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第8話 水平線と私のこころ

「うわあ!」

 ほのかは思わず声をあげた。3号館の屋上からの見晴らしは確かに素晴らしかった。

 南側の景色を見る。真下にグランドがあり野球部が練習しているのが見え掛け声が聞こえてくる。それから正門に緑に色づく桜並木、住宅街の屋根が連なり電車らしきものも見える。あれは駅ビルかなと検討をつける。

「海も見える……」

 あまり高層建築物がない桜ヶ丘では遠くの海の水平線まで見えた。

「きれい」

 この景色を独り占めできるのはなんだか贅沢な気分だ。ほのかたちの教室からでは学校を囲む木々で遠くの景色は見えない。

 今までの嫌な気分がこの景色ですべて吹き飛んでしまったような気がする。

「水彩絵の具も持ってきたほうがいいかな……いや、でも時間によって色彩もかわるし……」

 とりあえず、風景をスケッチしようとそれほど広くない屋上をうろちょろと動いてまわる。

 場所が決まると、体育座りしスケッチ板を膝の上にのせ描く鉛筆を横にし片目をつぶって目をこらし画用紙のどのあたりに水平線にするか悩む。

 ほのかはじっくり絵を描くタイプだ。それを見越して斎はぶっつけ本番ではなく画用紙を数枚渡したのだろう。

 納得できるバランスを決めるとほのかは、2Bの鉛筆を取り出し書き始める。作業が始まれば、ほのかは没頭タイプだ。自分では絵は上手いとは思わないが、こうやって無心に絵を描く作業がほのかは好きだった。

 絵は同じものを描いても、人によって出来上がりは様々だ。わかりやすくいば100人描けば100通りの絵ができる。それが、写真とはまた一味違うものだとほのかは思う。中学の美術部の顧問の先生に「東条さんの絵はやさしいタッチね」と言われたことは「絵がうまいね」と言われることよりうれしいことだった。なんだか、ほのか自身を認められたような気がしたのだ。




 描き始めて30分それなりに全体像が見えてきた。鉛筆も少し硬いものへと変える。

 ほのかは自分にしては順調な進み具合と誰もいないことに気が緩み思わず口から鼻歌がもれる。

「う~み~はひろい~な~おお~きい~な~♪」

「絵はまあまあだけど、歌は下手だな」

「そんなあ、失礼な。歌はいいんです。私は美術部なんです……てあああ!」

 ほのかが驚いて振り返った先には災難の権化(とほのかが思い込んでいる)近藤先輩がいた。思わず後退りする。

「な、なんであなたが、ここ、ここにいるんですかあ!?」

 ほのかは驚きすぎてまともにしゃべれない。

「お前はニワトリか?つかお前が来る前から俺はいたぞ」

「来る前から……ってことははじめから!?」

「そうだな、お前が風景みてはしゃいで何やら両手の親指と人差し指の間からあちこち見てまわって、落ち着いて座ったと思ったら鉛筆片手に唸り声を……」

「もう、いいです!!」

 ほのかは顔を真っ赤にして叫んだ。やっぱりこの近藤先輩とやらはいじわるだ、とほのかは思った。

 近藤の顔が思いっきり楽しんでいる。

「近藤先輩はなんでここいるんですか!?ここ立ち入り禁止ですよ!」

 すると近藤は一瞬虚をつかれたような表情をする。

「お前……俺の名前、知ってんの?」

「近藤……マサウミ先輩でしょ!」

 この前名前を言い当てられた仕返しができたことに、ほのかは少し気を良くする。まあ、ついさっき綾と3年のオネエサマの言葉でわかったのだが。

 えへん、と胸をはるほのかだが、質問に答えられていないことに気付いていない。

 よっこいせ、といつの間にやら近藤はほのかの隣に胡坐をかく。

「おまえ、よく転ぶところいい、さっきの行動といい、よく上げる奇声といい小動物……いや珍獣みたいだな」

「失礼ですね!私はオカピでもボンゴでもコビトカバでもジャイアントパンダでもありません!人間です!ホモサピエンスです!」

「お前、よく4大珍獣なんて知ってるな。やっぱ珍獣仲間だからか?」

「違います!」

 ほのかは握りこぶしをつくって力説していたところ、はたと気づく。このままでは先輩のペースである。

「ところで鍵どうやって開けたんですか?」

 ほのかの必死の話題転換も、にやにやと笑われ完全におもしろがられている。

 さっきのオネエサマ方にはクールに通していたようなのにそれが台無しである。

「知りたい?」

「というか先生に言いつけます!」

 普段では考えられないほのかの強気である。

「ああ、昨日打った腰が痛てぇ……」

「……」

 わざとらしい実にわざとらしいが、加害者であるほのかには言えない。

「昨日着てたズボンもぐちゃぐちゃになっちまったしなあ……」

「モウシワケアリマセンデシタ」

 せめてもの反抗で思いっきり棒読みだが「許してくれるよね?」とほのかは誰に対してか思う。

「まあ、誠意がこもってないけどまあ許してあげるよ」

 出会って2日でこれだけ上から目線、ちょうど夕陽も差し込んで、ほのかはたそがれたくなった。

 いや、むしろ大きな声で「バカヤロー!」と叫びたい。

 

なんだかほのかちゃんのキャラが壊れてきてます(汗)どうしよう。

でも4大珍獣は言わせたかったんですよ……orz

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