2-1 兄に会ったなら ※
【2-1 兄に会ったなら ※】
結局、不死にダンスを教えて貰って3年。止まった時の中で、俺は彼女曰く「アイドルになれる」と言われるレベルに上達したのである。そして、彼女は俺のファン一号になったらしい。
「まだアイドルにもなってないのですが」
「それもそうだった☆ でもイイ感じな感じ」
最近ようやく分かったのだが、本来は語尾に星が舞うような話し方をするらしく、やっと本来の話し方になってくれた☆ のである。
中学二年生な彼女と俺はすっかり仲良くなったのてある。
~~♪
俺の携帯が鳴る。不死は驚いた顔で俺の肩を叩いた。あぁ、音が鳴るなんておかしい。私が出るよ、と俺の返事も聞かずに携帯を奪われる。
「もしもし? 」
『なんでそんな所にいるんだ!早く帰れ! 』
携帯のスピーカーから怒鳴り声が漏れる。不死は思わず携帯を落とした。
「ゴメン、夕ちゃん」
謝る彼女の手は震える。気にするなと返した俺は、携帯から漏れる音……怒鳴り声の人が俺達に話しかけ続けている事に気づいた。
(先程とは穏やかな声がする気がする)
俺は思いきって携帯を取った。
『もしもし? 不死さん? 怒鳴り声でかけてすみません。ですが、こうしないと繋がらないんです』
「なんか聞いた事ある声だな」
どこだっけ、と思わず呟いた俺に、『私ですよ、夕さん』と怒鳴り声……今では普通の音量だが、通話相手は話しかけてくる。通話相手が誰か思い出せずに悩んでいると、震えていた筈の不死が、俺に携帯を寄越せとジェスチャーをする。心配だったので、スピーカーに変えることにした。
もしもし? 都市くん? と携帯に向かって話しかけた彼女を見て、ようやく思い出す。
そうだ、俺の兄だ。
「そうです、貴方の兄ですよ」
コツリ、と気持ちよい音が後ろから鳴る。思わず二人で振り替えれば、後ろには兄がいた。
「何か異変を感じたので調べたら、まさか夕さんが貴女に巻き込まれているとは」
「私もこうなるとは思わなかった、ゴメンね夕ちゃん」
「俺は納得してるし気にしなくていいよ、不死」
ありがと☆ という彼女は、とはいえ都市くんもゴメン、キミの大事な弟だもんね、と俺らに再び謝る。
「いや、私は兄である私より不死さんと夕さんが仲良さげな感じなのが気になるのですが」
それは3年も一緒にいたらそうなるだろ? と不死と頷く。ぶっちゃけ兄が出来た事も忘れかけてたくらいである。暁の事だとかも。3年って怖い。
これが激おこぷんぷんというヤツですね、と勝手に納得し始めた兄に呼び掛ける。
「というかどうやって兄さんはここまで? 」
「少し『都市伝説』を使っただけですよ。ところで、不死さん。弟は連れて帰ってもよろしいでしょうか?ですが、もし考えが変わったなら、 貴女に渡した商品も返品はいつでも受け付けてますので」
やはり貴女も、と続けようとした兄に不死は「大丈夫☆」と返す。
商品というのは、恐らく【貴方が生きたかった時間】という事だろう。
つまり兄は……
「はい、私は都市伝説をお譲りしています」
「そうそう、都市くんから貰ったんだよね」
そういう事らしい。
拝啓略略でざっくり言うと、俺の兄になった都市 かたり は都市伝説を他人に付与できる存在らしい。
兄からすると、都市伝説は固形に見え、掴めるそうだ。
世の中には、怪談だとかそういった物が多い。兄のモットーは『正しい所に正しく都市伝説を』だそうで、不死さんは自身が受け取った都市伝説を【貴方が生きたかった時間】と解釈していたが、本当はもっと恐ろしいモノらしい……というのは、都市伝説から、正式名称とざっくりとした説明しか兄は見えないそうだ。
「この都市伝説との適性が、不死さんには高く、更に貴女の心に合わせて、都市伝説は変化した。別の人に行ったならば……と考えると恐ろしいです」
変化しなくても、不死さんは見たものを忘れないので対策はできたでしょうが、と兄は締め括った。
ちなみに、不死の都市伝説はボタンの形をしていたらしい。
「都市くんのおかげで、私の人生良くなったよ。さっきの怒鳴り声は驚いたけど」
「さっき、【都市伝説】を使ったって言ったけど何の都市伝説だったんだ? 」
「アレを使った時は、自身の年齢がぐんと上がった気がしました」
不思議な感覚でしたね、と続ける兄はまともに答えてくれないようなので、詳しく聞く事は諦めた。別の話題を出す事にする。
「そういえば、兄さんの怒鳴り声に驚いてたけど、今は大丈夫か? 」
震えてる姿が印象的だった。芸能人はファンが命だから、をモットーにする不死はファンの前でも、誰の前でも不安な表情を見せないようにしているらしい。それが崩れた。
「いやー、今は大丈夫だよ☆昔のトラウマがねー。都市くんには何だかんだで話したことなかったよね」
「ええ、恐ろしい出来事があったとしか」
「昔にさ、今みたいに時間が止まったみたいな出来事が起こったの」
時間が止まった状態に不死は適性が高かったのでは、と聞けば、「空は真っ赤☆で人も誰も居なかったんだよー」
幼稚園生の時の出来事だぜ☆そんなの怖いよねー、と不死は当時の事を語り始める。
その時に自身は持ってなかった筈の携帯電話を所持していたらしい。そして、その電話から着信があったと。
「その携帯から『なんでこんなとこに来たんだ! 』って怒鳴り声がしたら、元の時間? に戻ってた」
いい人だと思うんだけど、幼稚園児からしたら怖いよねー、だから都市くんから電話かかってきた時にビックリしちゃった、と不死は肩をすくめた。
「それは申し訳ない事をしましたね」
「じゃないと、夕くん迎えに来れなかったんでしょ。まぁ今ではあの時があったからこの不思議空間に慣れてるんじゃないかなと思う」
「なるほど」
ふと兄を見たら、考え込むような仕草をしていた。
「不死さん、貴女は都市伝説の本体にあったんでしょうね」
先程、私が使った【都市伝説】ですが、『異世界に迷い混んだ人を連れ戻す』効果があるのです。
これです、と兄がか鞄から取り出した。兄が取り出したのは古びた台本のようなもの。
「この通りに読み上げると、効果が発揮されるんです」
「けど☆私に話しかけてきた人は都市くんとは違った言い方だったよ」
「貴女が出会ったのは本体ですからね。多少の違いがあっても都市伝説としての効果が出るんでしょう」
「私は幼い頃から都市伝説に出会ってたのかぁ」
1つ新しい発見だった☆と不死は頷いた。
「新しい事が分かった事だし、初めの話題に戻るけど、夕ちゃんは連れて帰ってもいいよ。私はいつも通り過ごすだけだし」
「承知しました」
それでは夕さん帰りましょうか、兄の声に頷く。
「不死」
「明日の私によろしくね」
すぐに追い付くから、とニッコリと笑った。
元の時間に戻るには、また携帯を使うようで、俺の視界はぐにゃりと曲がった。