鵜呑みは良くない(非物理)
今後も何度か眼の手術で入院することのなる。
私の話だけでは飽きるので、これから度々ある入院中にあった印象的な話もしていこうと思う。
私はいつも眼科の相部屋に入院していた。
いつだったかの入院で、白内障の80代のおばあちゃんが入院してきた。
通常の両眼の白内障の手術は、長くとも2週間だったと思うが、最初から1ヶ月の予定になっていた。
通常より入院日程が長い場合は、他に持病があり、さまざまなリスクが考えられることが多い。
80代のおばあちゃんtだし、まあ持病があろうがなかろうが、リスクが高いからだろうと思っていた。
しかし、違っていた。
まあ、リスクが高いことには変わりないので、完全に間違いではないのだが、持病や年齢による身体的影響によるものではなかったということだ。
付き添いで来ていたおばあちゃんの息子さんのお嫁さんによると、おばあちゃんは、これまで病気もすることがなく、ほとんど病院に行ったことがなく、身の回りのことも自分でする達者な人だったらしい。
そのおばあちゃんが、
「急がねんちょも(急ぎじゃないんだけど)、ここんとこ(最近)白内障で眼がめえねぐなくなってきたけんちょも(見えなくなってきたから)、病院に連れてってくなんしょ(連れて行ってくれ)。」
と、言われて連れて来たら、医師に
「何でこうなるまでほっといたんだ!」
と、怒鳴られ、そのまま入院になったらしい。
あっ、それ多分とっつぁん先生だ。
とっつぁん先生は白内障の専門医だし、私も同じように怒られたし。
さて、何故健康なおばあちゃんが怒られて即日入院になったのかと言うと、白内障の末期状態だったかららしい。
白内障が進行したからと言って、直接死ぬような病気ではない。
しかし、進行すると、炎症を起こしたり、眼内の圧力が高くなり視神経がダメージを受けて見えにくくなる緑内障を起こしたりする。
緑内障は、白内障に似た名称であるが、全く異なる病気である。
白内障はレンズを入れ替える手術で見え方か改善する。
しかし、緑内障の場合は、一度ダメになった視神経は回復しないため、手術は眼圧を下げるもので、手術後の見え方の改善はなく、日本で一番多い失明原因となっている。
また、白内障の進行が進むと、水晶体が硬くなり、摘出するために、通常は2mm程の切開で済むところを、5mm以上切開する必要があり、摘出に時間を要する。
なんだ、たった3mmくらい傷が大きくなるだけじゃないかと思った人もいるだろう。
確かに、体の表面の浅い傷であれば、2mmも5mmさして変わらないであろう。
しかし、眼の場合には、1mmでも傷が大きくなると炎症などのリスクが大きくなり、手術後の経過に大きく影響があるのだ。
今回入院したおばあちゃんは、大きく切開しての手術になることから、通常より長期の入院となったそうだ。
それにしても、そこまで白内障kyが進行していたら、随分前から見えにくくて困っていたのではないか?
それとも、最近急激に進行したのか?
不思議に思っていたら、驚きの理由があった。
お嫁さんによると、おばあちゃんは既に20年前から白内障の症状があったらしい。
まあ、年齢を考えれば、普通な話だ。
ちょうどその頃に、白内障の手術をしたおじいちゃんが近所にいたらしく、おばあちゃんは白内障について話を聞いたそうだ。
その時にに、おじいちゃんが、
「白内障は、死ぬ病気じゃねえ(でははい)。見えるうちは手術をしてはなんね(してはいけない)。見えねぐなってから(見えなくなってから)したほうがいいんだぞい(したほうがいいんだよ)。」
と、言ったそうだ。
その近所のおじいちゃんは、医師でも、医療科関係者でもない、ただの一般人だったそうだ。
おばあちゃんは、とても素直で、とても真面目な人だったので、近所のおじいちゃんの言う通りに、自分で身の回りのことが全くできなくなるまで、白内障を進行させてしまったらしい。
家族も、おばあちゃんが自分で最近まで自分の身の回りのことをやっていたし、時々見えにくそうにしていたことに気付いていたが、それは老眼のせいだろうと思っていたそうだ。
だから、主治医に怒鳴られ即日入院しなければいけないほど白内障が進行していたとは、付き添いのお嫁さんも思っておらず、驚き焦ったそうだ。
とても達者なおばあちゃんで、自分の白内障の重症度や、それに関わる影響を理解していたので、
「おら、そだに(そんなに)ひどいことになってっとは分がんねかった(分からなかった)。世話かけてわりいことしたない(迷惑をかけて申し訳なかった)。」
と、落ち込んでいた。
こういう時に相部屋とはいいものだ。
同室のおば様方が、
「奥さんは、悪ぐないぞい(悪くないよ)。おらも白内障で入院してるし、誰でもなるんだがんない(なるものだよ)。」
「ほだぞい(そうだよ)。それより、あんた運がいいばい(運がいいじゃないか)。あの先生は、白内障の手術がうまぐで有名なんだぞい(上手で有名なんだよ)。」
などと、励ましていた。
また、食事時間恒例の手料理配布会で『プチ料理自慢大会』が始まると、
「いやー、奥さんは料理うめえんだない(料理が上手だね)。おら、こだうめえの食ったごどねえ。(こんなにおいしいもの食べたことない)。」
などと、もらったおかずを食べて喜んでいた。
そして、このおばあちゃんも翌日から『プチ料理自慢大会』にエントリーし、またまた私の入院中の食生活がさらに豊かになった。
やはり相部屋での交流は、不安が紛れて良い。
いよいよおばあちゃんの手術の日。
普通の白内障手術より難しく、1時間かかっていた。
手術が終わり、主治医から説明を受けて、おばあちゃんより早く病室に戻って来たお嫁さんが、摘出した水晶体を見せてくれた。
白い布の上にあった水晶体は、白濁ではなく茶色くなっていた。
また、触らせてもらうと、プラスチックビーズのように硬かった。
水晶体は、その周りの筋肉により変形させ厚さを変えることで、ピント合わせをしている。
大学の生物実験でイカの解剖をし、水晶体を取り出した時、水晶体はタンパク質でできていて、透き通った無色で、タピオカのように弾力のあるものだった。
もし、新鮮なイカを調理をすることがあったら、イカの眼球から水晶体を取り出して見て欲しい。
柔らかいことが分かるし、小さい文字の上仁置くと、文字が拡大して見え、レンズであることが分かるであろう。
ちなみに、生きの悪いイカの場合、白濁し白内障の様子も見ることができる。
それにしても、白内障を放置しておくと、このようになるのかと衝撃だった。
おばあちゃんは、両眼とも手術の経過も良く、人工水晶体を入れたら、新聞も読めるようになっていたのが何よりである。
ということで、白内障に気付いたら、病院に行き、医師の指示で治療・手術をして欲しい。
また、どのようなものでもそうだが、自分のよく知らないことについて、人の話を鵜呑みにせず、情報を精査して欲しい。