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第22話 ドーナツと友達の輪

 教室でほのかが綾に声をかけようとしても、すっと避けられてしまう。

 その様子を見た翼の怖い顔もあって学校で話しかけるのは、あきらめた。


『話したいことがあります。学校の駅前のドーナツ屋さんで明日の放課後待ってます』


 ほのかは意を決してメールを送ることにした。

 また学校のように無視されてしまうかと思いきや送信直後、携帯電話のブルブルと振動し、ほのかは自分の部屋のベッドの上で飛び上がる。

 そういえば、綾はメールを打つのがはやい。

 着たメールは早業ともいえる速度で返信していた。かわいいストラップがついた携帯はラインストーンできらきらとしていて、携帯を携帯せずにうちに置きっぱなしにしがちなほのかは感心したものだ。



『話すことなんてない』


 たったそれだけの返信。

 いつもなら絵文字でにぎやかなメールを送ってくる綾が、メールの文面だけで怒っていることがわかるものだ。


『それでも待ってる』


 ほのかはすぐそう送り返すと、またすぐ返信が来た。


『知らない。行かないから』


 ほのかは携帯の液晶を見ながらため息をついた。

 綾の怒りを感じて悲しくなる。

 しかし、頭を振って気力を振り絞る。

 

『来なくても待ってる』


 いつものほのかならこんなに一方的な言い方はしない。

 でも、会ってちゃんと話したかった。

 ほのかはそれだけ送ると綾から返信がこないうちに携帯の電源を切った。

 明日は綾が来るつもりがなくても待つつもりだった。









「はあ」

 ほのかは何度目かわからないため息をついた。

 ついでにおかわり自由のカフェオレは3杯目。

 昨日のメールで言ったチェーンのドーナツ屋にほのかは今いる。

 とりあえずドーナツ1つにカフェオレを注文し入口が見える席に座った。

 いつ来るかわからない綾のため何もせずに数時間ただぼーっと待っていた。

 頭の中で綾に何を言おうか考え、結局何を言えばいいのかわからなくなってくる。

 時刻はもう8時を指そうとしていた。

 親には友達と夕飯をファミレスで食べると言っておいた。

 そろそろ限界かな、とほのかは思った。

 この時間まで帰宅部の綾が学校にいるわけがないし、帰って夕飯でも食べている時間だ。

 とはいえあきらめきれず、またぼーっとする。


 ガタンと向かいの席が動いた。

「あ、綾!」

 向かい側の席に座ったのはTシャツにデニムのミニスカートをはいた綾である。

 一度、家に帰ったのか、とほのかが考えていると綾が口を開いた。

「馬鹿じゃないの!?」

 顔を見ると思い切り『不機嫌』と書いてある。

 ほのかはたじろいた。

「馬鹿……かな?」

 きょとんとして聞くほのかに、綾も毒気を抜かれたのか脱力したのがわかった。

「来ないって言ったのに何でこんな時間まで待ってんのよ」

 当初の怒りの表情から呆れに変わっている。

 それにほのかは少し安心した。

「でも、来てくれたし」

 にへら、と笑うほのかに綾はなんとも言えない顔をする。

「そんなことしたって許さないから」

 憮然とした表情で綾は視線をそらす。

「うーん、あのね」

「なによ」

「私、待っている間にもいろいろ考えたのだけど馬鹿だからわからなくて……」

「なにが?」

 よかったちゃんと話を聞いてくれるとほのかは少し嬉しくなった。

「あのね、綾はなんでそんなに怒ってるの?」

「はい?」

 何を言ってるのか、この子はという表情で綾はほのかを見る。

「ごめんね。自分でもにぶいのは自覚してるんだけど……確かに私も先輩のこと好きだけど、でも付き合ってるわけでもないし、そんなに仲良くもない。確かに黙っていたのは悪かったと思うけど、綾がそれだけでこんなに怒るはずないもん」

 ほのかがずっと悩んでいたことはそれなのだ、綾は確かに喜怒哀楽が激しくてカッとなってきついことも言うことも多いが、その場その場で発散する分収まるのもはやいし、きちんと謝れば許してくれる。

