は震える声でそう言うのだった。

 頬を伝い落ちる涙から目を逸らし、すっかり軽薄な態度に戻った貴幸さんを軽く睨む。あの追い込み方はないだろう。

 しかし、貴幸さんはへらへらと笑うだけで反省する節はない。

 これは椿さんへの報告も考えないといけないなと思った時だった。


「はー、さっぱりした。秀佳も借りたら? 沢山走って汗かいた……」


 お風呂もといお清めを終えた影村さんが戻ってきた。

 体からは薄っすらと湯気が出ており、火照りから頬は赤く染まり、良い匂いがふんわりと鼻腔をくすぐる。

 そんな影村さんは目を見開き、口をあんぐりと開ける。

 視線は俺の頭上……いや髪へと向けられていた。

 

「あ、あんた誰よ!?」


 再起動した影村さんが大声をあげる。

 どうやら、ウィッグを取ったら別人だと判定されるらしい。それとも、現実逃避だろうか。


「うるさい……」


 シリアスな雰囲気が台無しだと愚痴をこぼしながら久家は立ち上がり、傍らにあったウィッグを掴み、俺の頭にのせる。


「秀佳!」


 取る。


「誰!?」


 のせる。


「秀佳!?」


 取る。


「誰!!?」


 完全におもちゃにされていた。

 俺は久家の腕を掴み、からかうのをやめさせる。

 不満げに唇を尖らせるが話が進まないので見ないふりをする。


「ええっと」

「……ほ、秀佳、なの?」

「う、うん」


 ウィッグをのせ、秀佳本人だと伝える。


「え、でも男……あれ? 秀佳は女の子でだって学院の中にいたしそれに綺麗な肌をしていたの久家とのやり取りも仲の良い感じで私は羨ましくだけど秀佳は男……男!!?」


 凄い勢いでバグっていたが聞かなかった事にする。

 久家も貴幸さんも引きつった笑みを浮かべていた。


「ごめん! 実は男なんだ!」


 まさか、こんな台詞を言う日がくるとは……。

 途中から完全に隠す事を忘れていたけど、影村さんの素直さに救われたのかどうなのかは判定が難しい。


「…………」


 影村さんは何も言わない。

 頭を下げているため表情も確認できない。

 怒られても、失望されても何も言えないが、それでも影村さんとは友達になりたかった。


「虫の良い話だってのはわかっている! それでも、もし良ければちゃんと……秀佳ではなく、吉井秀人として友達になってほしい!」


 そう言って顔を上げる。

 影村さんは……ショートしていた。

 目をぐるぐるさせ、頭からは湯気もとい煙が噴き出ている。


「秀佳は男で友達で良い子で良い男……」


 ブツブツと早口で呟くが何を言っているかは聞き取れない。

 恐る恐る名前を呼ぶ。


「はっ!」


 正気に戻り、一歩下がる。

 完全に警戒されていた。当然だが。


「…………る」

「ご、ごめん。聞き取れなかった」


 今の状況でもう一度と頼むのは勇気がいる。できるだけ低姿勢で頼む。

 影村さんはあーもうと地団駄を踏み、


「友達になってあげるって言ったのよ!」

「ちっ」


 後ろで舌打ちが聞こえたが、恐ろしいので聞こえないふりをする。

 それよりも今は影村さんだ。

 見ると影村さんは明後日の方向を見ながら右手を突き出していた。

 これは……握手だろうか。

 チラチラとこちらの様子をうかがう視線も感じるし、間違ってはいないだろう。

 久家と貴幸さんに見られながらはちょっと恥ずかしいなと思いつつ、右手を出す。


「よろしく、影村さん」

「~~~っ! ……こ、こちらこそ」


 色々あったが、最後に影村さんとも友達になれたし、久家も無事だったしで結果良ければ全て良し……とはいくまいか。

 脳裏を過った疑問。

 久家が助かったのは、俺が赤い目の少女の魂を救ったからだと貴幸さんは言った。


 ――果たしてそうだろうか。


 幽霊が見えない俺は当然会話をする術も持たない。

 本当に救いになる事などできようか。

 もちろん、可能性はある。けれど、長らくの間、言葉をかわした久家を持ってしても救えなかったのに。

 “見つけた”という正解を引いたから……。七不思議と一体化した彼女の答えをもって救済は完了したと?

 答えは出るはずもなかった。

 何故なら、どのような仮定を重ねようとも全てを無に帰す力があるかもしれないからだ。


 “顔のない彫像”の真実は歪められ、俺の“納得”のいく形に置き換えられた。


 疑念は一つ積み重ねられ、物語は終わりを迎えるのだった。


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