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第4話 ご機嫌な帰り道

 

「ふんふんふ~ん♪」


 口から思わず、歌ともいえないハミングが漏れる。

 ほのかはご機嫌だった。職員室にいた市川先生にも「屋上?本当は危険だから立ち入り禁止なんだけど、部活動の名目なら大丈夫でしょ。許可取っておくわ」と二つ返事で許可をくれた。

 朝から降っていた雨ももうやんでいる。

 大嫌いな雨もやんだ上、悩んでいた絵のテーマもトントン拍子に決まり機嫌もよくなる。

 現在午後4時半、周りには人影はない。帰宅部の人はもうすでに帰っているし部活が終わるにはまだはやい時間だ。

 ほのかは室内シューズから下駄箱からローファーを出して履き替える。

 桜ヶ丘高校の昇降口は2階にある。地上部分からコンクリートの階段があり、その上に入口があるのだ。1階部分にも入口はあるが、そちらは教師や来客が主に使われている。

「たららったら~♪」

 ほのかは人がいないことをいいことに、ハミングから鼻歌にかわりスキップしさんばかりだ。

 

 だから、ほのかは失念していたのだ。

 

 雨にぬれたコンクリートは滑りやすく、ローファーは転びやすいことを


 ほのか自身が少し(本人談)にぶいことを……


「きゃああぁあ!!」


 案の定、ほのかは階段の中ほどで足を滑らす。

 高さはもうそれほどないが、下はコンクリート。痛いだろうし、怪我もするだろう。

 ほのかは一気に血の気がひき、衝撃を恐れて目をつぶった。


 が、いつまでたっても衝撃はやってこなかった。


「?」


 ほのかは恐る恐る目をあけると、強い視線とぶつかる。

 きれいな二重瞼だ、鼻筋が通っていて唇の少しぽってりしている。ともすれば女のような顔だがしっかりした骨格がそれを否定する。こういう顔をなんというんだっけ……そうだ、ジャニーズ系というのか?なんてことを呑気にほのかが考えていたところを不機嫌そうな声に中断された。

 

「おい、重いんだけど」


 整えているんじゃないかと思われる形のよい眉を寄せて、思い切り不機嫌そうな顔をした男子学生にほのかは現在の状況を把握する。

 ほのかの身体はは、男子学生の腹の上に乗っている。

 どうやら落ちた時に彼を下敷きにしたらしい。

「はうあああ!!すみません」

 現状認識したほのかは慌てて男子学生から離れた。

 彼は立ち上がり、自身の後ろを確認した。

 今日は朝から雨が降っていた。したがって、地面も濡れているわけで……彼のズボンはぐっしょり濡れていた。おまけに汚れている。

 ほのかは青くなる。彼は不機嫌そうな顔をしている。

 顔はよいが、怖い。

 現在彼はほのかを上から見ろしているが、目つきが怖い。

 というのが、ほのかの印象だった。

 髪は長めだがだらしなく伸ばしているのではなく、流行りのカットをされ、脱色されている。身長はほのかより頭半分くらい高いくらいだから175センチくらいだろう。

 綾あたりなら「きゃーイケメン!」と騒ぎそうだが、現在睥睨されている身としてはそれどころではない。

 しかも、心当たりがありすぎし、恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。

「す、す、すみません!クリーニング代お払いします!」

 ぺこぺことほのかは頭を下げる。

「……別にいいよ」

 言葉のわりに視線を頭頂部に感じる。ほのかは蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかったような気がした。

「いや、そういうわけには……というか!!」

 ほのかは、がばっと顔を上げる。

「怪我なかったですか!?」

 顔を上げると、視線が再び合った。彼はなんともいえない表情をしている。

「……!!」

 突然、彼は身体をくの字にして身体を震えさせ始めた。

「だ、大丈夫ですか!?やっぱりどっか打って……」

「ぶは!!あははははははははははは」

 彼は笑っていた。どうやら身体を折ったのは腹を抱えて笑っていたらしい。

 ほのかはほっとしたのも、束の間むっとする。

「あ、あの!!」

 ようやく笑いがおさまったらしい彼は涙を拭きながらほのかのほうを向いた。涙が出るほどおかしかったのか……。

「なんで笑うんですか!?心配してるのに!」

 彼はにやりという表現があう笑い方をして意味ありげにほのかを見る。

「いや……変な歌が聴こえたと思ったら悲鳴がして何事かと思って振り返ったらお前が落ちてきたからさ」

 ほのかは真っ赤になる。あの恥ずかしいうかれた鼻歌も聴かれていたのか。

「今度からは足もと気をつけろよ。1年3組東条ほのか」

「なんで私の名前……」

 彼は地面に落ちていたスケッチブックと彼自身のかばんを拾うと、スケッチブックのほうをほのかに渡した。

「あ、ありがとうございます」

「ん、じゃあな」

 と彼は言うとくるりと背を向けすたすたと歩いて行ってしまった。

 茫然としていたほのかは、手にあったスケッチブックに目をやる。

「あ!!」

 スケッチブックの表紙には、サインペンででかでかと学年クラス出席番号氏名が明記されていた。

 

 


 

 

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