1-2 誰かが生きたかった時間を過ごすなら!
【1-2 誰かの生きたかった時間を過ごすなら!】
「うーむ、誰かに会う事なんて大体なかったんだけど」
なんか飲む?って言っても気持ちみたいなもんだけどさ、と彼女は缶を俺に寄越した。
「確かにお腹減らないですからね、とはいえ受け取っておきます」と俺はプルタブをあけた。
「弟クンさ、大丈夫なの? 」
「時間が止まっている状態にですか? 」
「そうそう、後、なんでこんな事になってるのかも知りたくない? 」
「それもそうだな」
では、この時間が何なのか解説しようか!と彼女のファンならよく知っているのだという言葉から説明が始まった。
「昔からさ、見たものを忘れないんだよね。子どもの時からそんな感じだったんだけど、ある時に物凄く怖い事に会ってね。忘れられないからどうしようかなって時にさ」
この能力? を貰ったんだよね。彼曰く『都市伝説』っていうモノらしいんだけど。この時間が止まった世界は、『誰かが生きたかった時間』なの。1日に世界中の誰かが、予期せぬ死に方をしたとして、その人が本来生きれた時間ってのがあるよね。その時間を過ごすのが私の役目。こんなに時間があったら、さすがに怖い事も忘れられたよ。
「私の能力に巻き込まれちゃったみたいね、キミ。今日の終わりでキミは帰れるといいんだけど」
不安げな彼女に「なら、その時はダンスでも教えて下さい」とお願いする。そして、ふと思った。
「予期せぬ死に方……それって自殺とかも含まれるんですか」
もしかしたら、彼女がアイドルという職業に就いた理由が分かったかもしれない。
「そうそう。だから私が明日を与えられるようにってコトだ」
芸能人はファンが命だからね!と笑う彼女に、暁が言っていた不死 美依律は「笑顔が超かわいい」という言葉を思い出す。
「確かに笑顔が可愛いですね」
「昔はぶきっちょだったんだけどねぇ」
うんうんっていう彼女は「あっ」と声をあげる。
「いや、私は慣れてるけど。キミ、後10年くらいこのまんまだよ? 」
「あ、そうでしたね」
お詫びとしてキミの事、一生養ってあげる! と意気込む彼女に丁寧にお断りをした。