第1話 憂鬱な雨模様
同じような毎日。
毎日同じ時間に家を出て、ホームの同じ位置で電車を待ち、同じ時刻の電車に乗る。
同じ時刻ならばやはり顔ぶれも見知ったものとなる。
「まもなく次の電車が参ります……」
アナウンスが流れた。
日本の電車の時刻表は正確だ。
ほのかが乗るのは毎朝7時23分の電車。朝から疲れた顔をしたサラリーマン、いつも化粧をばっちり決めたOLさん、同じ濃紺のブレザーを着た男子高校生……桜ケ丘高校1年の東条ほのかは古文の教科書であくびを隠した。
今日は古文の小テストなのだ。
入学して2カ月して高校生活にも慣れてきたせいもあってか、いや中学の3年生の受験勉強から解放された喜びからか勉強もおざなりになる。
というわけでほのかは朝から慌てて勉強をしている口だ。
「ふあ……未然連用終止連体已然命令……こんなの将来何の役に立つんだ」
学生の時分だれしも思う疑問である。
ホームは屋根があるが、線路の砂利は雨で黒光りしている。ほのかも落ち着いた赤の傘を教科書を持つ腕にかけており、傘から落ちる滴がコンクリートにしみをつくる。
ほのかは梅雨が嫌いだ。
小さなころから髪が他の子たちより少し茶色みがかっており、猫っ毛で肩まで伸ばした髪はふんわりウェーブがかかっている。
友達にうらやましがられることもあるが、厳しい先生に目をつけられるし、さらにこの季節は髪が思うようにまとまってくれない。
4月にはおろしたてだったブレザーも、2か月たった今は色あせて湿気で重く感じる。
電車に乗ったときなどの密閉空間でのあのなんとも言えないすえた匂いも耐えられない。
とは行ってもそんな理由で学校に行かないというわけにもいかないので甘受するしかないのだが……そんな理由でほのかは梅雨が嫌いだった。
スピードを落としながら電車がホームへ滑り込む。
目の前に電車のガラス窓から見える乗車客の風景が目にもとまらぬ速さで流れ、やがてだんだん視覚できるようになってくると、ホームにひかれたドアの停車ラインにきちんと止まる。
入口の左右に人の列ができ、電車から人が吐きだされた。
ふと、ほのかは視線を感じる。
周りを見渡せど、誰もかれも自分の進行方向や下を向き改札へ向かう階段へ行く人が目の前を流れていくのみだ。
人の波が過ぎ、電車に乗り込んだとき同じ高校の男子学生と目が合う。
といっても一瞬のことで男子学生は自然に視線をそらされ車内を巡った後窓の外に視線は向けられた。