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第17話 放課後の教室と卑怯な相談

 それから、ほのかは屋上には行かなかった。

 あの屋上の風景画は美術室で完成させ提出した。

 斎には「室内で落ち着いて完成させたいから」と言い訳した。

 季節はもう夏に近付き、じめじめとした梅雨はあけ夏日の日も少なくない。

 しかし、梅雨があけたがほのかの心はちっとも晴れなかった。

 日直当番だったほのかは職員室の担任に日誌を届けたあと、とぼとぼと人気のなくなった廊下を歩く。

 結局あれ以来、雅海にも会っていないし、綾にも自分の気持ちを打ち明けていない。

 何もかも中途半端、そんな自分に嫌気がさす。

 もう誰も残っていないと思われる教室のドアを少し乱暴に開けると、予想に反して人影があった。

「涼子さん?」

「あ、ほのか。どうしたの?」

 窓際の自分席に座っているのは涼子だった。

「私は日直で……涼子さんは?」

 涼子は片手にプリントを持ってひらひらと振る。

「私はこれ、学級委員の仕事。学級委員ってていのいい雑用係よね」

 涼子は少しうんざりした顔をして肩をすくめた。入試の成績がよかったらしい涼子は担任に頼まれて半強制的に学級委員にされたらしい。しかし、しっかり者でてきぱきと物事を片づける涼子を選んだのはよい人選だったともいえる。

「いつもご苦労さま。なにか手伝おうか?」

 ほのかは涼子に近づいて、向かい合わせになるよう前の席に座る。

「ありがと、助かるわ。じゃあ、これホッチキスでそれぞれ1枚、2枚づつ止めてくれる?」

 束になったプリントとホッチキスを渡される。

「そういえば、斎藤君は?」

 眼鏡で痩せ型の斎藤君、涼子と同じく学級委員で彼も成績がよい優等生だ。

「彼は予備校だから先に帰っていい、て言ったの」

「1年から予備校!?」

「ん~なんか医大志望らしいよ」

「ふ~ん、斎藤君お医者さんになりたいんだ」

「家が病院らしいよ」

 パチン、パチンと静かな教室にホッチキスの音が響く。遠くからは、運動部の掛け声が聞こえてくる。

 あまり、お弁当グループの中でも率先してしゃべらない二人だ。

 必然的に会話がとぎれ、沈黙が落ちる。

 と言っても涼子は何やら提出物らしいプリントに記入することに集中しているし、ほのかもあまり気にならなかった。

 少し俯いた涼子の額にさらりと長い前髪が落ちる。

 すっと整った鼻梁、少し薄い唇、切れ長な瞳をもつ涼子はほのかと同じ年と思えないくらい大人っぽくてきれいだ。

 ほのかの口から知らず知らずのうちにため息が漏れた。

 静かな教室にそれは思いのほか響いて、ため息をもらしたほのか自身が驚いて口に手をやる。

 ふっと視線を涼子はむけた。

「どうしたの?」

 少し首をかしげて聞くが、ほのかが答えられずにいると気にしていない様子でまたプリントに記入し始める。

 つっこんでこない涼子に、思わずほのかが漏らす。

「あのさ……」

「ん?」

 涼子は視線を上げない。知ってか知らずか、ほのかはきっとまっすぐ見つめられたら続きを言えなかっただろう。

「あの……涼子さんなら、もし友達と同じ人を好きになったらどうする?」

 すぐに反応がなくほのかは慌てる。

「あ!’もしも’の話なんだけど!!読んだ漫画にそういうのがあって!’もしも’自分ならどうするかな~って……!!」

 慌てて言い募るほのかは自分が情けなくなった。自分はどこまでも卑怯だ。

「そうね……」

 涼子はプリントを記入しながら呟く。

 それから少し考える風に頬杖をついて、窓の外を眺めた。

 夏に近付いた今、まだまだ外は明るい。

「私だったら好きな人をとるわね」

 あいまいな言い方のほのかに対し、涼子ははっきりと言葉にした。

「な、なんで!」

 ほのかは思わず握りこぶしをつくり身を乗り出してしまう。

「だって、友達はたくさんできるけど’本当に好きな人’は一人しかできないもの」

 涼子はほのかを見て微笑む。

 その微笑みは、ほのかが今まででみた笑顔とは何か違って、とてもきれいで、なんだか艶っぽかった。


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