表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

上を向いて歩こう

 初診しょしんから3日後みっかご眼科がんか病棟びょうとう入院にゅういんした。

 病室びょうしつは、6にん相部屋あいべやで、自分じぶんはは祖母そぼにあたる世代せだい方々(かたがた)一緒いっしょだった。

 手術日しゅじゅつびまでは、とくにやることもなく、テレビをたり、同室どうしつのおば様方さまがたはなしをしたりしてごした。


 さて、ここで網膜剥離もうまくはくり白内障はくないしょうについて、はなしをしておこうとおもう。

 網膜もうまくとは、なかはいったひかり部分ぶぶんである。

 網膜が眼底がんていからがれてしまうことを網膜剥離という。

 網膜が眼底から剥がれると、眼の中に入った光をのうつたえることができず、結果けっかものが見えなくなる。

 網膜剥離とくと、ボクシング選手せんしゅや、キャプテンつばさのロベルト本郷ほんごうを思いかべるひとが多いかもしれない。

 眼につよ衝撃しょうげきくわわることできやすいが、私の場合ばあいは、体質的たいしつてきに網膜がよわかったかららしい。

 私が手術を受けたころには、網膜剥離の手術方法しゅじゅつほうほう確立かくりつしていたので、術後じゅつご経過けいかければ完治かんちするものだった。

 白内障は、水晶体すいしょうたいというピントをわせるレンズ部分ぶぶんしろにご症状しょうじょうである。

 くもりガラスをとおして見るようなかんじなので、光が散乱さんらんしてまぶしくて見えにくくなり、これを周明しゅうめいという。

 主治医しゅじいがよく白内障の患者かんじゃさんに説明せつめいしていたが、白髪しらがおなじように老化ろうかだれでもなる症状である。

 これもまた私の場合には、体質的になりやすかったらしい。

 むかしの白内障の手術は1週間いっしゅうかん入院するようなものだったが、1いっぱく入院や日帰ひがりで受けられるようになっていた。


 それでは、本題ほんだいの私の手術について話をしよう。

 朝一番あさいちばんで、手術を担当たんとうする東京とうきょう大学病院だいがくびょういん先生せんせい診察しんさつを受けた。

 その先生は、低音ていおんこえで、ニコラス・ケイジに似たしぶい感じが印象的いんしょうてきだった。

 1ヶ月後いっかげつごの診察でえたのはうれしかったなー。

 手術は全身ぜんしん麻酔ますいおこわれた。

 手術室しゅじゅつしつ手前てまえの部屋で、手術ベッドにあがり、眼の洗浄せんじょうなどをしたあと、手術室へ移動いどう

 点滴てんてきがつけられ、くちにマスクがあてられ、医師いし指示しじで2、3かい深呼吸しんこきゅうをした後からの記憶きおくく、つぎ気付きづいた時には、自分の病室のベッドの上だった。

 麻酔がのこっていてあたまがぼーっとする中、看護師かんごしさんと体調たいちょうなどを確認かくにんした。

 全身麻酔による手術ということでかまえていたが、わってみると、『なんだ、余裕よゆうじゃん。』って感じだった。

 点滴てんてきが終わるまでは安静あんせいということで、麻酔によるほどよい気怠けだるさにまかせて、そのままねむりについた。


 さて、私は手術後しゅじゅつごに、『なんだ、余裕じゃん。』と思ったのだが、点滴終了後てんてきしゅうりょうご認識にんしき修正しゅうせいすることとなった。

 今回こんかいの手術では、眼内がんないたしている硝子体しょうしたい摘出てきしゅつしていた。

 手術で網膜を眼底にけたが、眼内が空洞くうどうなので、また剥がれてる可能性かのうせいがある。

 そのため、網膜を眼底に密着みっちゃくさせるために、眼内にガスを入れて網膜を眼底にし付けるのである。

 ここで問題もんだいになるのが、姿勢しせいである。

 まず、眼に入った光を受け取るため、眼底はかお正面しょうめん逆側ぎゃくがわ、つまり後頭部こうとうぶがわ位置いちしている。

 そして、網膜を眼底に押し付けるためのガスはかるいので、天井てんじょう方向ほうこう移動いどうする。

 効果的こうかてきにガスで網膜を眼底に押し付けるには、どのような姿勢しせいいか。

 そう、ガスが移動する方向に眼底があればいいので、後頭部を天井に向けた姿勢になれば良い。

 つまりは、顔をしたければいいわけである。

 『なんだ、下向くだけか。』と思った諸君しょくん、これは手術以上しゅじゅついじょう大変たいへんなことだったんだよ。

 何故なぜなら、手術後1週間ずっと下を向いていなければいけなかったのだ。

 がっってすわっている時も下を向き、ベッドのシーツ、テーブルや床を見つめるばかり。

 トイレに行く時も、下を向いて歩く。

 下を向いて座っているのにつかれてベッドによこになるのだが、その時はうつせ。

 勿論もちろんよるる時も、ずっとうつ伏せである。

 過酷かこくな1週間だった。

 そして、1週間経って、顔を上げてもいいと言われ、上を向いて天井を見上げた時の清々(すがすが)しさと言ったら、そりゃあもうハンパなかった。

 世界せかいはこんなにもあかるいものだったのか。(物理・非物理)


 ということで、下を向いて歩くようなことがあったとしても、その後は上を向いて歩こう。

 しあわせは(そら)の上、くもの上にあるのだから。

 

 


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