第六感を失った種族(人間)です…
去っていく巨大生物を見送ったけど、全然安心できない。
影は小さくなっても視界の中からは消えないし、いつ振り返って突進してくるかなんて誰も予想できない。
これが大自然っていうのかな、生き物の気配がそこら中に満ちている。
飛んでくる虫の数、はらっても次から次へと飛んでくる。
遠くに見たことのない四つ足生物もたくさんいるし、
動く岩じゃない…巨大生物がいくつか確認できる。
しゃがみこんで嗚咽を殺す。
出逢ったが最後。私死んじゃうよね…
逃げないと。でもどこに…?どうやって…?
まばらに生えてる草の下。地中にも未知の生物がいそうだ
サソリって砂の中だっけ…土の中にいるのって何だろう
座るのが怖い‥。毒蛇とかいそうだよね。
巨大蟻塚じゃないよね…。ただの岩だよね…?
横にある大きな岩を見上げる。切り立った岩壁だ…、よじ登ることもできそうにない垂直の岩肌。
普通に現代社会で生きる日本人にロッククライミングの能力なんてない。
ほんとやだ、気を失いたい。
寝て目が覚めたら生まれ育った日本にいないかな?
こんな息するのも熱い気候知らない。
つい数分前は桜見に行くつもりだったのに。
薄手のジップアップパーカーのフードを被り、陽射しを遮る。
暑いけど、脱いだ方がいいのかな?どっちがいいのかな…
あぁ、暑い…。
このままここにいても、動物の糧になるだけだろうな…、喉がカラカラ…
ハッとして背おっっていたカバンをおろす…水筒もペットボトルの水も入ってる。
ペットボトルはひんやりしてるし、飴もまだ溶けてないところを見るとやはりさっきまで
自分は日本にいたんだと確信できる。
水分摂らないと‥‥
その瞬間は突然だった。
大地が揺らめいた、一斉に飛び立つ鳥。何百という動物の咆哮
総毛立つ。
一斉に生き物が走り出した
「なに?…なんなの?」
俊敏なものは瞬く間に走り去っていく、このくぼ地から丘の方向へ向かって
恐竜のようなものの地響きもすごかったけど、いやそれも混ざってか地面が揺れてる
土埃で息もしにくい
なんでこんな目に。通り過ぎていく羽虫の音もうるさい
捕食関係であろう動物たちがお互いに目もくれず一心不乱に走り出す様子に
カバンを慌てて背負い、恐る恐る流れに沿って動き出す
さっきの恐竜より大きな脅威があるの?もっと大きな動物って何。空飛ぶクジラ?わかんないよ。
あぁ、恐竜じゃなくとも、馬でも牛でもあの勢いに当たれば打ちどころ悪くて死んでしまう
前後左右警戒しながらたまに駆け足
二足歩行の人間って、動物と競った場合最下位じゃないのかな…
涙も出なかった。
炎天下のマラソン大会‥‥アフリカみたいな草原で?
軟弱な日本人をなめるんじゃない。無理に決まってるでしょ。
ラリーレイドだって一般人じゃ無理だっての。
振り返ると、先ほどいた岩からそんなに離れてない気がする。
歩いて15分も立ってないかも、もうだめだ、ここで死んでも仕方ないんじゃない?
意識が遠くなりそう。
見たことない動物がいっぱいだけど、ふと立ち止まっている動物が目に入った。
きらきらした毛並み、金色かな。この環境でどうやったら維持できるのってぐらいに
ふわふわだ。上質な手触りが想像できる…。
大きさは犬より大きくて‥あぁ、でも狼ってよくわからないし。猫系でもなさそうだし・・・
知らない生物。
喉からぐるぐる音を出して…。地面を掘ってる・・?ん、何してるんだろ…
あんな綺麗な毛並みなのに口は土だらけ、端からは血も出てる…。
その足元に、小さな薄い金色の塊が動いてる。
その周りを一生懸命‥‥あぁ罠にかかったのかな。
てことは、人間がいるのか‥‥
え、地球じゃないなら。
知能の発達した別の動物とかいてもおかしくないけど…
ぼーっと見てると、あっというまに縄のようなものをすごい勢いで食いちぎったようだ。
小さなもふもふのしっぽがふさふさ揺れてる。良かったね…。
親のもふもふは、ぺろりとその顔をなめると早くしろとばかりにトトっと歩き出した。
きゅうっと小さな鳴き声がした…、あんまりにも悲しそうなその声。
ペタペタと2,3歩足を引きずり、そして蹲ったその子に親が戻ってきた。
小さなその子の足には何か金属のようなものが巻き付いてる…、そしてたぶん血が出てる。
ジーっとその足を観察していた大きなモフモフの向こうから、
別の小さな綺麗なふわふわが数匹かけてきた。
怪我を観察してた動物は振り返って、小さく唸る。
先に行くように促してるのかな。
戸惑ったように足を止めた小さなモフモフ達が高い声を震わせて何か訴えてる。
考えるように改めて怪我をしてる小さなモフモフをじっと見降ろして。
頭を下げ、強く頬をこすりつけた。
あぁ。泣いてるみたい。
小さなモフモフは黙って伏せて、しっぽを揺らした
お母さんかな。青い綺麗な目が他の小さな子供を振り返り、そして小さなモフモフを見て。
ふとこちらを見て、我が子をもう一度見下ろすと背を向けた。
小さなモフモフは地面に伏せて、小さくなっていくその中を黙って見送ってる。
しっぽも揺らさず、先ほどのように声も漏らさず。
薄い青色の瞳に涙がたまってるように見えなくもない。
ゆっくりとそのそばによる。
瞬きもせず、親を見つめる小さなモフモフの横にしゃがみ込む。
なんとなく、触っても大丈夫な気がした。
そっとその背中に指を滑らした。
暖かい、小さな生命。小さく背を揺らしたけれど、こちらを見向きもせず
親と兄弟の背を一心に見つめている。
一度だけ、大きなモフモフが振り返った。
青い綺麗な目…あちらも泣いているように見えた。
この子も諦めたのかな…
他の生きものもなぜか避けて通っていく中、静かに背中を撫でてつぶやいた
「ねぇ、みんなどうして急いで逃げてるの?」
誰か教えてよ…