恋です。9話
飯塚は高校2年生になった。クラス替えをした新しい環境で、飯塚は少しソワソワしていた。その理由は、進級後も隣の席に座る藤川の存在だった。
藤川「飯塚、いたんだ」
飯塚「おう」
今日の藤川は冷たい藤川だ。眼鏡をかけて清楚でクールな表情。飯塚は、冷たい藤川を前にすると、いつかのように厳しく叱られたいと言う欲求にかられてしまう。
飯塚(心の声)「そのツンとした表情も可愛い!」
飯塚はこの日から、藤川に告白する計画を立て始めた。問題としては、おそらく藤川は定期的に性格が変わる所。飯塚は全ての藤川に認めてもらう、男の告白を考えていた。
・・・
4月。男、飯塚による藤川告白計画が始動した。飯塚は、隣に座る藤川の様子を伺う。どうやら今日は冷たい藤川のようだ。写真部は今日定休日で学校終わりは空いている。おそらく、藤川は部活に所属していないので、この後の予定が無いことを願って話し掛けた。
飯塚「なぁ藤川、、学校終わったら何か予定あるの?」
藤川「は?あったら何なの?」
飯塚「あったら申し訳ない。もし、なければ、帰りに近くのバッティングセンターで遊んでいかないかなって?」
藤川「飯塚が私に何誘ってんの?」
飯塚「バット振るとスカッとするよー」
藤川「、、別に、良いけど。、、でも私やらないから。見てるだけだよ」
飯塚「良いの!?よし!じゃあ、放課後駐輪場で!」
飯塚は藤川には見えないようにガッツポーズをした。そして放課後、駐輪場で待ち合わせをした飯塚と藤川は自転車で近くにあるバッティングセンターに向かう。外には道路沿いに咲く桜の花びらが、ひらひらと散り始めていた。春風と共に桜の香りが2人の嗅覚を刺激する。3分程でバッティングセンターに到着すると、飯塚は両替機で千円札を3枚投入し、30枚の100円玉に両替し小さいザルへ入れた。飯塚はバッティングコーナーの2番のブースに入り、100円の入ったザルを投入機の上に置いた。
藤川「飯塚、あんた写真部だよね。どうせ運動オンチだから文化部選んだんでしょ」
飯塚「藤川、文化部に失礼だぞ。俺が証明するよ、写真部でも運動神経抜群だって」
藤川「はいはい」
飯塚はバットを選び、素振りを数回した後に藤川の方に近づいた。
飯塚「藤川、俺があそこにある丸いホームランボードに一発でも当てることが出来たら」
藤川「出来たら?」
飯塚「俺と付き合って下さい」
藤川「本当に?」
飯塚「初めて藤川と会ったとき、最初は冷たい奴だなって思ってた。だけど、藤川の根っこにある優しい部分がふと見えた時。藤川は、ちゃんと相手を思って言っているって事がわかったんだ。そう言う不器用な所が好きなんだ!」
藤川「何よ、急にこんな所で」
飯塚「だから、俺がホームランを打ったら、藤川の彼氏として認めてくれよ」
藤川「、、、、良いわよ。やってみなさいよ」
飯塚「よし!」
飯塚は、お金投入口に100円を入れた。急速は100キロ、投げられる球の高さは投入機のボタンで調整できる仕組みだ。飯塚はバッターボックスに立ち、ピッチングマシーンを見つめる。
・・・
飯塚がホームランを狙い続けて1時間。未だにホームランボードに当たりは無い。外の景色は夕焼け色に変わっていた。投入機の上に置かれたザルの中の100円玉は、半分以上使い終わっていた。
飯塚「ああぁ、腕がキツいな」
一度バットを置き、バッティングコーナーの側にある自販機でスポーツドリンクを買った。
藤川「威勢が良いのは最初だけね。全然当たらないじゃない」
飯塚はスポーツドリンクをゴクゴクと半分まで飲む。
飯塚「ふー!、まだまだ!これからが勝負所なんだよ」
そう言って、再び飯塚はバッターボックスに向かう。その後も挑戦を続ける飯塚。汗でYシャツの背中が透けてきていた。飯塚の手は、バットのグリップを強く握ったせいかマメが3ヵ所も出来ていた。まもなく、日が暮れようとする頃、バッティングセンターの照明が点灯した。
飯塚「これで、最後か」
カチャン
飯塚はザルから取った最後の100円玉を投入した。残されたチャンスは15球。飯塚は大きく深呼吸をした。そしてピッチングマシーンを鋭い眼光で睨み付ける。
藤川「なーんでそこまでして、がむしゃらになれるのかしら。そんなに私の事が好きなの?」
飯塚「男が本気になる時はな、全身全霊の力を込めて戦いに挑むんだよ!」
飯塚はピッチングマシーンから投げられた球を完全に目で捉えた。それは、球の縫い目がはっきりと見えるほどに。
キンッ!
