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第7話 開けてびっくり準備室

「ねえ、ほのか。私たち1階の図書館に行くつもりなんだけど」

 そう翼に言われてから、ほのかは二人の手を持って3階の美術室まで引っ張ってきてしまったことに気付いた。

「転んで、恥ずかしいのはわかるけど~」

 綾がくすくす笑う。

「ご、ごめん!」

 ほのかはぱっと手を話す。

 ほのかは、先ほどのことを思い出し赤面する。またしてもやってしまった。恥ずかしい。穴あったら入りたい、そして上から土をかけて埋まりたい。そうしたら死んじゃうか。

 なんて、ほのかが現実逃避しているとガラッと扉を開ける音が聴こえた。

「なんだ~誰もいないじゃん」

 綾が美術室の扉を開けていて、がっかりしたように言った。

「あ、まだ誰も来てないみたいだね」

 ほのかは答える。美術の先生が非常勤のため、美術部の顧問は30代の生物の女性教諭だ。いい先生だがあまり畑違いのせいか部活に顔を出さない。先生曰く「放任主義、自己責任、ただし活動記録が残るから作品は出せ!芸術は爆発だ!」前半は監督責任やらなんやらの存在は無視である。後半はもはやよくわからない。ただやはり美術が好きな生徒たちが集まるのでそれなりにちゃんと活動している。しかし顧問の性格を反映しているのか、美術部の集まりは結構なあなあだ。

「斎先輩も来てないのか。珍しい」

 ほのかも美術室を覗きこんで言った。

「なんで綾ががっかりするのよ」

「ほら~美術部にカッコいい人いないかなあって……」

「ふーん」

「というかごめんね。二人とも連れてきちゃって」

「別にいいよ。暇だし」

「ほのかの描いた絵ないの~?」

 二人は呑気なものだ。

「まだ、高校入って描き上げたのはないんだ。デッサンぐらいしかしてなくて……」

 ほのかが言葉に、綾が食い下がる。

「じゃあ!それ見せてよ」

「いや、そんな見せようなもんじゃないし……あ!!」

「どうしたの?」

「スケッチブック……家に忘れた……」

 翼が慰めるように、ほのかの肩にぽんっと手を置いた。


 ほのかは図書館に行くという二人を見送った後、一人美術室でぽつんと考える。

 描く紙がなければ、描きようがない。

 ああ、昨日と今日と厄日だろうか。

 にぶいほのかといえど、さすがにこんなに頻繁には転ばない。

 やはりすべてあの近藤先輩のなにか呪いか?やっぱりあの馬鹿にしたような態度のせいだ!!

 そもそも、彼の噂を聞いてからこんな調子なんだ!ああ、やっぱり近藤先輩とやらのせいなんだ!!!

 と半ば八つ当たりのようなことを考える。というか八つ当たりだ。

 昨日下敷きにした経緯を考えれば、感謝こそすれ恨むのは筋違いである。

 しかし、ほのかの中で近藤先輩は災難の権化となっていた。

「あれえ、ほのかちゃん。どうしたの?」

 後ろから呑気な声が聞こえ、ほのかはびくっとする。

「あーごめんごめん。驚かしちゃった?」

 いつものにこにこ顔をした美術部部長 いつきである。

「あ、いえ……ちょっと考え事してて」

「それよりみんな来てないの?」

「あ、はい」

 美術部は在籍せいているのは、ほのか・斎も含めて16人いる。

「しょうがないなあ。いっちゃん先生が甘いからなあ」

 などど言いながら顔は全然怒ってはいない。

「んで、ほのかちゃんはどうしたの?」

「すみません。来たのはいいんですけどスケッチブック忘れちゃって」

 しかも昨日は特に何をしたわけでもない本当に何のために持って帰ったのやら、ほのかは情けなくなった。

「そっかあ」

 というと斎は、美術室の黒板の窓側の横にある美術準備室に入って行った。

 昔の作品やら備品、画材など古いのから新しいのまでごっちゃになっているため美術部員からは「開かずの準備室」などと学校の怪談のように言われている。

 何やら準備室からガタンゴトンと大量のものが動く音が聞こえてくる。

 一体何をやっているのか、とほのかがいぶかしんでいると、3分もしないうちに斎は出てきた。

 手にはスケッチ版と画用紙数枚。

「はい、とりあえずこれでいい?提出用にはもっとちゃんとしたキャンパスに描いてもらうけど」

 と手渡される。さすがのほのかも合点がいく。

「ありがとうございます」

「あと、これ」

 ちゃりんと金属製の音がして、冷たいものが手に落とされる。

「3号館の屋上の鍵。いっちゃん先生から預かってきたから、今日帰るときにそのまま返しに行って」

「ありがとうございます」

 そのこともすっかり忘れていた。なんだか斎には頭が上がらないような気がするほのかであった。

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