 同じ人を好きでライバルである、というだけで理不尽に怒る性格ではないと知っていた。

「……だから、ほのかはずるいのよ」

 綾がぼそりと言った。

「ずるいってなんで?ちゃんと言ってくれないと直せないよ」

 ほのかは眉を八の字にした。

 自分を批判されるのも悲しかったが、攻撃的な綾を見るのも悲しかった。

 周りをいつの間にか明るくしてしまうような綾が好きだからだ。

「そうやって、どうして謝るのよ……そうやって私のこと気にして……これじゃ私が悪者じゃん!!」

 綾の泣きそうな顔にほのかは吃驚する。

「ほのかはそうやって素直で天然で、みんなに可愛がられて……」

「……」

「顔だって小さくて目が大きくてかわいいし……」

 ほのかは目を丸くする。

 なんだかすごく褒められているような気がする。

「……先輩だってそんな子のほうがいいに決まってるじゃん」

 綾の最後の言葉は消えいりそうだったが、ほのかの耳にしっかり届いた。

 ほのかはなんと言っていいかわからなくて視線を宙にさ迷わせた後、探偵が推理するように顎に手をやった。

「あーえーうー」

 奇妙なうめき声をあげてしまう、ほのか。

「日本語でしゃべれ」

「いや、今の綾の言葉がいまいちわからなくて」

「……ほのかに嫉妬してたの!なんでこんなことまで言わなきゃいけないのよ!」

「いや、ごめんね。自分に嫉妬される要素が見当たらなくて……」

「だから言ったじゃん!私よりずっと可愛いからって!」

「綾のほうが可愛いよ」

「なにそれ!嫌味!?」

「目だってきらきらして綺麗だし、おしゃべりだって上手くてみんなと仲良くできるし」

「男はほのかみたいな”守ってあげたい”タイプが好きなのよ!」

「私単ににぶいだけだし、綾みたいな”一緒にいるだけで元気になれる”子のほうがいいに決まってるよ!」

「そのふわふわヘアーにくりっとした目、小動物系なのが男にとっちゃツボなのよ!」

「私の髪なんて癖っ毛のぼさぼさだよ。綾の茶髪のストレートきれいだし、おしゃれで男の子とも気軽にしゃべれるしかっこいいよ!」

「私なんて素直じゃないし、口悪いし、好きな奴なんていないわよ!」

「そんなことないよ!綾ははきはき物を言うけど間違ったこと言わないし優しいよ!」

「なんでシカトされたアンタがそんなこと言うのよ!なんにもわかってないくせに!」

「わかってるもん!」

「わかってない!」

「わかるもん!」

「わかってない!」

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・

 




 

「だから……先輩はあんたみたいな子がタイプだって言ってるでしょ……」

「そんなことないもん……綾みたいな明るい子が好きに決まってる……」

 ほのかと綾はぜえはあする息を整えながらにらみ合う。

「……」

「……」



「プッあははははははははははははは」 

 突然、笑い始めたのは綾だった。

 きょとんとするほのか。

「あーあ、なんか馬鹿らしくなってきちゃった」

 笑い涙をぬぐいながら綾はほのかを見る。

「ごめん。ほのか、私ずっとほのかに嫉妬してたの」

「……」

「ほのかって素直で可愛いから私が男だったらぜったい好きになるだろうなって」

「そっ!」

「そんなことあるよ。嫉妬してひどい言葉ぶつけてシカトして……ほんと、私って嫌な女」

 綾は苦笑いする。

「私ね。先輩と会ったのは、桜ヶ丘高校の受験の日だったんだ」

「そんなに前から……」

「うん、道に迷っちゃって遅刻しそうになった時、助けてくれたのが先輩。受験会場まで連れてってくれて『がんばれ』って言ってくれたの。合格できたときはすごくうれしかった。あの先輩にまた会えるって思って」

「うん」

「だからずっと高校入ってからその先輩を探してて……まあ、イケメンウォッチングは半分趣味なんだけど」

 綾らしい言葉にほのかは笑う。

「でも、名前も知らなかったからなかなか見つからなくて、もしかしたら卒業しちゃったのかもって思い始めたときに、ほのかと一緒にいたときまた会えた時はどうしようかと思った」

「あの時……」

 綾と二人、移動教室のとき先輩たちにすれ違ってしゃべったことを思い出した。

「そうだから嬉しかった……でも、すごくほのかと仲よさそうだったじゃない。それで、ほのかが先輩のことを『好き』って聞いたら私……」

 せつなげに目を伏せる綾に、ほのかも何と声をかけていいのかわからない。

 もし自分が綾の立場で好きな人と仲よさそうにしていたら?…………ってあれ?あの時の先輩は不機嫌そうで”仲がよさそう”とはとても言えなかったような……?あの時、斎先輩が声をかけてきて頭をぽんぽんやられてすぐ別れたような……。

 ほのかは、はてと考える。

「あの~つかぬことをお聞きしますが……」

 綾がいぶかしげな顔をする。

「綾の好きな人の名前って……」

「はあ?いまさら何言ってるの?」

 綾は呆れた顔をして言った。


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