第12話 雨が奏でる音
沈黙の中、雨の音が絶え間なく聞こえている。
絶え間なく雨が地面を打つ音、雨どいの水があふれて流れてる音。
軒下の空間は二人座ればいっぱいだ。
屋根があるところまではコンクリートが濡れていなくて、はっきりと境界線で分かれている。
ほのかが顔を上げられないでいると、ぽつりと雅海が呟く。
「雨の打つ音ってタップの音に似てねえ?」
そのひとり言のような言葉に、ほのかは何のことかと顔を上げる。
「たっぷ?」
「そう、ダンスのタップ」
「あの足で音を鳴らすタップですか?」
「うん」
そう言われてみれば、そうふうにも聞こえるような気もするがタップダンスに親しみがあるわけでもないほのかには今いちピンとこない。
ほのかが一人で考えていると、雅海が歌を口ずさむ。
バンドをやっているだけあってか雅海の声は雨音の中心地よく響く。
雨の陰気さに似合わない陽気なリズム、英語の歌詞のようでほのかでも簡単な単語は理解できる。
「あいむ、しんぎんぐ、ざ、れいん?」
ほのかの日本語発音的な英語に雅海が笑う。
「そ、『雨に唄えば』っていえばお前にもわかる?」
馬鹿にされたほのかは少しばかりむっとしながら答える。
「聞いたことあります」
「昔のアメリカのミュージカル映画」
「先輩がミュージカル映画なんて見るんですね」
「似合わなくて悪かったな。親父の趣味に付き合って観たんだよ。ま、いいや、それに有名なシーンがあるんだけど雨の中を傘もささずにこの曲を唄いながらスゲー楽しそうにタップダンスを踊るんだよ」
「不審者ですね」
その言葉に雅海が噴き出す。
「その曲の終わりが警察官に睨まれて帰っていくっていうのだからな」
「雨で何がうれしいのかわかりません」
ほのかは渋面をつくった。雨でいいことなんてないではないか。
「ヒロインと思いが通じあうからかな……俺は、雨が降るとそのシーンを思い出すんだ。確かに雨が降ると濡れるしめんどくさいけど、雨音が音楽みたいだと思えばなんだか楽しくないか?」
雅海がほのかに笑う。
それは、いつも意地悪な感じの笑顔じゃなくて少年みたいな無邪気な笑顔だった。
ほのかはなんと言っていいのかわからなくて黙っていると、雨音が小さくなってきた。
「お、晴れそうだな」
その言葉通り、雲の切れ間から光がさす。
雲が風に流れて空が閉める割合が多くなっていく。
「……虹が出てる」
ほのかが呟いた。
「珍しい。いいもん見れたな」
雅海も空を見ながら笑う。
ほのかもいつの間にか笑っていた。
言わずもがな有名なミュージカル映画「雨に唄えば」です。ジーン・ケリーのタップはすごいですよね。