第13話 彼女の想い人
やはり近藤先輩は目立つ人だ、とほのかは思う。
学年が違うためほとんど普段の生活で出会う機会はなかったが、その整った容貌は周りの視線を集める。
体育の時間、女子の黄色い声が聞こえてみると雅海がバスケットボールの試合でダンクを決めていた。
運動神経もいいらしい。
ほのかはちょっと神様を恨んだ。ほのかは運動神経がよいほうではない。
他の男子とじゃれている姿は、年相応でなんだか意外な気がした。ほのかと一緒のときは仏頂面やいじわるな笑いが多かったからだ。
人間一度気がつくと、目がいってしまうもので全校集会や校庭を眺めているとき見つけてしまう。
3年の女子と一緒に廊下などにいるのも何度かみた。
相変わらず大人っぽい3年の先輩たちと一緒にいる。
あんなきれいな人たちに囲まれても仏頂面なんて……みんな見かけに騙されるんだ!とほのかは通り過ぎながら思った。
「あ」
移動教室のため、ほのかと綾と二人歩いていたときである。
廊下の向こう側から雅海と数人の男子が歩いてくる。
ふっと視線があった。
「あ、ほのかちゃん」
近づいてきて声をかけてきたのは雅海の隣の男子だった。
「斎先輩!」
「偶然だね~」
近づいてきた斎にほのかは頭をぽんぽんと撫でられる。
ほのかはその性格からかこのような扱われるのは慣れていたりする。
とはいえ、ほのかももう高校生だ。あんまり子供扱いされるのは嬉しいことではない。
「……近藤先輩、こんにちは」
ここで無視するのもと思いほのかは雅海にも挨拶をする。
「よお」
なんだか雅海は不機嫌そうで廊下の窓のほうに視線をやったまま動かさない。
「ほのかちゃん、雅海と知りあいなの?」
そんな様子も慣れているのか斎はにこにこして聞く。
「えっと……知りあいといえば知りあいですけど……」
なんと言ったらよいのかほのかが聞きたい。
雅海は会話に参加する気はないようで、無表情だ。
「ごめんねえ、こいつ無愛想だから」
斎が困ったように笑う。
「先輩たちって仲いいんですね」
「いや、仲いいっていうか腐れ縁っていうのかな。小学生のころから同じ学校なんだ」
「そうなんですか」
「んじゃ、ほのかちゃん。また部活でね~」
「あ、はい、また」
ぺこっとほのかは頭を下げる。
彼らが歩いていってしまうと、一緒にいた綾のほうを向く。
「あ、ごめんね。綾」
しかし、いつもなら一人でもしゃべっているような綾がぼーっと先輩たちが行った方向を見ている。
そういえば先ほどの会話にも入ってこなかった。
「あ、綾?」
「あ!な、なに?ほのか」
我に返ったのか綾はほのかに向き直る。
「どうしたの?ぼーっとして……」
「な、なんでもないよ!それより早く行こう。始業ベルなっちゃう!」
心なしか綾のほほが赤い。
「……綾、もしかして」
ばちっと綾とほのかの視線が合う。綾の顔がみるみる赤くなった。
さすがに鈍いほのかにもわかった。
「先輩のこと……」
「うん……」
観念したのかこくんと綾がうなづいた。
ほのかの言葉にいつもカッコいいとか騒いでる様子とは違うのは、ほのかだってわかった。
頬を染め、恥じらう姿はまさしく恋する乙女だ。
うつむいていた綾が、突然がばっと顔をあげた。
「先輩と知りあいなんだね!!ほのか!」
「いや知り合いっていうかなんていうか……」
がしっとほのかの手を両手で握った。
「おねがい!協力して!!」
綾の目は本気である。
ほんとうに先輩のこと好きなんだ……とほのかは綾の目をみて思った。
綾は自分と比べて、おしゃれにだって気を使っているし美少女とまではいかないが可愛らしい顔立ちをしている。感情のままに動く瞳は生き生きしていて魅力的だ。
ふと、3年の女子の先輩たちが頭に浮かんだ。精一杯おしゃれやかわいく見せようとしている彼女たちも綾みたいに恋していて努力してるのだ。
綾の顔を見る。色つきリップで唇は桜色だし、化粧はしていないが眉は整えられていて形がきれいだ。ほのかと同じくらいの長さの茶髪は毎日ヘアアイロンをかけてるって言ってたっけ。
自分の寝癖だけはかろうじて直してある髪や朝起きて水でばしゃばしゃ洗っただけの顔がなんだか恥ずかしくなった。
友達である綾がほんとうに好きなら断る理由なんてない。
「うん……」
ほのかは小さくうなづいた。