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第10話 彼と私の関係、ときどき夕焼け

 ほのかは屋上入口の踊り場にいた。

 今日は火曜日、部活である。手にはスケッチ板と画用紙、あと絵の具や筆など一式。

「う~今日も近藤先輩はいるのだろうか……」

 綾からいろいろ話を聞いしまった今、ほのかの心境としては開けづらい、非常に開けづらかった。

 しかし、この前のスケッチのときは、結局あの後日が暮れてしまい途中である。

 決して描くのが速くないないほのか、7月はもうすぐである。おまけに梅雨で雨が多い中、屋上で描ける日は少ない。今の時間は貴重である。

「おい、なにうんうん唸ってんだ?」

 いつまにやらポケットに両手をつっこんだ雅海が真後ろに立ってほのかを見下ろしている。

「はう!いつのまに!!先輩は忍者ですか!?」

「忍者っておまえ……普通に歩いてきたんだが……んで、入らないのか?」

 ほのかの意識が屋上に向いていたため、後方の足音に丸っきり気付かなかったらしい。

「は、入りますよ!」

 慌ててほのかは鍵をポケットから出そうとするが、両手に荷物があるためままならない。

 呆れたように雅海が息をつくと、すっとベルトにつないだ鎖についている鍵を使ってさっさと開けてしまった。       

「ほれ」

 雅海は先に屋上に出ると、ほのかの両手がふさがっているのに気を使ってか開けて待っててくれる。

「……ありがとうございます」

「おまえ、ほっとくとまた転ぶからな」

 ふっと雅海に笑われるが、ほのかは言い返せない。


 昼寝スポットと言っていたのは本当らしく、ほのかが屋上に出ると何も言わず雅海は入口の右側の壁を背にして目をつぶる。耳にはイヤフォン、携帯音楽プレーヤーを手にしている。

 ほのかの存在など気にしていないようだ。

 そのほうがほのかも気が楽だ。ほのかも気にせず自分の作業をすることにした。

 もう6月も後半である。昼間には汗をかくほど暑い日も多くなっていた。日の入りの時刻も遅くなっていて4時過ぎの今はまだまだ明るい。

 高台の上にあるここは初夏の風が心地よい。

 

「まだやんのか?暗くなるぞ」

「へ、もうこんな時間!?」

 作業に集中していて気付かなかったが、太陽が斜めに差し掛かり日暮れ間近だ。

 西の空が紅色ひいろに染まってきている。

 慌ててほのかは絵具やらを片づけ始めた。

「クッ、お前本当に動きが小動物みたいだな。そんな焦んなくても大丈夫だろ」

 雅海はどんと近くに腰を下ろすと両手を後ろについて西の山を眺める。

 彼のリラックスした様子に、ほのかもなんだか気が抜けて手を止めて同じ方角をみた。

「俺、この時間の景色が好きなんだ」

 ぼそっと呟いた雅海の言葉にほのかは彼の顔をみる。

 その顔はほのかにいじわるそうに笑うのとは違って穏やかな微笑みが浮かんでいる。

 山を街も夕焼け色に染まって先ほどほのかが描いていた絵はまるで違う色彩になっていく。

 雅海の明るい色の髪も同じ色に染まってオレンジ色に輝いている。

「なにぼーっとしてんだよ」

 雅海にデコピンされて、ほのかが我に返る。いつの間にやら景色に魅入っていたらしい。

「ボケた顔してっともっとボケになんぞ」

 意地悪くにやっと笑って雅海は屋上の扉を出て行った。

「ほんとに痛いですよ!!」

 おでこをおさえながら、ほのかは一人叫んでいた。



 ほのかが放課後絵を描きに屋上に行くと大体先に雅海はいた。

 入口の左側の壁が彼の定位置のようで、そこでいつものんびり目をつぶって音楽を聴いている。

 本人に言ったら怒られそうだが、外でくつろぐ様子はなんだか日向ぼっこする猫のようだ、とほのかは思う。

 いつのまにやら雅海に対する怖いとかそういう気持ちが消えていて(いじわるであるという認識は消えていないが)ほのかが屋上に行くと視線はふっとやるが無言である。

 一応ほのかはぺこっと頭を下げていく。それに対する反応はないが、拒絶するような感じもなくてびくびくせずに作業することができた。

 ほのか自身も集中すると周りが見えなくなるタイプなので、お互い存在は認識しているけど干渉しない。

 なんだか不思議な関係だな、とほのかは思う。

 普通の先輩後輩でもない。ましてや友達でもない。ただの知りあいというのもちょっと違う気がした。         

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