第11話 雨宿り
朝から今にも泣き出しそうな空模様だった。
低気圧でほのかの髪のハネ具合も最悪で、危うく遅刻になりかけた。
それでもなんとか、放課後まで空はもってほのかは屋上までやってきた。
しかし、絵を描き始めて10分ほどでぽつと手に冷たい滴があたった。
「うそ、このタイミングで降ってくるの?」
と言ってる間に勢いよく雨が降ってくる。
ほのかは慌てた。
描き途中の絵がが濡れてしまう。
絵具をわたわたと閉まっていると、ほのかより大きな筋張った手がほのかのスケッチ板を掴む。
「先にこれ持っていかないとダメだろうが」
雅海が屋上の扉の前の軒下まで先に運んでくれる。
「ありがとうございます」
それで行ってしまうかと思ったが、また戻ってきてもたもたと片づけているほのかの手から道具を奪って持っていってしまった。慌ててほのかもそれを追う。
軒下のコンクリートにそのまま雅海は腰下ろす。ほのかもその隣に腰を下ろした。
「あ、あのありがとうございました」
思えば、気付けば助けられたのは二度目だ。
「お前、とろいから。見てらんない」
雅海が苦笑する。いつもなら言い返すほのかも今回はばかりは頭が上がらない。
「近藤先輩って案外いい人なんですね」
そうほのかが言うと、まじまじと雅海がほのかを見た。
「……お前それ今まで俺が悪いやつに見えてたってことにならないか?」
「す、すみません。そんなつもりじゃないんです!!」
ほのかは慌てて訂正するが、もう遅い。確かによくよく考えてみれば失礼だ。
今までだって助けられたことはあるが、恨むことなどされていない。
逆恨みを反省して、ほのかが俯いてしゅんとしていると、頭に暖かいものがのせられる。
かと思うとほのかの髪を乱暴な仕草でぐしゃぐしゃと撫でた。
「はう!やめてくださいよ!今日はただでさえまとまらないんですから」
ほのかが頭を押さえながら涙目になって訴える。
「大丈夫だ、いつもと変わらん」
手ぐし一生懸命髪をと整えいたほのは、むっと睨む。
「全国くせ毛を擁護する会からクレームがきますよ。雨はくせ毛の天敵なんですから!」
「そんなもんあるのか」
「今日、発足しました」
「会員おまえだけじゃねーか」
「ストレートの先輩にはくせっ毛の悩みなんてわからないんですよ。なんですか!そのおしゃれカットは!!美容室に行って『このヘアモデルさんみたいにしてください』って言って苦笑される人の気持ちも考えてください!」
「おしゃれカットってなんだよ。これはアネキに実験台にされてるだけだし……」
「お兄さんしかいないんじゃないですか?」
「……なんで、んなこと知ってるんだよ。兄貴の嫁さんが義姉貴、美容師だから俺は実験台にされてんの」
「へえ、無料でそんなおしゃれカットなんですか!?」
「まあ、そうだけど……いやに髪にこだわるな」
「そんな、ずるい!今日から全国くせ毛を擁護する会から苦情の電話が殺到ですよ!」
「お前、いたずら電話すんなよ。でも、ま」
すっとほのかのほうに手が延ばされる。
「俺はお前の髪嫌いじゃないけどな」
「へ?」
ほのかが言葉の意味を理解する前に、またぐしゃぐしゃとされる。
「ちょっとやめてください!」
ほのかは男の子にそんなことを言われたのははじめてだ。頬が熱くなったのを感じて顔を上げられない。