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1-1 アイドルに会ったなら

【1-1 アイドルに会ったなら】


両親から捨てられたという悲劇から始まる俺の人生は、なんだかんだで悪くは無かった。


……というのは、保護施設にいた頃に、偶然道端で助けたおばあさんとその旦那さんによくして貰い、昨日そのおばあさんの息子が俺を引き取ってくれたのである。


「水を差すようで悪いけどさー、そのおばさんは、お前の事を引き取ってはくれなかったの? 」


十分好い人だとは思うけどさ、とこちらを伺うように暁が言う。

ピカピカの中学一年生になった4月、席が隣になった暁と俺は、入学早々つるむ仲となり、ファミリーレストラン行くことになった。それで、身の上話となったわけだ。


「保護児童は中途半端な気持ちで引き取る事は難しい。それなりに考える事があるだろ。俺としては金と生活必需品を貰えてるからそれでよかった。今では正式な保護者代わりの兄もいるし」

「分かる、金は大事」


 俺と暁は金に関して意見がよく合う。

というのも入学早々、俺達はクラスのB子と衝突した。


 議題は【不細工な顔をどうにかするには】についてである。俺達は皮膚科に行き顔の土台を作り、整形するべきという説を打ち立て、とある会社の息子である暁により、完璧な主張ができた。対するB子は、彼女自身のメイク技術を元に主張したのである。席にて本を読んでいた男子(顔は普通である)を取っ捕まえ、誰から見ても女子に見えるようメイクしたB子のアピールは、敵ながらあっぱれである。

 結局、皮膚科と整形は正義だが、B子はメイクアップアーティストになり世界を救うべきという結論になった。

ちなみに、後日メイクされた男子は別クラスの男子から告白されたそうだ。

という回想はおいといて、現在に戻る。保護者代わりの兄ができた話だった。


「というわけだ。悪いが、もうすぐ兄がここまで迎えに来てくれるらしい」

「どんなお兄さんなの? 」

「そうだな、なんというか……」


どう暁に返そうか言葉選びに迷っていると、「夕さん、迎えに来ましたよ」と後ろから声をかけられる。兄さんを見て、暁は「正統派セールスマン、参考チェックリストに入れとかないと」とブツブツ言い始めた。


「夕さんのお友だちですね。私は都市 かたり と申します。夕さんの兄です」


ニコリと笑う兄は、暁の言う通りで万人が好みそうなセールスマンの様な人である。

俺は暁 繋です。あのツナギの社長の息子って言ったらよく通じるんですけど、勿論知ってますよ、と二人の会話は弾んでいるようだ。その間に俺はトレーを返却口に戻しに行く。 

ドンッ


「あっ、ゴメンね」


この店は通路が狭く、仕方ない。俺にぶつかってきた女の子は謝ってきた。ご心配なく、と返し、俺はトレーも返した。席へ戻ろうとすると、先程の女の子が目の前に立ち止まっている。


「寄越してくれたら俺が返すぞ」


彼女が手に持っている空っぽの飲み物、きっとこれを返したかったのだろう。だが違ったようで彼女は首を降った。


「キミに聞きたい事があってさ、都市さんの新しく出来た弟くんってキミなのかなってさ」


さっきあそこの席にいたよね、と女の子は暁と兄のいる席を指差す。肯定すると、なるほどなー、と彼女は首上下に振る。兄の知り合い?と聞くと「キミの兄さんの仕事の顧客みたいな? 」と疑問系で返された。


「それだけ聞きたかったのさ、邪魔してごめんね」


と彼女は俺に背を向ける。


「おい、ゴミは」

「ここからでも届くもーん」


彼女が片手で投げた空っぽのカップは、カンっと綺麗な音をたてゴミ箱に収まっていった。

ようやく席に戻ると、暁が何やら興奮した様子で俺に話しかけてくる。

「夕! お前が話した女の子、『不死 美依律』じゃん」


サイン貰っとけば、一生その話で人付き合いできるぜ、と暁は言った。サインを売ると言わない辺りに好ましさを感じる。

で、それであの人は何なんだと聞けば、「アイドルですよ」と兄が教えてくれた。


「圧倒的完璧系アイドルだぜ、陛下とかファンから呼ばれてるんだよな。いろんな所に出演してて練習時間すらない筈なのに新しい曲もこなすんだってさ」


ってのが今週の雑誌に書いてあった、と暁は鞄から取り出す。そのページを見せてくれるようで、俺はそれを待つ。


……

………


「いや、早く見せろ」


暁、と声をかけようとして、俺は違和感に気づく。


暁も兄も周りの人達も止まっているのである。


「止まっているのは人だけではなく、時間か」


 腕時計を見ると、丁度12時、そして針は進まない。本当に時間が止まっているのか確認する事にする。

試しに暁の前髪を上げてみた。コイツの前髪は鉄壁で何が起こってもおでこが見えないのである。例えば強風の中のサッカーだとかでも。という訳で前髪を上げてみたがいいが、暁は微動だにしない。


「本当に止まっているのか」


充電が減らない携帯を片手に、俺はファミリーレストランから出る事にした。自身の体内時計を頼りに、時が止まった世界を歩く事にする。


歩いて歩いて歩いて、1日、5日、30日。

何日たっても時が進まない世界に対して焦りを感じる。根っからのアルバイト戦士としては、お金を得ない日は歯がゆいのである。俺がしているアルバイトについては黙秘させて貰おう。中学生は秘密が多いんだ。


3ヵ月かけて北海道へ行ってみたり、道路に寝っ転がったりした俺は、時間が止まる前の事を思い出した。


「アイドルの話をしていたんだった」


 そう思い出した俺は、今となっては昔の記憶となるファミリーレストランに近い公園へ向かう。

ここの公園には何故だが知らないが、ステージみたいな物が置いてあるのである。

並木を抜け、例の公園に辿り着いた。


目の前に見えるは、例のステージもどきと懐かしいと思える人である。素人目にも楽しく踊っていると分かる。


踊っている?


自身以外の時間が止まった世界で初めて出会った動く人物。


「あれ?弟クンだよね? 」


ピンクの髪色な彼女は長い髪を撫でながら俺を見つめる。


これが「貴方が生きたかった時間」を持つ不死 美依律との出会いである。


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