金属バットがボールに当たり、高い音が鳴った。飯塚が打った白いボールがぐんぐんとセンター方向へと伸びて行く。
飯塚「頼む」
ボンッ
ホームランボードに飯塚の打球が命中した。すると、ボードがレトロな照明を放ち簡易的な音楽がバッティングセンターに響いた。それを見て藤川は、自販機で炭酸ジュースを1本買っていた。
飯塚はバッターボックスに大の字で倒れこんだ。そこに、藤川が顔を覗かせて現れた。
飯塚「冷て!」
藤川「これで手冷やして。手真っ赤だよ」
藤川は缶に入った炭酸ジュースを飯塚の頬にくっ付けた。
飯塚「ありがと」
藤川「よく頑張ったわね。私も好きよ、がむしゃらになって生きている人。ちょっと汗くさいけど。、、飯塚。私の彼氏にしてあげる」
飯塚「やったーー」
その後、飯塚の姿を見て藤川もバットを振りたくなったと言い、飯塚はしばらく藤川のバッティングをニヤニヤしながら見ていた。
・・・
その翌日。朝の天気を確認した飯塚は、母親の協力を一切受けずに、手作り弁当を作り始めた。予想以上に時間がかかり、学校を遅刻した飯塚だったが、自信満々で教室に入った。
♪~♪~♪~♪~
お昼休みが始まるチャイムが鳴る。飯塚は、隣の席に座る藤川にさりげなくカバンから出したお弁当を渡す。
飯塚「藤川、これ。朝、俺が作った弁当なんだけど、この間のお返し。まだしてなかっから」
飯塚の隣に座っているのは、ギャルの姿をした藤川だった。
藤川「え?この間のってかなり前じゃん!うける(笑)。何でお弁当なんか作ってんの?私、自分のお弁当あるし」
飯塚「良いから、こっち先に食べて。藤川のやつは、帰ったら食べれば良いじゃん」
藤川「まぁ良いけど。飯塚が作ったお弁当ちょっと気になるし。じゃ!いただきまーす!」
そう言って藤川は、飯塚からお弁当を受け取り友達と教室を出ていった。
・・・
藤川は校舎の中庭で、友達といつも座るベンチに座り、飯塚からもらったお弁当を膝の上に置いた。藤川は青い風呂敷に包まれたお弁当を開けてゆく。
パカッ
藤川がお弁当の蓋を開けると、そこには白いご飯がびっしりと詰められており、その上には桜でんぶで作られた´´藤川が大好き´´の文字が現れた。
藤川「あ!、、好き!」
その翌日。飯塚は、お昼休みにギャル藤川から大きなサンドイッチをもらった。そのサンドイッチの白い食パン部分には、´´アイラブイイズカ´´と刻印されていた。
飯塚「おっほぉおーー。成功した!」
飯塚は大口を開けてサンドイッチにかぶりついた。