第23話 恋する乙女の誓い
何をいまさら、と綾は呆れた顔をする。
「斎先輩に決まってるじゃん」
「そうだよね。斎先輩に……って、ええええぇええぇえええ!!」
ほのかの大きな声に綾は耳をふさぐ。
「ちょっと、いきなり大きな声出さないでよ」
「ご、ごめん。で、でもね」
手を前で動かして挙動不審になるほのか。
綾はその手を掴み、テーブルに押さえつけた。
「ほのか、どうしたのよ。落ち着きなよ」
「あ、綾の好きな人って斎先輩なの?」
目が細くていつも笑っているような同じ美術部の先輩の顔が、ほのかの頭に浮かんだ。
「そ、そうよ。何度も言わせないでよ!」
綾が少し顔を赤くして答える。
恥じらう乙女は可愛らしい……ってそうじゃなくてとほのかは明後日のほうへ向かう思考を元に戻した。
「だって、近藤先輩のことかっこいいって言ってたじゃん」
そうだ、ずっとキャーキャー言ってたではないか。
「近藤先輩は確かにかっこいいと思うけど……あれは、そうアイドルを見て楽しむみたいなもん。好きっていうのとは、違うわよ」
「だってだって……綾って絶対顔がいい人が好みだと思ってたし、あの人は性格はどうかと思うけど……」
しばし、二人は見つめあった。
「ほのか……もしかして、近藤先輩のことが好きなの」
今度はほのかが顔を赤くして頷いた。
「ちょっと、どういうことなのか説明しなさい……」
静かだがどこか迫力のある綾の声にほのかは近藤先輩とのことを一部始終を吐かねばならないことになった。
「結局、わたしたちが喧嘩してたのはなんだったの?」
綾はアイスティーをストローで飲みながら呟く。
騒いでお腹がすいた、と綾もドーナツとアイスティーを注文したのだ。
夕食を食べていないほのかも追加でドーナツを頼んだ。
「いやあ、すっかり勘違いしてて、ごめんね」
申し訳なさそうに謝るほのか。
「というかいつの間に近藤先輩とそんなにお知り合いになってたとはね」
「私だってずっと綾が斎先輩のこと好きだ、なんて知らなかったよ」
つまり『先輩』という言葉で会話をしていて、お互い違う人を好きなことに気付かなかったというわけだ。
じとっとほのかを見る。
「というか、はっきり言うか聞いてくれれば話は早かったのに」
「だって確認しようにも綾しゃべってくれなかったし……」
「……その点に関しては私が悪かったわ」
綾は素直に謝った。
ほのかはなんだかんだで綾と仲直り出来たことに気づいて微笑んだ。
「何にやにやしてるのよ」
「なんか、綾とまたこうして話せるのが嬉しくて」
「そんなことで?」
「うん!だって綾のこと好きだもん!」
ほのかがドーナツを手にとって答えると、綾はバツが悪そうな顔をした。
「どうしてほのかってそういうこと平気な顔していえるかなあ」
そっぽを向いた綾の耳は赤い。
「だって、ほんとのことだもん」
「……ほのかには負けたわ」
そう言って綾はテーブルにつっぷした。
しかし、すぐ復活してほのかの顔を近づける。
「で、どーすんの?」
「どうするって?」
「そんなの決まってるじゃない。近藤先輩のこ・と」
「へ?」
「へ?じゃないわよ!近藤先輩かっこいいんだから、他の人にとられちゃうよ」
「とられちゃうも何も……付き合ってるわけじゃないし」
バンッと綾はテーブルをたたいた。
「んなこと言ってたら、なんにも進展しないじゃない!!もっと強気でいかなきゃ!」
「あ、綾、怖いよ」
「もう!せっかく二人の時間があったのにぼーっとしてる間に他に彼女ができてもいいの!?」
ほのかの頭に大人っぽい三年のオネーサマと手を組む雅海の姿が浮かび、ぶんぶんとほのかは頭を振った。
「それは、やだ」
「だったら、ガンガンいかなきゃ!」
ぐっと拳をつくる綾は自分に言い聞かせいるようでもある。
綾の手をほのかは両手で包む。
それに綾ももう一方の手もそえ、二人は両手を掴み合うような形なった。
「戦うわよ!ほのか!!」
「うん!」
なにか違う方向にいっているような気がしないでもないが、恋する乙女二人は熱く誓い合ったのであった。
なんつー恥ずかしいサブタイトルつけてしまったのか。
でも、ぱっと頭に浮かんだのがこれでした(笑)